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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

戦時化する日本経済?政府債務と「資金供給の量」、太平洋戦争時のレベル以上に

文=小黒一正/法政大学経済学部教授
戦時化する日本経済?政府債務と「資金供給の量」、太平洋戦争時のレベル以上にの画像1マネタリーベースと消費者物価指数の推移

 先般、以下の報道があった。マネタリーベース(現金通貨+日銀当座預金)が約307兆円に達したという内容だ。これは、GDPの約6割に相当する。

「日銀が2日発表した5月のマネタリーベース(資金供給量、月末残高)は4月末から約1兆5073億円増加の307兆3844億円だった。月末残高は10カ月連続で過去最高を更新した。日銀が長期国債を中心に資産を大量に買い入れていることで、資金供給量の増加が続いている。」(6月2日付日本経済新聞記事『5月末の資金供給量、307兆3844億円 10カ月連続で過去最高を更新』より)

 マネタリーベースの増加が続いている理由は、デフレ脱却を図る観点から日銀が2%物価目標を掲げて異次元緩和を行う中で、長期国債を市場から大量に購入しているためである。財政赤字が恒常化し政府債務の累増が進む中、政府債務(対GDP)は約200%にも膨張しており、太平洋戦争終戦直前の水準に再び近づきつつある事実はよく知られているが、歴史的データを眺める場合、マネタリーベース(対GDP)の推移はどうか。

 冒頭の図表は、筆者らの論文(http://t.co/Vwu6vrFJL9)のデータを利用し、1926年から2014年までのマネタリーベース(対GDP)等の推移をプロットしたものである。

 左側の目盛りが「マネタリーベース(対GDP)」の値、右側の目盛りが「インフレ率」(消費者物価指数)の値を表すが、この図表をみると、マネタリーベース(対GDP)の値は26年から39年の間は約13%、50年から95年の間は概ね10%以内であったことが読み取れる。

 マネタリーベース(対GDP)が現在のように急増した時期が過去にもある。それは戦前であり、ピークは終戦直前(45年)の39.2%である。また、終戦直後は物資の供給が需要に追いつかなかった等の要因もあるが、復興で貨幣需要が急増する中、45~47年において、消費者物価指数で約115~289%にも及ぶ突然の高インフレが発生し、戦後直後の政府債務(対GDP)は急減した。その背後には「戦時補償特別税」による債務帳消しもあるが、突然の高インフレに伴う債務削減の要因も大きい。

 なお、現状の異次元緩和が続くと、筆者の試算では、マネタリーベース(対GDP)は16年には約8割に到達する。この値は、終戦直前のピーク(45年)の2倍に相当する。

 今回のマネタリーベース(対GDP)の膨張は、最終的に何をもたらすのか、過去の経験や教訓も踏まえつつ、冷静な分析や政策判断が望まれるところである。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)

小黒一正/法政大学教授

小黒一正/法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。


京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。


1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。会計検査院特別調査職。日本財政学会理事、鹿島平和研究所理事、新時代戦略研究所理事、キャノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は公共経済学。


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Twitter:@DeficitGamble

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