先週12月20日発売の「フライデー」(講談社/1月3日号)は、その利権争いに振り回され、青少年が不運に見舞われている実態を報じている。同誌記事で疑問の声を挙げているのは、牛嶋星羅さん(16歳)。牛嶋さんは、実力的には「日本一の高校生卓球少女」といわれているにもかかわらず、来年8月に中国・北京で開催予定の第2回ユースオリンピック卓球競技出場への道が、すでに断たれてしまっている。
牛嶋さんは現在、熊本県の親元から離れ、埼玉県にある正智深谷高校卓球部に所属している。ユースオリンピックには各国男女1名ずつしか出場できない中、出場者選出の参考のひとつとなるのが、来年1月末にポルトガルで開かれる世界予選大会だ。世界卓球連盟の規定によると、世界予選大会への出場条件は、今年6月から開催された合計6回の指定大会の結果に基づくとなっている。実家は農家で経済的に裕福とはいえない牛嶋さんが、1回で約50万円もの旅費を必要とする大会に参加できたのは、わずか2回。それにもかかわらず、初戦のエジプト大会では3位、第4戦のカナダ大会では優勝し、最終結果で見事に日本人選手トップの3位に入った。そして、世界卓球連盟から、世界予選大会への招待選手として唯一、指名を受けていたのだ。
しかし、公益財団法人・日本卓球協会(東京・神南)が牛嶋さんに対しとった対応は、あまりに冷酷なものだった。今年3月に同協会は理事会で、世界予選大会への出場基準について、世界基準ではない独自の選考基準へ変更していたのだ。新基準は、国から補助金を得ている「JOCエリートアカデミー」(以下、アカデミー)の生徒に非常に有利な「世界ランキング」で選ぶというもの。アカデミーの生徒は、国の補助金をふんだんに使い、ワールドツアーに好きなだけ遠征することができるので、牛嶋さんと違い世界ランキングを上げやすい環境にある。
この変更について同協会は、「公表していた」と「フライデー」の取材に答えているが、変更の旨が同協会の公式サイトに掲載されたのは5月末。そもそも日本卓球協会は、世界卓球連盟の設定した選考基準との乖離をどう説明するのか。「フライデー」記事中のコメントにもあるが、アカデミーは国から補助金を受けている以上、「出場者はアカデミーから出さなくてはいけない」「補助金が打ち切られるような事態は断固として避けなければならない」という大人たちの勝手な事情が透けて見えてくる。
12月3日、牛嶋さんは、公益財団法人・日本スポーツ仲裁機構(東京・神南)に対して、緊急仲裁申立書を提出したが、仲裁機構が下した結果は「申し立て却下・棄却」という、牛嶋さんにとって極めて厳しいものだった。いったいどのような審理がされたのか知りたいところだが、審理手続きは外部に公開されず、当事者にも守秘義務が課されるので、いい加減な審理がされていても外部にはわからない。不服申し立てもできないため、仲裁した弁護士にとっては都合のよいシステムだ。
ここで問題なのは、仲裁弁護士の中にはスポーツ関連団体の顧問を務めている法律事務所に所属しているだけでなく、自身が顧問を務めているケースもある。彼らが仲裁弁護士を務めている以上、仲裁の公正・中立性などが担保されない恐れがある。仲裁機構に対しては、「仲裁とは名ばかりで、“お抱え弁護士”が協会に都合の良い審理をする、救済とは無縁の場所」という批判の声も聞こえてくる。
16歳の少女には、辛くて重い告発とその結果だったが、この体験を糧にさらに実力を磨き、20年の東京五輪で見事に花開いてほしいと願うばかりだ。一方、スポーツ振興に関わる関係者たちは、仲裁機構の制度や補助金の在り方について問題点を提議し、スポーツに打ち込む子どもたちが、フェアだと感じられる環境を1日も早く整える必要があるのではないか。
(文=横田由美子/ジャーナリスト)