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山田修「間違いだらけのビジネス戦略」

出光、創業家からの「独善的」手紙公開で完全排除へ…合併阻止狙う創業家の不合理な主張

文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント

結局は気に染まないだけのこと?

 昭介氏は出光グループを創業した故・出光佐三氏の長男で、創業家直系の総帥だ。出光は上場企業ではあるが、創業資本家である出光家は経営にも深く関与してきた。昭介氏は01年に代表権のない名誉会長に退くまで、第5代社長を12年間、会長職を8年も務めている。同社上場前には40%以上もの株式を所有する筆頭株主だった。そのような来歴から、同氏のオーナー意識は現在に至るまで強固なものがあると推察される。

 自らが任命したわけでもない従業員社長である月岡隆・現社長などは、昭介氏にとっては、その「出光ヒエラルキー」の中では「たまたま任せてやっている若造番頭」くらいのものでないのか。

 昭和シェルとの経営統合は、月岡経営陣により企図追及されてきたプロジェクトだ。昭介氏が反対を掲げたのは、当初「外資である昭和シェルとの社風があまりに違う」ということだった。しかし本音としては「オーナーである自分の了解も得ないでそんなことを始めるなんて」というところが強かったのではないか。つまりメンツの問題だ。

 というのは、昭介氏が掲げる反対理由がその後推移してきているためだ。16年8月に至り、前述のように出光会が創業家に対して会社側との協議の席に着くように動き始めると、同年9月23日付で出光会会員に書簡を送っている。そこで次のように指摘した。

「韓国のS-Oil社の場合、かつては35%程度の株主であったサウジアラムコ社が、64%の株主となり社長も送り込まれ、タンカーがサウジアラビアとS-Oil社の間でしか往復しなくなっています。このような轍を踏まないようにしなければなりません」

 そのサウジアラムコ社が昭和シェルの株式を15%保有しているので、そんな昭和シェルと組むとサウジアラムコに出光も乗っ取られる、というのだ。しかし、これはいかにも唐突な後付け的な理由であるし、そんなリスクを予想するなら資本ガバナンス的に予防する方法は十分にあるはずだ。

 昭介氏側と膠着状態に陥った出光側は、16年8月15日に記者会見を開き、15年12月、つまり問題が創業家側から提起されたときに、昭介氏から月岡社長に宛てられた手紙を一部公開した。「公開してしまった」とも言える。その手紙には「あなた(=月岡社長)限りにしてください」とされていたというのだ。実質オーナーからのそんな制限つきの手紙を公開する経営陣の無神経さには、呆れるばかりだ。完全に喧嘩を売っている。

山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役

山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役

経営コンサルタント、MBA経営代表取締役。20年以上にわたり外資4社及び日系2社で社長を歴任。業態・規模にかかわらず、不調業績をすべて回復させ「企業再生経営者」と評される。実践的な経営戦略の立案指導が専門。「戦略カードとシナリオ・ライティング」で各自が戦略を創る「経営者ブートキャンプ第12期」が10月より開講。1949年生まれ。学習院大学修士。米国サンダーバードMBA、元同校准教授・日本同窓会長。法政大学博士課程(経営学)。国際経営戦略研究学会員。著書に 『本当に使える戦略の立て方 5つのステップ』、『本当に使える経営戦略・使えない経営戦略』(共にぱる出版)、『あなたの会社は部長がつぶす!』(フォレスト出版)、『MBA社長の実践 社会人勉強心得帖』(プレジデント社)、『MBA社長の「ロジカル・マネジメント」-私の方法』(講談社)ほか多数。
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