国土交通省は昨年10月1日、今年3月30日から拡大する羽田空港の国内航空会社向け国際線発着枠16枠のうち、ANAに11枠、JALに5枠を配分する決定を下した。それまで水面下で繰り広げられていた国際線発着枠獲得競争に、ANAが圧勝したかたちだ。
この勝利は、ANAの業績へのプラス効果が極めて大きいといわれている。1枠当たり年間の売上高約100億円、営業利益約10億円の増収増益が見込めるからだ。つまり、今回の6枠差の配分で、ANAはJALに対して年間で売上高約600億円、営業利益約60億円の業績差をつけられるのだ。
そのせいか、配分決定直後こそANA株は上がり、決定2日後の昨年10月3日には一時223円と同5月末以来の高値を付けたものの、その後は株価が反転して下げ基調になり、8日の終値は211円まで下げた。証券アナリストは「10月の株価反転は、ANAに対する投資家の消し難い経営不安感が背景にあった」と指摘する。つまり、新枠獲得の業績貢献が1~2年先になるのに対して、市場では「14年3月期の業績予想は下方修正」との見方がされたのだ。
実際、ANAがその月末の31日に発表した14年3月期中間連結決算は、売上高が前年同期比5.9%増の7976億円だったものの、営業利益は同42.5%減433億円、最終利益は同45.7%減の200億円だった。そしてANAは、決算と同時に発表した通期業績見通しも、営業利益は当初見通しを500億円も下回る前期比42.2%減の600億円に、最終利益は当初見通しを300億円下回る前期比65.2%減の150億円に下方修正した。
これに対して、「焼け太り再生」と揶揄されたJALの中間決算は、売上高が前期比4.0%増の6593億円、営業利益が同14.6%減の958億円、最終利益が17.8%減の819億円と、ANAとの財務体力差は明らかとなった。
これに追い打ちをかけたのが、14年3月期第3四半期のANAの連結決算内容だった。営業利益は前期比35.8%減の691億円、最終利益は同36.2%減の333億円という落ち込みようで、この理由を同社の伊東信一郎社長は「航空事業のコストの4分の1を占める燃油費が、円安の影響で約25%も増加したのが主な要因」と釈明した。だが、この外部要因にさらされたのはJALも同様で、伊東社長の釈明は「投資家には、その場しのぎの言い訳にしか聞こえなかった」(証券アナリスト)という。
●国際線強化に活路
加えて航空業界関係者は「今のANAは、企業体力を回復してきたJALに再び追い込まれている」と指摘する。
会社更生法の適用を受けたJALが企業体力を回復した要因は、業界で「3点セット」と呼ばれている。1つ目は財産評定効果で、機材等資産の簿価から時価への評価替えにより、減価償却負担が軽くなった。2つ目は金利負担の減免で、銀行などからの計5215億円の債権放棄により、現在のJALは無借金経営。対してANAは8500億円超の借金。そして、3つ目は法人税減免で、その額は10-18年度の9年間で約4000億円に上る見通し。「JALはこの3点セットで焼け太り、当社は不公平な競争を強いられている」と、ANA関係者は憤慨する。