鳥取県といえば何を思い浮かべるだろうか。
鳥取砂丘、二十一世紀梨、水木しげるロードなど観光名所はある。だが、「移住するとなると…」と思うこともあるかもしれない。
しかし近年、移住先としての鳥取県人気が高まっているという。鳥取県が公開しているデータによれば、平成27年度は過去最高の1952人。平成25年度が962人、平成26年度が1246人と2年前と比較してほぼ倍になっている。
住んでみたい田舎として注目を浴びる鳥取県。自治体は一体どんな戦略をしかけたのか?
『小さくても勝てる 「砂丘の国」のポジティブ戦略』(平井伸治著、中央公論新社刊)は、鳥取県知事の平井伸治氏が、日本一人口が少ない県が実践する「鳥取型民主主義」を紹介した一冊だ。
鳥取県の人口は、都道府県の中で最も少ない56万8000人(2017年1月)。これは、東京都世田谷区や練馬区よりも少ない。1人あたりの県民所得も234万円で、全都道府県中46位。県内総生産も1兆8千億円で同47位(2013年現在)だ。
平井氏は2007年に県知事に就任。鳥取の魅力を磨き、鳥取に移住する人の数を増やすため、積極的に動きはじめる。人口を増やすために平井氏が考えたことは、「ない」を評価してもらうことだった。
■「ない」からこそ…! 評価してもらうポジティブ戦略
鳥取には、豊かな自然とゆったり流れる時間がある。また、人も優しく、絆も強い。隣近所の人とのつながりがうまく機能していれば、子どもも育てやすいし、高齢者も安心して暮らせる。そういう鳥取の良さを伝えれば、分かってくれると平井氏は思ったのだ。
これは、「ない」ということを評価してもらうことでもある。
つまり、都会にはあるものが鳥取には「ない」。だけど、鳥取には都会にはあるものよりも、もっと大切なものが「ある」ということだ。
「ドンキホーテ」はないけれど、「ノンキ」に暮らせる。 牛めし屋の「松屋」はないけれど、「松葉(がに)」がある。
ダジャレっぽいのはご愛敬。確かに都会よりも利便性は劣る。だが、自然はたくさんあり、人と人の絆も強く、人柄もいい。
「ない」ことは、逆に「ある」ことでもある。そんなことに気付いた人たちに評価され、移住する人が増えていった。
■カネがないのなら、知恵をしぼれ、頭を使え
具体的な政策も次々と進めていった。
かゆいところに手が届くような丁寧な移住政策、企業の誘致を進めて職場も増やす。また、保育料の無償化や少人数学級など、子育て環境も整え、2015年の合計特殊出生率が1.69と全国4位に。
平井氏は、東京の千代田区外神田で生まれ育った都会っ子だ。だからこそ、鳥取の良いところも、そうでないところも客観的な視点で見ることができたのだろう。
地方都市で人口減少、高齢化が進む中、小さな県でも地域再生できることを鳥取県が証明している。「カネがないのなら、知恵をしぼれ、頭を使え」というポジティブ思考は、地域再生だけでなく、さまざまなところで活かされる考え方となるはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。