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「食べログ」のブラックボックス…“広告費と評価点数”の知られざる関係

文=深笛義也/ライター
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「食べログ」公式サイトより

 グルメサイトが飲食店に対して不正な取引をしていないか実態調査に乗り出すと、公正取引委員会の山田昭典事務総長が10月9日の定例会見で語った。対象になるサイトについて、「それなりに名の通ったところは基本的に調査対象になっている」として具体名は挙げられなかったが、「食べログ」「ぐるなび」「ホットペッパーグルメ」であるとする報道もある。

 いったい何が問題になっているのか。飲食プロデューサーで東京未来倶楽部代表の江間正和氏から聞いた。

「『ぐるなび』と『ホットペッパーグルメ』は純粋な広告媒体なので、飲食店との問題は生じにくいといえます。一方、電気製品の価格比較ウェブサイト『カカクコム』から派生した『食べログ』のコンセプトは、ランキングと口コミで探せるグルメサイトです。実際に飲食店に食べにいったお客さんが、口コミを書き点数を付けるというところが出発点だったわけです。個々の飲食店のページも、お店が立ち上げる場合もあれば、行ったお客さんが立ち上げることもできる。消費者の視点に立っているから信用できるとか、点数が気になる日本人の気質みたいなものもあって、『食べログ』がどんどん力を持ってきた。そこで、いよいよ『食べログ』も広告費を取れる媒体になってきたということで、広告費を取るようになったんです」

 飲食店を探すために利用するユーザーにとって、「食べログ」は口コミサイトという印象が強く、広告媒体でもあるということはあまり知られていないのではないか。広告費については「食べログ」サイト内のかなり見つけづらいところにページがある。

・プレミアム10プランS:月額固定費100,000円 + 従量料金
・プレミアム5プランS:月額固定費50,000円 + 従量料金
・ベーシックプランS:月額固定費25,000円 + 従量料金
・ライトプランS:月額固定費10,000円 + 従量料金

 サイトを通じて来店した客数に対して、ランチなら1人につき100円、ディナーなら200円徴収するというのが、従量料金だ。

「広告費を払うことによって、検索結果で上位に表示されたり、他店舗のページで近くの店として紹介されて露出度が高くなり、写真枠が追加されるなど表現力も上がります。パソコンで『食べログ』を開くとまず出てくるのが『標準』というもので、これは会員店舗優先順で、広告費を払っている店が上位に表示されるようになっているわけです。『標準』の横に『ランキング』というタグがあって、そこをクリックすると、点数順に店が並べられているのを見ることができます。他に『口コミ数順』『ニューオープン順』のタグがあります」

 試みに銀座エリアでランキング検索すると、満点の5.0や4.0以上の店が並び、予約困難な店という口コミが目立つ。こうした店は「食べログ」に頼る必要のあるはずもなく、広告費は払っていないのだろう。同じ銀座エリアでも標準の検索だと、3点台の店が並ぶ。

「パソコンで見る場合でも特に意識して『ランキング』をクリックしない限り、『標準』で見ることになります。多くの人はパソコンではなくスマホで見ますが、その場合、『標準』でしか見ることができません。スマホで『ランキング』を見るには、『食べログ』の有料会員にならなければなりません。全体的に見て、広告費を多く払っている店の露出度が高くなって有利だということになります。

 そこから、『食べログ』では金で点数が買えるというような、都市伝説が出てきたのです。広告費によって優遇が受けられるのは事実ですけど、点数を上げるということはしていないでしょう。点数の公正性や客観性が『食べログ』の最大の売りなので、そこを自ら崩すということは考えられません。

 ただし、点数というのは口コミを書いた人たちが付けた点数を、単純に平均したものではないんですね。食べ歩きの経験が豊富な人の影響を考慮するという考えで点数を算出しているわけですけど、その具体的なアルゴリズムは公表されていません。『食べログ』からしてみたら、その内容を説明してしまうと、それをうまく利用して点数操作をする者が出てくるので、アルゴリズムは公表しませんというスタンスなんですね。結局そこはブラックボックスになっていて、これも点数なんかお金払えばいじれるんでしょ、と見られる要因になっています」

「食べログ」の二面性

 口コミサイトと広告媒体という2つの面を、今の「食べログ」は持っているということになる。

「広告費を取ろうということで、『食べログ』は営業に力を入れたんです。自分たちの社員も増やしましたけども、営業の代理店制も敷いています。代理店の歩合制の営業担当者からしたら、数字を上げてなんぼですから、広告費を払えば表示順位は上がるけど、点数が上がるわけじゃないということを、皆が皆ちゃんと説明できているとは限りませんよね。また宣伝に気を配っていて、営業担当者の話をきちんと把握する飲食店ばかりとは限りません。なんとなく聞き流している店主が、お金を払えば点数が上がるかのような誤解をすることも考えられます。

 また営業担当者からすると、点数の低い店に行くと、『食べログでの点数が低いためにうちはどんだけ迷惑してると思ってるんだ』とボロクソ言われて、契約にならないんですよ。逆に高い点数のお店に行くと、『食べログさんのおかげでお客さんいっぱい来ています』と感謝はされるけど契約にはならない。もう少しがんばれば売り上げが伸びるというあたりの店を狙っていくことになる。それによって、『標準』で検索すると、3.5あたりの点数のお店がたくさん並ぶことになります。

