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垣田達哉「もうダマされない」

日清、異例の「3年後までにカップヌードル減塩」宣言に秘められた「警告」?

文=垣田達哉/消費者問題研究所代表
日清、異例の「3年後までにカップヌードル減塩」宣言に秘められた「警告」?の画像1日清カップヌードル(「Amazon HP」より)

 12月中旬、日清食品が「減塩カップヌードルを開発している」というニュースが流れた。健康志向の高まっている市場に対応するため、カップヌードル1個当たり15%の減塩を目指すという。現在、1個当たりの食塩相当量は4.8gとなっている。

 減塩志向の高まりは、今に始まったわけではない。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、食塩相当量の1日当たりの目標摂取量が、2005年版では男性10g未満、女性8g未満だった。それが、10年版では男性9g未満、女性7.5g未満。そして直近の15年版では男性8g未満、女性7g未満になった(年齢はいずれも男性12歳以上、女性10歳以上)。政府は7年前から減塩を推奨している。

 一方、日本高血圧学会は男女とも1日6g未満、世界保健機関(WHO)は男女とも5g未満を推奨。厚労省よりかなり低めに設定している。

 では、なぜ今、日清は減塩カップヌードルを開発するのか。どうしてターゲットが2020年なのか。

 日清食品ホールディングス広報部は、当サイトの取材に対し次のように回答を寄せた。

「弊社としては公式発表はしておりませんが、15%の減塩に向かって開発に取り組んでいるのは事実です。また、現時点で具体的に公表できる情報はございません」

食品表示法

日清、異例の「3年後までにカップヌードル減塩」宣言に秘められた「警告」?の画像2『一冊で分かる食品表示』(垣田達哉/商業界)

 筆者は、法改正に大きな要因があると考えている。2015年4月に施行された食品表示法では、加工食品の栄養表示(栄養成分と熱量の表示)の全面義務化が定められた(小規模事業者と店内加工品は除く)。さらに、栄養成分表示で義務付けられていたナトリウムの含有量が、食塩相当量(塩分)に変更になった。些細な変更のように思えるが、こんなことでも消費者の購買行動に大きな変化をもたらす。

 食塩は塩化ナトリウムのことであり、化学式はNaclだ。ナトリウムは食塩(塩分)の一部だが、よくわからない消費者も多い。ナトリウムの含有量×2.54倍が食塩相当量になる。しかし、それを知っていたとしても、商品を買う時にいちいち塩分に換算する消費者は少ない。それが、これから食塩相当量=塩分がダイレクトに表示される。塩分が多い商品かどうかが一目でわかるようになるのだ。しかも、ナトリウムは単位が㎎だったが、食塩相当量はgになる。塩分量が、ますますわかりやすくなる。

 日本の多くの消費者は、表示されていると気にするが、表示されていないと気にしない。ナトリウムだとなんのことかわからないので気にしないが、食塩相当量なら塩分だとわかるから気にする消費者が増える。気にすれば、塩分が低い商品を選ぶ。塩分が高い商品は売れなくなる。高塩分の代表格であるカップ麺も、減塩しないと売れないということだ。

消費者の変化必至

 では、なぜ今ではなく、3年以上先の20年を目安にしているかといえば、15年4月に施行された食品表示法の猶予期間が20年3月末までだからだ。20年4月から製造される加工食品は、すべて新表示になる。東京五輪の時には、ほとんどの加工食品が新表示になっている。

 食品表示法以前は、栄養成分や熱量(カロリー)に関する表示をする場合のみ、栄養表示が義務付けられていた。大手メーカーの加工食品には、栄養表示がされている商品が多いが、そのほとんどが義務付けられた表示ではなく、消費者サービスとして表示している。サービス表示といっても、売上が伸びるからこそ表示をしている。栄養成分を気にして選ぶ消費者がいるから、カロリーや塩分を表示すると商品の付加価値が上がるのだ。

 栄養表示は、表面積が30平方センチメートルより大きい容器包装された加工食品に義務付けられる。このサイズはかなり大きいと感じるかもしれないが、5×6センチメートルの包装紙で包んだ商品になる。目安としては、サイコロキャラメルよりも大きい商品が栄養表示の対象となる。

 栄養表示があまりされていない商品の代表は、和菓子・洋菓子だ。饅頭を1個だけ包んで売っていることもある。当然20年以降は栄養表示が必須になる。同じような饅頭が2種類店頭に並んでいれば、消費者は裏返してカロリーを比較して低いほうを買うことができる。複数のコンビニエンスストアチェーンに同じようなイチゴのショートケーキがあれば、表示されているカロリーを比較して低いほうを選ぶことができる。

 和菓子・洋菓子のほか、「おにぎり」「寿司」「弁当・惣菜」などにも表示が必要になる。コンビニでは、すでに多くの商品に栄養表示がされているが、スーパーマーケットでは、意外と少ない。その他、表示対象となる「塩サケ」「シラス干し」「干物」「タレ付き肉」など、販売されている加工食品のアイテムが非常に多く、まだ栄養表示が進んでいない。

 消費者庁は、容器包装された加工食品の9割には栄養表示がされると予測している。コンビニだけでなく、スーパーマーケットでも、ほとんどの商品に栄養表示がされてくると、否が応でも消費者の目には栄養表示が飛び込んでくる。

秘密にしておきたい販売戦略公表の理由

 栄養表示が軒並み実施されれば、消費者はどうしてもカロリーや栄養成分を気にしてしまう。5年ごとに発表される「日本人の食事摂取基準」の次回発表は、20年である。おそらく、食塩の摂取目標量はさらに低くなるだろう。

 20年から完全実施される食品表示法は、健康志向を増幅させる契機になる。減塩はもちろん、低カロリー商品も、今まで以上に付加価値が上がるだろう。

 しかし、本来秘密にしておきたい付加価値商品の開発・販売戦略を、3年前に公表するというのは珍しい。カップ麺の第一人者と自負している日清は、業界全体に減塩志向を定着させ、「カップ麺は高塩分・高カロリー」というイメージを覆したいのだろう。あるいは「これからは、塩分の高いカップ麺をつくっても売れませんよ」と、業界に警告しているのかもしれない。

 食品表示法は、単に表示基準が変更になっただけというものではなく、消費者の購買行動に大きな変化をもたらすことになるだろう。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)

垣田達哉/消費者問題研究所代表、食品問題評論家

垣田達哉/消費者問題研究所代表、食品問題評論家

1953年岐阜市生まれ。77年慶應義塾大学商学部卒業。食品問題のプロフェッショナル。放射能汚染、中国食品、O157、鳥インフルエンザ問題などの食の安全や、食育、食品表示問題の第一人者として、テレビ、新聞、雑誌、講演などで活躍する。『ビートたけしのTVタックル』『世界一受けたい授業』『クローズアップ現代』など、テレビでもおなじみの食の安全の探求者。新刊『面白いほどよくわかる「食品表示」』(商業界)、『選ぶならこっち!』(WAVE出版)、『買ってはいけない4~7』(金曜日)など著書多数。

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