短距離走のように一気に問題を解決する「スプリント」
どんな仕事でも、クリアしなければいけない課題や解決したい問題は次々に現れる。しかし、ほとんどの人や組織は、問題解決をする前に、より困難な問題に直面する。
それは問題に着手するまでに、途方もない時間と労力がかかるということだ。
問題解決に役立ちそうなアイデアを出すため何度も会議を重ね、その結論を上役に報告してGOサインが出るまで待った上で、ようやく動き出せる態勢が整う。
実際に問題に着手できるまで数週間から数ヶカ月かかる、ということも珍しくないだろう。そこから、ようやく問題に乗り出していくのだから、全てのプロセスにかかる時間と労力は果てしない。
そんな非効率なプロセスから脱却できる最強の問題解決手法が、グーグルで生まれた「スプリント」というプロセス効率化メソッドだ。
その手法を誰でもすぐに使える形で紹介した一冊が『SPRINT 最速仕事術――あらゆる仕事がうまくいく最も合理的な方法』(ジェイク・ナップ、ジョン・ゼラツキー、ブレイデン・コウィッツ著、櫻井祐子翻訳、ダイヤモンド社刊)である。
「スプリント」の意味は「短距離走」。ランナーが短い距離を一気に駆け抜けるように、プロセスを効率よく短時間で回し、一気に問題解決へ導くことから名付けられた。
今やこの手法はグーグルのみならず、フェイスブック、マッキンゼー、ブルーボトルコーヒー、スラックなどの大企業や国際機関、非営利団体、学校でも活用されている。このメソッドを使えば、IT事業、製造業、サービス業など、業種を問わず効率的なプロセスで問題解決が行えるのだ。
だが、驚くべきことはこのメソッドの汎用性ではない。問題や課題が解決するまでの時間だ。
「スプリント」は、問題解決のすべてのプロセス――着手前の会議から解決まで――を、たったの「5日」で完了させる。
しかも、その5日間を不眠不休で働けというのではない。仕事は10時から17時。もちろんランチタイムや休憩も確保されている。仕事にスピードを求められる現代において、これほど心強いメソッドはないだろう。
「プロトタイプ」と「テスト」で問題解決の答えを出す
本書では、「スプリントとは、アイデアをプロトタイプの形に素早く落とし込み、それを顧客とテストすることによって、重要な問題に答えを出す手法」だと説明されている。
この説明だけではわかりにくいので、実際にスプリントを使ってオンライン販売に着手した、アメリカの人気コーヒーショップ「ブルーボトルコーヒー」を例に紹介しよう。
「ブルーボトルコーヒー」では、コーヒー豆をオンライン販売する計画があった。課題は、「新規顧客の獲得」だ。
ブルーボトルコーヒーの強みは徹底的に豆にこだわっていることにある。しかし、オンラインストアに訪れる新規顧客は、どんな豆が自分に合うのかがわからないだろう、という問題があった。そこで、オンラインストアの“プロトタイプ(試作品)”を作成し、顧客になりそうな人を集めて「このオンラインショップで買いたくなるかどうか?」を“テスト”したのだ。
その結果、新規顧客がどんなデザインやテキストのオンラインストアだったら、ブルーボトルコーヒーの豆を買いたくなるかが判明した。
つまり、「新規顧客が獲得できるオンラインショップの形」という“答え”が見つかったのだ。
これだけ見ると「PDCAサイクル」「カイゼン」の手法に似ていると感じるだろう。しかし、それらの手法と一線を画すのは、やはり5日という限られた時間で全てを完了させるという点だ。
一体どうすれば、一週間もかからずに問題解決まで行き着けるのだろうか?
「5日」で問題が解決される合理的なプロセス
残業もなく「5日」で問題解決が成される理由は、ひとえに合理性を追求したプロセスの構築と、そのコンセプトにある。
大切なのは、「スプリント」のコンセプトだ。
「スプリント」は、あくまで問題解決の答えを見つけるための手法であって、100%の完成品をつくることではない。ブルーボトムコーヒーの例で言えば、すぐに稼動できるオンラインストアをつくるのではなく、「新規顧客が気にいるオンラインストアとは?」という問題の答えが出ればいいわけだ。
その上で、5日間でやるべきことは、次のようなプロセスになる。
月曜日:問題を洗い出して、どの部分に照準を合わせるのかを決める。
火曜日:多くのソリューション(解決策)を紙にスケッチする。
水曜日:最高のソリューションを選び、アイデアを検証可能な仮説の形に変える。
木曜日:仮説を検証するためのリアルなプロトタイプを完成させる。
金曜日:生身の人間で、それをテストする。
各曜日のプロセスには、合理性を追求した数々のやり方がある。月曜日の「問題のどの部分に照準を合わせるか」で言えば、「どうすればメモ」と「ドット投票」という方法を使い、短時間で照準を絞っていく。
スプリントに参加する各々のメンバーが、付箋に「どうすれば~できるか?」というメモを書いていき、それを集めて壁一面に貼り付ける。
貼り付けられたメモを大まかに分類したら、参加者は無言で「これはいい」と思ったメモに丸いシール(ドットシール)を貼って投票する。
ポイントになるのは、「各々が付箋にメモを書く」「無言で投票する」という点だ。
こうした意思決定プロセスを「話し合い」という手段に委ねると、往々にして時間が食い潰されていく。
そうした無駄を省くためのシンプルで合理的な方法が、スプリントの各プロセスには散りばめられているので、ぜひ一読してみてほしい。
本書で書かれている数々の手法は、小さな課題や一人の作業にも役立つものが多い。
問題に行き詰まったとき、抽象的なアイデアを具現化したいとき、何から手をつけたらわからないときに読んで、実践してみるのもよいだろう。
(ライター/大村佑介)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。