(「Wikipedia」より)
「本当はホライズンが欲しかった」。そう東芝の関係者はささやく。英国における原発事業での東芝の第一目標は、日立製作所が12年に買収した原子力発電会社、ホライズンの案件だった。最終的に日立側が買収額を900億円近くまで引き上げたことで、東芝はホライズンからの原発設備の受注を断念した。
東芝がホライズンを獲得したかった背景には、原発の構造の問題がある。原発には、BWR(沸騰水型軽水炉)とPWR(加圧水型軽水炉)という2つの炉型があるが、ホライズンの炉型は日立や東芝が開発を主導した改良型BWR。一方、ニュージェンの炉型は米ウェスチングハウス(WH)のPWRだ。
東芝はBWRのメーカーで東京電力向けに国内で納入してきた。06年にPWRメーカーのWHを買収したことで、両方の炉型を扱うことができる世界唯一の原発メーカーとなった。とはいえ、東芝は経営資源をBWRに傾けており、自社機器の製造比率が高いBWRの受注が、東芝にとっては課題だったのだ。
●米国や新興国で相次ぐ案件の中断
東日本大震災以降、東芝の原発事業は誤算が重なる。米国では東芝初の海外受注ビジネスであるサウステキサスプロジェクトが暗礁に乗り上がっている。同プロジェクトはBWRの新設案件だったが、福島第一原発の事故でプロジェクトへの出資を決めていた東電が撤退。事業主体だった米電力大手企業も追加の投資を打ち切り、先行きが見えない。新たな出資を募る方針だが、一度頓挫したプロジェクトを立て直せるかは未知数だ。加えて、シェール革命によるガス価格の急落で、原発はガス火力発電と比べて電気料金の競争力が落ちるなど環境も激変する。
コストの面から原発を推進してきた新興国でも逆風が吹く。ベトナム初の原子力発電所の建設計画で、ロシアが受注した第一原発の着工時期が延期される見通しになっている。福島第一原発の事故をきっかけに、安全の見直しを求める声を無視できなくなったためだ。東芝が関わる第二原発建設の日程にも影響は避けられそうもない。
●迷走する子会社の経営
成長を牽引するはずだった子会社のWHの経営も、東芝にとっては誤算だ。06年に買収後も東芝とWHの経営陣の足並みがそろわず、最高経営責任者も何度か交代。東日本大震災後、WHの大株主が株式を売却し、その分を東芝が保有したままになるなど経営の舵取りが定まらない。
原発プロジェクトは多大な出資を求められるうえに、利益を生み出すまで十数年かかるケースも少なくない。「経営体力がないと継続することができない事業」(大手電機幹部)だが、東芝は00年代半ばまでに原子力に経営資源を集中させる戦略をとり、原発事業が揺らげば会社全体が揺らぐことになる。縮小や撤退の選択肢は残されていない。生命線の事業に誤算が重なった今、果たして耐え抜くことができるのだろうか。東芝の今後から目が離せない。
(文=編集部)