三木純一社長(59)は今年5月、第2位の株主である米投資ファンド、タイヨウ・ファンドと組み、MBOによる株式の非公開を目指したTOBを宣言した。楽器市場の低迷を受け、ローランドは2013年3月期決算まで4年連続で最終赤字を計上するなど業績が悪化。MBOによって株主に左右されずに素早い経営判断を行い、競争力を回復させると説明されていた。買い付け総額は416億円になる見通しで、子会社の株式売却や、りそな銀行からの借り入れで賄う。
創業者で筆頭株主である梯(かけはし)郁太郎・ローランド芸術文化振興財団理事長は「ファンドに頼らない経営の立て直しが必要だ」と訴える。ローランドのドル箱は大型プリンタなどコンピュータ機器を扱う子会社、ローランドDG(浜松市、東証1部上場)。7期ぶりに最高益を更新するなど業績は好調で、広告・看板向けインクジェットプリンタの世界シェアはトップクラスを誇る。ローランドの利益の半分以上をDGが稼ぎ出しているが、音楽事業との関係性は薄い。「DGの株式を売ってそれを元手にすれば、ファンドを入れないかたちでもMBOは行える」というのが梯氏の主張だ。
7月4日付東洋経済オンライン記事によれば、総会で梯氏は、「MBOをやると、DG(の株)もそのままついてくる。(タイヨウにとって)こんなおいしい話はない。それ、わかっていますか」と三木社長へ質問。MBOでDGを手に入れるタイヨウ・ファンドだけが利益を得る、つまり「投資ファンドによる乗っ取りだ」と反対したという。これを受け三木社長は「DGに関しては、タイヨウは経営権を取るつもりのないことが表明されている。徐々にDG株を売却するので、タイヨウが(DGを)コントロール下に置くということはございません」と答えたという。
●ローランドからの出向者が独断で財団の理事会を開く
梯氏が理事長を務めるローランド芸術文化振興財団は、ローランド株式の9.8%を保有する筆頭株主だ。今回のMBOに関する決議では、財団の理事長である梯氏ではなくローランドから出向している専務理事が理事会を開き、TOBに応じることを決めた。これを不服とした梯氏は、理事会の定款に基づき決議の無効を主張。評議員会は6月20日、「財団は企業の利害に関係する決定にはかかわらない」との最終決定を下した。つまり、TOBには応じないということである。
総会は、取締役選任など3議案を可決したが所要時間は昨年の58分から大幅に増え、2時間35分に及び、そのほとんどがMBOについての質問に費やされた。今後の焦点は、TOBが成立するかどうかだ。財団が応募しなくとも経営陣が議決権ベースで株式の3分2を獲得できれば、TOBに応じなかった株主を排除できる。