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碓井広義「ひとことでは言えない」(5月12日)

刑事モノや池井戸モノが乱立…春の連ドラ、今から間に合う、大人が見てもいいドラマは?

文=碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授
刑事モノや池井戸モノが乱立…春の連ドラ、今から間に合う、大人が見てもいいドラマは?の画像1『ルーズヴェルト・ゲーム』公式サイト(「TBS HP」より)

(文=碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授)

 全体的に低調だった前クール(1~3月期)の連続テレビドラマ、いわゆる「冬ドラマ」に比べて、今クール(4~6月期)の「春ドラマ」には活気がある。少なくとも「大人が見る(見てもいい)ドラマ」があるからだ。

●「池井戸ドラマ」の同時多発

 今クールは、『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)と『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系)という、池井戸潤原作のドラマが2本登場した。これはもちろん昨年放送された池井戸氏原作の『半沢直樹』の大ヒットを受けてのことだ。

 池井戸作品には企業小説と呼ばれるものが多い。しかし、主軸はあくまでも企業内の人間模様であり、そこで展開される人間ドラマである。また、山あり谷ありの起伏に富んだ物語構成と、後味(読後感)の良さも池井戸作品の持ち味だ。その意味でドラマとの相性がとてもいい。

 まず、『花咲』は『半沢』を想起させる銀行ドラマだ。問題を抱えた支店を指導する「臨店班」に所属する女性行員・舞(杏)が、毎回、行く先々で問題解決のために奔走する。彼女の最大の魅力は、たとえ相手が上司であれ顧客であれ、間違ったことや筋の通らぬことに関しては一歩も引かないことだ。『花咲』は、そんなヒロインが言いたいことを言うガチンコ勝負ドラマなのだ。

 もしもビジネスパーソンが、仕事場で「言いたいことを言う」を実践したら大変なことになるだろう。だからこそ何でも口にする舞は、危うくもあり、痛快でもある。ただし、良くも悪くも『半沢』のような重厚感や奥行きを持つドラマではない。ライト感覚で楽しめる勧善懲悪物語だ。基本的には一話完結なので、今から見始めても問題ない。

 一方の『ルーズヴェルト・ゲーム』は、中堅の精密機器メーカーが舞台だ。大手の下請けとして成り立っていることもあり、経済情勢だけでなく、発注元の思惑にも揺さぶられている。社長の細川(唐沢寿明)が、いかにして苦境を脱していくかが見どころだ。

 このドラマの特色として、企業ドラマであると同時に、野球ドラマでもあることが挙げられる。社会人野球がきっちり描かれるドラマというのは珍しく、異色のスポーツ物にもなっている。会社のお荷物的な存在である野球部が、会社と同様、「逆転勝利」をつかむことができるのか。こちらは、放送が4月末からという遅いスタートだったこともあり、今からでも十分追いつける。

●乱立「刑事ドラマ」の群れを抜け出すのは?

 今クールの特徴としては、刑事ドラマが8本も並び、まさに乱立状態となった点も挙げられる。注目は、木曜夜9時枠で裏表となっている2本である。

 1本目は『MOZU~百舌(もず)の叫ぶ夜~』(TBS系)だ。銀座界隈で爆弾テロが起き、犠牲者の中に公安部特務第一課の倉木(西島秀俊)の妻・千尋(石田ゆり子)がいた。

 妻の死の謎を解くべく動き出す倉木、現場に居合わせたという公安の女性刑事(真木よう子)、公安を目の敵にする捜査一課の大杉(香川照之)と役者は揃っている。一昨年の『ダブルフェイス』と同様、WOWOWとの共同制作であり、演技も映像も優れた海外ドラマのような本格派といっていい。

碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授

碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授

1955(昭和30)年、長野県生まれ。メディア文化評論家。2020(令和2)年3月まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。慶應義塾大学法学部政治学科卒。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年、テレビマンユニオンに参加、以後20年間ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に『人間ドキュメント 夏目雅子物語』など。著書に『テレビの教科書』、『ドラマへの遺言』(倉本聰との共著)など、編著に『倉本聰の言葉――ドラマの中の名言』がある。

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