ヤフー、楽天のFX事業本格参入で激化するネット金融業界の舞台裏
(「サイバーエージェントFX HP」より)
ポータルサイト最大手のヤフーがインターネット広告大手のサイバーエージェントからサイバーエージェントFXを210億円で買収する。株式の譲渡日は1月31日だ。
サイバーエージェントFXは2003年9月、サイバーエージェントの100%子会社として設立されたFX専業の会社だ。サイバーの12年9月期決算によるとFX部門は36億円の営業利益を上げている。
サイバーは事業の「選択と集中」の観点から譲渡すると説明している。スマートフォン向けサイトAmeba(アメーバ)に注力し、インターネット広告、ソーシャルアプリケーションプロバイダー、投資育成に絞り込んで、今後、事業を展開するという。
ヤフーが買収するFX事業は安定した利益を出しており、ヤフーの連結収益への貢献が見込める。既存の決済事業などと合わせ金融を本格展開し、ネット広告、電子商取引に次ぐ新しい成長の柱にする考えだ。
ヤフーが金融に本格的に参入するのは成長が鈍化していることへの危機感があるからだ。かつてはネット広告が牽引し2ケタの増益を続けてきたが、最近は1ケタに減速した。主力のネット広告ではスマホ向けの広告を十分に取り込めていない。電子商取引では楽天、米アマゾン・ドット・コムなどとの競争が激化している。
12年4月1日にヤフーの最高経営責任者(CEO)に就任した宮坂学社長は、主戦場がパソコンからスマホへと変わったと認識している。そこでスマホ向けのビジネスモデルを構築するため有力企業との提携を次々と進めてきた。
例えば4月には、オフィス用品通販のアスクルと提携、共同でネット通販を開始した。6月にはDVD・書籍販売TSUTAYAのカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とポイント事業を統合。8月、グルメ情報口コミサイト「食べログ」と業務提携した。そして11月、携帯電話向けゲームサイトを運営するグリーとスマホ向け事業で手を組み、12月、コンビニエンスストアのローソンと提携、インターネットを使った食品や日用品のデリバリーを始めた。
その一方で、サイバーエージェントからFX事業を買収するなどM&Aにも意欲的だ。
ヤフーは金融決済事業には既に参入していた。ヤフーがネット銀行への進出を計画したのは05年。あおぞら銀行の子会社である、あおぞら信託銀行の66.6%の株式を取得。06年前半には業務を開始すると発表していた。だが、思惑の違いから提携はすぐに解消。ヤフーがオークション取引などの決済業務だけに絞って開業を急いだのに対して、あおぞら銀行側はさまざまな金融商品を扱うネット銀行を主張して話し合いは決裂した。
さらに06年3月、ヤフーはジャパンネット銀行とその親会社である三井住友銀行と業務提携した。提携を発表してからわずか7カ月という超スピードでオークションの利用者同士の決済を簡単に行えるサービスを始めた。
とはいえ現在、ジャパンネット銀行の総株式数では三井住友銀行とヤフーが41.16%で同数だが、議決権の比率は三井住友が61.44%で、ヤフーは12.18%。ヤフーは経営にはタッチしていない。決済業務を行うのが目的で、名を捨てて実をとったわけだ。