 3.5以上のお店というのは、『食べログ』からしたらお墨付きで、5%のお店にしか与えていませんと、サイトの中でも明記されているんですね。だけど銀座で検索すると、5153件が出て来ますけど1035件が3.5以上、ほぼ20%なんですよ。六本木だと2371件のお店に対して、392件が3.5以上、16%以上です。渋谷が3154件に対して332件だからほぼ10%。新宿は5077件で386件、7%以上あります。上野は1843件で121件で、6%以上です。

 これに対して『食べログ』は、全体のなかの5%ですからという話をするんです。だけど、その全体の周縁を見ていくと、スーパーマーケットのお惣菜であったり、ファミレスや吉野家や松屋などのチェーン店、そしてコンビニエンスストアのお弁当まで評価されてるんですよ。そういうところはどうしたって高い点数が付くわけないですから、全体というのがかなり広いということになって、まっとうにやっているお店は3.5くらいになっちゃうということになります。ただ、口コミ件数が少ないと点数は高くなりません。地方とかで『食べログ』をやっている人が少なかったりすると、いいお店なのに3.0くらいのところもけっこうあるんです。地方でのお店選びでは、3.5以上にこだわる意味はないといえます」

「お店寄り」

 点数を金で買えるという噂とともに話題になったのは、店が望んでいないのにページをつくられ悪評が書かれるということだ。「食べログ」ユーザーを出入り禁止にする張り紙をする店まで現れた。

「そもそもの口コミサイトという性格から、行ったお客さん自身が『食べログ』にお店のページをつくることができます。『新しいお店を登録』というアイコンをクリックして入って行き、店名や住所、電話番号などの詳細情報を入れて口コミを書くと、『食べログ』はお店の存在を確認して載せます。応援してあげようということでページをつくってあげるなら、お店は歓迎するでしょう。

 だけど、何か気に入らないことがあって、クレーム的な内容を書きたくてつくっちゃうという場合、お店としては迷惑ですよね。料理が出てくるのが遅かった、と『食べログ』に書かれた札幌の飲食店店主がページの削除を求めて、2013年に札幌地裁に提訴したことがありました。判決は店の主張を認めず敗訴、札幌高裁でも同様で、最高裁は受理せずに確定しています。『食べログ』としては、飲食店という公共的な場所なんだから、街の風景を描写するのと同じだし、表現の自由もあるという主張でした。札幌高裁も『社会的相当性のある口コミであれば、店舗側に営業上の損失が発生したとしても甘受すべき』と判示しています。

 クレーム的なことではなくても、口コミの時点から何年か経っていて、そこで書かれているメニューはもうないとか、リニューアルして投稿されている写真と内観が変わっているからということで、お店の側から取り下げてほしいという要望が出てくる場合もあります。あくまでもその当時の感想なのだからいじりません、というのが『食べログ』の基本的なスタンスですが、話し合いの結果、要望に応じたケースもあります。どんな口コミでも無制限に許されているかというと、そんなことはなくて、お店側の意見を聞いて、この部分は確かにひどくて営業妨害になりかねないという場合、書き込んだレビュアーに対して、差し戻しますと言って、書き直しを求めるんです。

 ストレス発散で書いているクレーマー的なレビュアーだったりすると、『ちくしょーあの店がチクったんだな』とカンカンに怒って、もっとひどいことを書いたり、ガクッと点数下げたりすることになります。3.0付けてたところを、いきなり1.0を付けたりするわけです。だけど『食べログ』は、トラブルのあったお店の店数を下げることを禁止しているんです。あまりにもひどい場合には、書き込み自体を取り下げてしまう。トラブルをいっぱい起こしすぎているレビュアーは退会させるという対処もしています」

  言論の自由といっても無制限にそれが許されているわけではないのと同じように、常軌を逸した口コミが制限されるのは当然だろう。口コミに関する公正さは保たれているのだろうか。

「私自身、レビュアーであるわけなんですけど、『食べログ』が広告費を取るようになってから、ちょっとお店寄りになっているなっていう気がします。出された料理のお皿がちょっとだけ欠けていたことがあって、それを投稿したら、『事実確認ができません』といって差し戻されたんです。欠けたお皿の画像も投稿しているわけですけど、『そのお皿がそのお店のものかどうか事実確認ができない』というわけですね。『料理の感想を書いてください』って戻ってくるわけなんですけど、サービスやロケーションという項目もあるわけだから、お皿が欠けているのはサービスの問題じゃないかと思うんですよ。

 私は昔タバコを吸ってたので、絶対的な拒絶感はないんですけど、換気が悪かったり、風の流れでタバコの煙が一カ所に固まったりしていて、けっこうきつかったお店があったんです。タバコが苦手な方は避けたほうが無難かもしれません、という口コミを書いたんです。そのなかに『タバコをぷかぷか吸う人たちがけっこう集まっていた』という表現があったことで、他のお客さんたちへの非難に当たる可能性があるということで差し戻されました。他のお店の口コミにはその手の表現もあるので、お店からのクレームがあったんだと思います」

 公正取引委員会が調査しようとしているのは、『食べログ』と飲食店との関係。しかし社会的には、ユーザーとの関係、広告媒体と口コミサイトの両立が成り立つのかが問われているのかもしれない。

(文=深笛義也/ライター)

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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