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鉄道業界に激震…東急電鉄、鉄道事業分社化の裏に強烈な危機感 渋谷駅の“通過駅化”懸念

文=編集部
鉄道業界に激震…東急電鉄、鉄道事業分社化の裏に強烈な危機感 渋谷駅の“通過駅化”懸念の画像1東急東横線(「Wikipedia」より)

 東京急行電鉄は、祖業の鉄道事業を分社化する。2019年6月に開く株主総会での承認を得て、同年9月に実施する。分社化された鉄道事業は、東急電鉄が100%出資する新会社が担う。つまり、鉄道事業は東急電鉄の100%子会社に任される。

 分社後の新会社には鉄道事業の約3000人の社員が移籍し、社長には鉄道事業出身者を据える。分社化に伴い、東急電鉄は社名の変更や、新会社の社名を決める。

 持株会社には、子会社が事業を行いつつ親会社を統治する「純粋持株会社」と、親会社が自らも事業を行いながら子会社を監督する「事業持株会社」がある。

 関東の私鉄では西武ホールディングス、相鉄ホールディングス、関西の私鉄では近鉄グループホールディングス、阪急阪神ホールディングス、京阪ホールディングスが純粋持株会社だ。

 東急電鉄は現在も百貨店、スーパー、ホテルなどを子会社が事業を行い、事業持株会社の形態である。鉄道事業を分社した後も、東急電鉄本体には鉄道沿線を含む不動産事業が残り、事業持株会社のままである。

 祖業である鉄道事業の分社化に驚きの声が挙がる。

 渋谷は東急電鉄グループのホーム・グラウンドだ。東急といえば、真っ先の思い浮かべるのが創業者の五島慶太だが、五島は株式を多数持って支配していたわけではない。1920年、運輸官僚から武蔵電気鉄道(現東急東横線)に転出し、手段を選ばない敵対的買収で事業を拡大した。1934年、渋谷にターミナルデパート・東横百貨店(現東急百貨店)を開業。渋谷を本拠地に“大東急王国”を築いた。

 東急が今年3月に発表した中期3カ年中期経営計画には、分社化の陰すらなかった。関係者が一致して指摘するのは、東急田園都市線のトラブルである。2016年と17年の2年間で、13件のトラブルが続発した。17年10月、田園都市線三軒茶屋駅で停電が発生。同年11月15日に起きた田園都市線の架線トラブルは、朝の通勤ラッシュの時間帯を直撃。約4時間半にわたり電車がストップし、約12万6000人の足に影響した。「安全性をないがしろにした」と経営陣は批判された。

 鉄道事業を抜本的に立て直すための具体策が、鉄道事業の分社化とみる向きが少なくない。

 鉄道事業は祖業であると同時に、東急電鉄の屋台骨だ。そのため、“鉄道マン”には本家意識が強い。それを分社化して伊豆急行、上田電鉄などと同列に扱うということなら、プライドの高い鉄道マンたちのショックは測りしれない。

渋谷駅周辺の大改造計画「グレーターシブヤ」

 鉄道事業の分社化を発表した翌日の9月13日、東急電鉄は渋谷駅南側に大型商業施設「渋谷ストリーム」を開業した。13年に地下化した東横線の線路跡地に建設した、高さ180メートルの超高層ビルである。

 渋谷ストリームは地上35階建で、延べ床面積は11万6000平方メートル。1~3階に商業施設、4~6階はホール、9~13階にホテル「渋谷ストリームエクセル東急」(177室)が入る。14階から上のオフィスフロアにはグーグル日本法人が本社機能を置く。

 13年3月、東横線と東京メトロ副都心線の相互乗り入れが始まった。横浜から乗り換えなしで新宿3丁目とつながるため、東横線沿線の利用客が伊勢丹新宿本店に吸引される心配が出てきた。新宿の伊勢丹と渋谷の東急百貨店では集客力に雲泥の差があるからだ。

 東急電鉄の経営陣は、渋谷駅が通過駅になるのでないかとの危機感を抱いた。そこで、渋谷の集客力を高めるために超高層複合施設を建設する「グレーターシブヤ」構想を打ち出したのだ。

 第1弾が渋谷駅東口の東急文化会館跡地に建設した「渋谷ヒカリエ」。第2弾が渋谷と原宿の起点にある「渋谷キャスト」。第3弾が渋谷駅南側の「渋谷ストリーム」。同時に、渋谷川沿いの遊歩道の先に「渋谷ブリッジ」を開業した。

 19年度には、高さ229メートルの「渋谷スクランブルスクウェア東棟」や「東急プラザ渋谷」、駅南側の渋谷駅桜丘口地区など、複数の再開発が進む。スクランブルスクウェアは百貨店の西館あたりに西棟、JR渋谷駅の真上に中央棟を建設し、いずれも28年の開業を目指す。現在、渋谷駅周辺の6カ所で再開発を進めており、22年度までに1350億円を投じる計画だ。

 社運を賭けた巨大プロジェクトが進行中だが、再開発の道筋がついたことで、鉄道事業の分社化に踏み切ったとの見方が広がっている。

 これからは鉄道事業ではなく、不動産事業に軸足を移すとの宣言といえる。

 東急電鉄の18年3月期連結決算は、売上高に当たる営業収益が前期比1.9%増の1兆1386億円、営業利益は同6.3%増の829億円。このうち鉄道やバスの交通事業の営業収益は2115億円で、営業利益は290億円。営業収益は全体の18%、営業利益は35%に相当する。

 一方、不動産事業の営業収益は1825億円、営業利益は323億円。営業収益は全体の16%、営業利益は39%だ。

 東急百貨店や東急ストアのリテール事業の営業収益は4844億円、営業利益は61億円。営業収益は全体の42%強を占めるが、営業利益は7%にすぎない。リテール事業の低収益を、鉄道と不動産の収益で補っている構図だ。いずれにしても、鉄道事業が大黒柱であることに変わりはない。

 事業会社を子会社としてぶら下げる純粋持株会社に移行するのが定石だが、鉄道事業だけを分社化することに、どんな意味があるのか。

 事業部門の分社化は、通常、不採算事業の分離を目的としたケースが多い。鉄道事業だけを分社化することが、鉄道マンの士気にどう影響するかが気がかりである。祖業の分社化は吉と出るか、凶と出るか。
(文=編集部)

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