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室井一辰『気になる医療の“裏”話』(8月16日)

「風邪薬は無意味」は医療界の常識?保険適用除外の動き 医療費削減議論が本格化

文=室井一辰/医療経済ジャーナリスト

「風邪薬は無意味」は医療界の常識?保険適用除外の動き 医療費削減議論が本格化の画像17月17日、社会保障制度改革推進会議の模様(サイト「政府インターネットテレビ」より)
 6月に上梓した『絶対に受けたくない無駄な医療』(日経BP社)が出版から1カ月で3刷りとなり、想定よりも売れ行きが好調だ。国を挙げた無駄な医療選定作業が進みそうであることも関係していると思われる。ここ最近で日本の医療経済の観点に関する大きな動きといえば、社会保障制度改革推進会議が7月に始まったところだろう。民主党政権時の社会保障制度改革国民会議と同じく、慶應義塾長の清家篤氏が議長を務め、首相の諮問に応える。医療や介護について、無駄を省きながら効率的に機能を強化することを目的としている。社会保障費の増大が問題視される中、無駄な医療の削減は必然の流れといえよう。

風邪薬の保険適用除外は世界的潮流

 7月18日付日本経済新聞は、この社会保障制度改革推進会議に関連し、健康保険組合の見方として風邪薬や湿布薬を保険適用外とする改革案を紹介していた。この案に反発を覚える消費者も多いかもしれないが、「風邪薬を保険適用から外す」というのは世界的な潮流から見れば違和感はない。

 薬を保険適用外とする施策は過去にも何度か行われてきた。例えば、ビタミン剤の単純な栄養目的としての処方が2012年4月から保険適用外になった。また、最近でも14年4月から、うがい薬単独の処方をする場合は保険適用外になった。以前では風邪で診察を受けた際に、ビタミン剤が栄養補給目的で処方されたり、うがい薬のポピドンヨードが処方されることがあった。結局、ビタミン剤やうがい薬は市販で手に入るし、保険適用により医療機関で安価に手に入れられるのは問題だと結論付けられた。この施策により、国費負担がそれぞれ50億円ほど削減できた。

 もっとも、医療費抑制は重要だが、それにより医療を受ける人の健康が害されたり、寿命が縮んだりしては元も子もない。ビタミン剤やうがい薬は、省いても医療の成果には影響しない、ほとんど無駄な医療行為と判断された面があるのは見逃せない。

●科学的根拠に基づく「無駄な医療」

 今後、国が無駄な医療を削っていく上では指針が必要になる。削減が医療の成果に影響しないと証明できる科学的根拠がいるのだが、実はそのような根拠に基づき「無駄な医療」を列挙したものがすでに存在する。米国医学会がまとめた「Choosing Wisely」である(7月14日付当サイト記事『「無駄な医療撲滅運動」の衝撃 医療費抑制も期待、現在の医療行為を否定する内容も』参照)。

 前出自著では「Choosing Wisely」の内容を100項目にわたってまとめているが、風邪に対してはあらゆる薬の処方は不要とされている。風邪に薬が要らないというのは、医療の分野では長く常識であり、風邪薬への保険適用は変えられない悪弊でもあった。日本感染症学会や日本化学療法学会はガイドラインで、風邪はほぼすべてウイルスを原因とするもので、抗菌薬は効かないとしている。さらに、「Choosing Wisely」では解熱薬すら無用であるとしている。従来の科学的な根拠によると、薬を使っても使わなくても風邪の治療には影響ないとわかっている。国としても、医療行為の成果につながらず、市販薬でも置き換わる薬に保険適用を続けていくわけにはいかない。そうした判断の下で、これから風邪薬が保険適用外となっても不思議はない。

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