トヨタは、2013年計画で、世界生産が史上初の1000万台強に達するという見通しを示した。同社を追いかけるGMやVWも中期的に1000万台超えを射程に入れている。ロシアの自動車大手、アフトワズを傘下に収めたルノー・日産アライアンスも、15〜16年頃の大台到達を目指していると噂される。
これまでにない勢いで膨れ上がる自動車メーカーの生産規模だが、「規模ばかりでは、世界で激化する競争に生き残れない」というのが、多くの自動車業界関係者の見方だ。足元ではハイブリッド車(HV)や燃料電池車(FCV)といった次世代環境車の開発負担が重くのしかかり、従来のクルマづくりを見直さなければ研究開発の費用や人材が不足することが目に見えている。このためトヨタはもちろん、VW、ルノー・日産アライアンスなどの各陣営はこぞって、車両の開発や生産手法を大幅に効率化しようとしている。
各社が取り組んでいるのは、3〜4万点の部品で構成される自動車を、複数の部品を組み合わせたブロック単位で切り分ける「モジュール(複合部品)戦略」だ。各部位ごとのモジュールを用意し、それを車両コンセプトに合わせて自在に組み合わせることで新型車を生み出す。また、似たようなサイズの複数の新型車を一括企画し、可能な限り、同じモジュールを使用するという取り組みも進む。
各陣営は自社の取り組みはオリジナルだと強調しているが、部品を「部位ごとのカタマリ」として捉えて共通化し、量産効果を引き出そうというアプローチは同じだ。1000万台クラブを追撃するホンダも似たようなコンセプトで車台の共通化に取り組んでおり、世界の自動車産業の潮流は、これまでにない水準と勢いで「部品の共通化」に向かっている。
こうした動きの背景には、エコカーの開発だけでなく、中国やインド、タイ、インドネシアといった新興国市場の台頭も関係している。自動車メーカーはこれまで、日米欧の先進国向けに新型車を開発していればよかったが、新興各国で需要が拡大し始めたことで、地域最適車を開発して対応しなければならないケースが増え始めた。従来のように車種ごと、仕向け地ごとの車両開発ではコストや人材が追いつかないのだ。各社が車両開発の効率化や部品の共通化をあらためて推進するのは、必然といえるのかもしれない。
●高まる部品メーカーの警戒感
ただ、この状況を正面から受け止められず、戦々恐々としているのが日本の中小部品メーカーだ。完成車メーカーが推進する共通化戦略が実現すると、部品ひとつ当たりの供給規模は従来の数十万個単位から数百万個単位に拡大するケースも想定される。そうなると、いまの日本の中小メーカーの事業規模では必要量を供給できず、経営資源が豊富な「メガサプライヤー」に注文が流れてしまう恐れがあるのだという。
部品各社が警戒するメガサプライヤーとは、世界の売上高ランキング・トップ10に名を連ねるような巨大企業のこと。年間売上高は3〜5兆円規模の企業が多く、技術力では「日本の中堅自動車メーカーをしのぐ」ともいわれている。日本ではトヨタグループのデンソー、アイシン精機、欧州では独ロバート・ボッシュやコンティネンタル、北米ではカナダのマグナ・インターナショナル、米ジョンソンコントロールズが有名だ。
自動車メーカーにとっても、部品開発や供給体制構築はメガサプライヤーに“丸投げ”したほうが効率的だ。また、部品1種類当たりの使用量が数百万個単位に膨れ上がれば、たったひとつの品質不良で途方もない規模のリコール(回収・無償修理)が発生するリスクもつきまとう。これまで長い付き合いを続けてきた地場の中小部品メーカーより、財務基盤がしっかりしていて、品質保証力や万一の場合にリコール費用を応分に負担できる余力を持ったメガサプライヤーのほうが、安心感も高い。
自動車メーカーの新たなモジュール戦略により、これまで日本の自動車産業を陰から支えてきた国産部品メーカーは難題に直面しつつある。一部の企業の中には「積極的なM&A(企業の買収・合併)を展開し、メガサプライヤーと互角に戦える規模を確保したほうがいい」という見方もあり、今後は国内で部品メーカー同士の再編や合従連衡が急速に進む可能性もある。
(文=編集部)