豆腐を棒状にした「豆腐バー」がヒット商品になったアサヒコ(東京・新宿)は、今月から海外進出を始める。最初の輸出国はシンガポールだ。先月末に行われた事業戦略発表会で発表した。
発表会の第1部では池田未央代表取締役が登壇し、2024年度の事業戦略と海外進出について発表。第2部では、事業戦略実現のため2024年2月に入社したマーケティング本部長の嶋裕之氏と池田氏が「プラントベース市場の未来」をテーマにトークセッションを行った。
伝統的食材・豆腐の定義を変更、究極の“タイパ飯”に
アサヒコが「豆腐バー」を発売したのは2020年11月。それから約3年で累計販売本数6000万本を突破した。ヒットの理由は、日本人にとって伝統的な食材である豆腐を植物性たんぱく質食品と捉え、形をスティック状にして味付けし、どこでも食べられるようにしたことだ。
従来の豆腐は水切りしなければならない面倒さがあり、味・食感は現代人にとってひと手間加えなければ満足感の得にくいものだ。しかし、味付けしてある豆腐バーはそうしたデメリットを払拭した。
池田代表は「たんぱく質格差の社会をなくし、大豆たんぱく質を多くの人に届けること」を同社の使命だと語る。世界人口は2050年に97億人に達するとされ、新興国の肉消費増加に伴う「たんぱく質格差社会」が訪れる可能性もある。大豆由来の豆腐で社会問題をも解決することができるというわけだ。
そして、池田代表が出張で訪れたアメリカのスーパーで肉や魚と同じような位置づけで、硬い豆腐が売られているのを目にしたのが、豆腐バー誕生のきっかけとなった。
「アメリカでは、豆腐はたんぱく源として考えられており、日本のものより硬いタイプが主流。以前から日本市場では、豆腐・油揚げの売上が減少傾向にあり、どうにか活性化できないかと考えていた。豆腐の新しい食べ方があるのではと考え、豆腐バーづくりに着手した」(池田代表)
2020年の発売は「和風だし」1種類でのスタートだったが、その後味付けの種類が増え、手軽なプロテインフードのニーズから、おかず・おつまみニーズへと市場を広げていった。2023年には前菜からデザートまで豆腐を活用してもらおうという「ぜんぶとうふ化作戦」を実施した。
超高速凍結機で海外輸送の課題を解決
アサヒコが最初の輸出国に選んだのはシンガポール。日本食が人気なことに加え、高齢化により健康志向が進んでいること、共働きが増加して食品の簡便性が求められていることが理由だという。そして、日本に旅行したときに食べた日本食がおいしくて、帰国後も食べたいものの入手できないという現地の声もあったとか。
まず、「豆腐バー 旨み昆布」1商品のみを展開し、海外でどう評価されるのか調査する。その後、具材が入った総菜バーを追加販売する方針だ。今年12月には、具材入り生産ラインでの「ハラル認証」を取得することで、販売領域の拡大を目指す。
しかし、最初の商品がなぜ、旨み昆布なのか。池田代表はこう語る。
「2024年は和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて10周年。『うま味を上手に使うことで動物性油脂の少ない食生活を実現する』という和食の定義を満たした豆腐バーを選んだ。26年には販売領域をアジア圏まで拡大、27年以降には欧米へと拡大し、プラントベース系食品の売上における海外構成比を30%に伸長することを目指す」
海外輸出にあたっては、賞味期限と輸送段階での品質劣化が課題だった。豆腐は90%以上が水分であるため、そのまま通常のスピードで凍らせると、高野豆腐のようなスポンジ状になってしまう。これを解決したのは、厨房機器を設計から開発まで行うベンチャーのゼロカラの超高速凍結技術。この技術を活用して、マイナス35℃での急速凍結が可能になり、日本で販売されているおいしさや食感をそのまま現地に運べるようになった。
なお、現地での販売は、K&Kのブランドで有名な国分グループと提携している。現在の円安も追い風であり、現地の消費者には比較的安価で販売することができる。
縮小する日本市場を変えていく
第2部の対談で嶋氏は日本のプラントベース市場について次のように話した。
「同じ豆腐や大豆でも、食べる場所やシーン、かたちを変えるだけで、新たな購買層を獲得できるはず。自由なプラントベースで、日本の食生活を進化させていきたい」
池田代表は「日本の元祖プラントベースは豆腐だと思っている」と応え、「今までは海外で生まれたプラントベースを日本に輸入するようなかたちが多かったが、これからは豆腐や大豆を筆頭にした日本式のプラントベースが伸びていくのではないか」と展望を語った。
同社によれば、日本の豆腐市場は年率2〜3%のペースで縮小しているという。メインユーザーの高齢化もあるだろうが、反省も込めて言えば、食べ方が味噌汁や冷奴に偏って調理法がマンネリ化していることもある。ファストフードのチェーン店でプラントベースのハンバーガーなどが増えてくれば、若い世代の消費拡大が期待できるのではないだろうか。
(文=横山渉/ジャーナリスト)