野村総研、社員によるワイセツ被害女性を“逆に”訴えた恫喝訴訟で実質上の全面敗訴
「ブラック企業アナリスト」として、テレビ番組『さんまのホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)、「週刊SPA!」(扶桑社)などでもお馴染みの新田龍氏。計100社以上の人事/採用戦略に携わり、あらゆる企業の裏の裏まで知り尽くした新田氏が、ほかでは書けない、「あの企業の裏側」を暴く!
日本を代表するシンクタンク・株式会社野村総合研究所(以下、野村総研)の幹部が、2007年12月に取引先の女性営業担当者に強制わいせつ行為を働いたとされる、いわゆる「野村総研強制わいせつ事件」。野村総研がわいせつ行為の被害者へ起こしていた民事裁判は、同社が無条件で訴えのすべてを取り下げ、実質上の同社全面敗訴となり終了した。今後は、同社の被害者の支援活動をしている人に関する裁判が残るのみだが、これも同社は裁判所から「いい加減まともに前提を立証(証明)しなさい」と言われている内容すらも立証できずにおり、見通しは暗い。
概要としては、野村総研の上海支社副総経理(当時、日本の副社長に相当)のY氏が、取引候補先の女性社員を誘い出し、酒を飲ませ酔わせて、帰路に就く女性のタクシーに乗り込んできて、女性が家に着くとY氏が上がりこんで抱きつき、キスまで迫った事件。
この女性は必死に抵抗したためにそれ以上の被害は免れたものの、ほかにも上海の大学で開催されたミスキャンパスのイベントに際し、Y氏は野村総研と三菱商事が共同出資するグループ企業「iVision Shanghai(アイビジョン上海)」(中村柔剛総経理代理:当時)を通じ、同社会計からの協賛金の拠出やイベント用ウェブサイトの無償構築をイベント主催企業社長へ打診。その見返りに、イベントプログラムの中に水着撮影コーナーを設けることを提案し、Y氏自らがカメラマンとして参加。さらにコンテストに参加した女子大生らを、Y氏個人の旅行に同伴させていたという。
この事態を知った野村総研は、「Yは恋愛と思ってやった、ミスキャンパスは手伝おうと思ってやったことだ」と主張してY氏になんの処分もしないことを決定し、さらにY氏を被害者女性たちの近辺に配置しない要求についても拒絶。そしてY氏自身は被害者女性たちが求める謝罪も、本人たちに近づかないという誓約も拒絶し続けている。
その後Y氏は、JALや東方航空の客室乗務員、他社の女性社員へ、意識を失わせた上で性行為や強制わいせつ行為を行っていた疑惑が発覚。さらに上海でY氏が無免許の飲食店舗を経営し違法操業を行わせている事実、マカオにてY氏とアイビジョン社のメンバーとで集団買春を行っているなどの、公序良俗に反する事実も発覚した。その証拠を押さえられて通知をされた野村総研は、今度はなんら十分な証拠もなく、被害者女性までを民事裁判で訴え、「法人の精神的苦痛」として1000万円以上もの巨額の金銭を個人に要求したのが、この野村総研の裁判だ。そのため、当初から本裁判は「被害者個人を黙らせるための恫喝目的である」という見方が大半を占めた。
●スーパーフリーが使った恫喝訴訟と同じ手口
このような恫喝のために裁判の権利を悪用する手口は「恫喝訴訟(SLAPP)」と呼ばれ、日本では早稲田大学の学生を中心としたレイプサークル「スーパーフリー」が行っていたので有名となった手口である。
性犯罪のような犯罪は「親告罪」といって、被害者が訴えないと犯罪として立件できない。そこで性犯罪者側は民事裁判制度を悪用して、被害者が親告するのを妨害するのだ。具体的には、
・立場の弱い個人の被害者に対し、「性犯罪など事実無根で、名誉棄損だ」と逆に訴える
・「名誉棄損の賠償金」名目で、法外で巨額な金銭請求などを行う
・裁判になると、被害者の個人情報も公開されることになるため、被害者個人に精神的な苦痛を与える
・裁判を長期化させて、被害者に弁護士費用の負担をかけさせ、経済的に苦しめる
と、被害者にとっては実に都合が悪い手口なのである。しかも、このように民事裁判が長引いてしまうと、警察も検察も民事裁判の結論が出るまでは動きにくくなるため、刑事事件として立件に至るまで時間稼ぎができることになる。また裁判所では裁判官が多忙であるために判決を書くのを嫌がることが多く、被害者にも和解を求めてくるケースが多いため、それを利用して和解の成立を狙い、親告罪が成立しないようにする効果もあるのだ。
野村総研による今回の訴訟は、どう見られるべきものなのだろうか? 都内の弁護士に聞いた。