スーツやカバン、靴にアクセサリーと、オーダーメイドを売りにする商品が人気を集めるなかで、意外な分野にオーダーメイド商品が登場した。
「サガミオリジナル」ブランドで知られる相模ゴム工業が発売した、業界初のセミオーダーメイドによるコンドーム「MY CON!(マイコン!)」だ。厚さや形状などをユーザーが自分好みにカスタマイズすることで、“俺用コンドーム”をつくることができるのである。
昨年12月1日に「マイコン!」が発売されると大反響を呼び、世の男性たちから大きな注目を浴びているという。そこで、相模ゴム工業ヘルスケア事業部営業企画室室長の山下博司氏に、開発秘話や人気のカスタマイズなどについて聞いた。
オーダーメイドの「俺用コンドーム」開発の裏側
「マイコン!」は、同社のオフィシャル販売サイト「サガミショップ」内の専用ページのみで販売されている。
カスタマイズのバリエーションは、厚さが「薄い」「普通」「厚い」の3種類、形状は「ストレート」「リアル」「先端ゆったり」「ドット」の4種類、潤滑剤は「スタンダード」「弱酸性」の2種類。これらを順番に選び、組み合わせることで、自分好みのコンドームに仕上げるというわけだ(※皮膜の厚さにより、選べない選択肢がある)。
また、それぞれの項目には「装着のしやすさ ★★★」などのチャートも記載されているので、それらも参考になる。
「弊社として初めての試みだったのですが、想定以上の売り上げを記録しています。通常、コンドームは年末年始や夏休みなど長期休暇の時期に売れるのですが、『マイコン!』は発売直後の反響が特に大きかったですね」(山下氏)
確かに、「仕様をセミオーダーできるコンドーム」というのは、ありそうでなかった斬新なコンセプトだけに反響が大きいのも当然だ。とはいえ、なぜ今、俺用コンドームだったのだろうか。
「コンドームも多様化が進み、薄さを売りにする商品、逆に厚さを売りにする商品、あるいは『男性のモノ』に近い形状をしたユニークな商品など、さまざまなタイプが販売されています。ただ、これらのほとんどはメーカー主導によってつくられた商品で、お客様主導でつくられたものはありませんでした。そのため、『スペックをお客様がカスタマイズできる商品があれば、大きな特徴になるはず』という思いから、商品開発がスタートしました」(同)
実は、相模ゴム工業では、同社を代表するブランドの「サガミオリジナル」にアンケートはがきを同梱している。月に200通ほど届く、このユーザーの声が「マイコン!」の開発を後押ししたという。
「『サガミオリジナル』の売りは『薄さ』ですが、アンケートはがきに『相手の肌の温もりを感じることができたし、装着感を感じずに行為ができました。ただ、私の早漏だけが解消できれば最高の商品です』といった意見が書かれていることもあります。お客様の声を聞くと、薄さへの評価とともに、『もう少し、こうあってほしい』という思いが感じられます。そうした声も、商品化につながった大きな要因です」(同)
ネット限定販売、封筒にすっぽり入るパッケージの意外な理由
そして、セミオーダーメイドとともに「マイコン!」のもうひとつの特徴となっているのが、商品パッケージが封筒にすっぽり入るかたちであることだ。パッと見ただけでは、誰もコンドームが入っているとは思わないだろう。
男性ならピンとくるかもしれないが、これには業界大手の相模ゴム工業ならではのユーザーへの配慮がある。
「お客様のなかには『コンドームを買ったことをバレたくない』という方が多くいらっしゃいます。しかし、一般的なコンドームのパッケージは立体的なので、インターネットで購入して配送してもらう場合、複数個購入した際は、段ボール等で梱包されるためポストに入らず、不在票が届いて恥ずかしい思いをしてしまいます。そこで、『マイコン!』ではパッケージを2つ重ねてもポストに入る厚さにしたのです」(同)
「マイコン!」が「サガミショップ」のみで販売されているのも、同じ理由からだという。
相模ゴム工業の「販売市場別売上構成比」という調査によれば、コンドームの購入場所でもっとも多いのはドラッグストアの61%。仮に「マイコン!」をドラッグストアに置いた場合、男性客は女性店員と対面で「厚さ」「形状」「潤滑剤」を選ばなければならない。さすがに、それでは買いづらい。その点、ネット販売なら、自分好みの仕様をじっくり選ぶことができるというわけだ。
同調査によると、ドラッグストアに次いで多いのがネット(11%)で、コンビニエンスストア(8%)を上回っている(「業務用<ラブホテル&風俗>」の17%を除く)。「マイコン!」がネット販売限定なのは、当然といえば当然なのだ。
俺用コンドーム、一番人気は意外に「厚め」
ちなみに、「マイコン!」で一番人気があるのは、どんなカスタマイズなのだろうか。山下氏から返ってきたのは、意外とも思える答えだった。
「集計した結果、もっとも多く購入されているのは、厚さ0.09ミリ台のコンドーム。つまり、通常より『厚い』タイプで、形状は女性側にイボイボがついた『ドット』、潤滑剤は『スタンダード』という組み合わせでした。まだ発売から1カ月ほどしかたっていないため、今後変動する可能性はありますが、現状では群を抜いて多いですね(16年12月末現在)」(同)
この結果がなぜ意外なのかというと、相模ゴム工業の「サガミオリジナル」といえば、「0.01ミリ」や「0.02ミリ」など「薄さ」を最大の売りとしてきたコンドームだからだ。なかでも、「幸福の0.01ミリ」をうたった「サガミオリジナル001」は販売を一時休止せざるを得なくなったほどの人気商品で、同社の薄さへのこだわりは並々ならぬものがある。
その相模ゴム工業が投入した俺用コンドームで厚いタイプが人気というのは、なんとも興味深い現象といえる。
「確かに、ポリウレタン素材の『サガミオリジナル』の人気は今も非常に高く、『マイコン!』を購入したお客様の多くが0.09ミリ台を選んだのは、とても意外でした。しかし、これに近いスペックの商品は各メーカーでも販売されており、弊社でも『天然ゴムラテックスコンドーム』のなかでは、この厚さの商品が1、2を争うほどの人気です」(同)
そう、コンドームは「薄さ=正義」という単純な商品ではない。山下氏によれば、厚さがあったり女性側に突起がついていたりするタイプは、早漏に悩む人やビギナーに有効なコンドームだという。
「マイコン!」の購入者に「厚い」「ドット」の組み合わせが人気だとすれば、それは「セックス経験が少ない」「女性を満足させる前に終わってしまう」といった悩みを持つ人が、それだけ多いということ。そうした人たちの需要に応えることができるからこそ、「マイコン!」は人気を集めているのだ。
「今後は、『マイコン!』のラインナップを充実させることが目標です。現状では、皮膜の厚さによって選べない形状があるなど、選択肢の面で少々物足りない部分もあります。ゆくゆくは、トータル100種類以上から選べるくらいに充実させたいと思っています」(同)
そうなれば、より完全オーダーメイドに近づくことになる。俺用コンドーム「マイコン!」のさらなる進化に期待したい。
(文=真島加代/清談社)