北九州空港から日豊本線・朽網駅まで歩いてみた…人工島にかかる橋は絶景ながら異常に過酷
北九州空港から、日豊本線の朽網駅まで歩く
北九州空港は、開港から13年と比較的新しいため、ターミナルビルは真新しい印象だ。1Fにコンビニとレンタカーのカウンター、2Fにおみやげなどの物販店、3Fにレストランやラーメン店などが並ぶ、一般的な地方空港のレイアウトだ。
おもしろいのは、展望デッキにある足湯。大人100円、小学生50円で、タオルも販売している。飛行機を眺めながら利用することができ、当日は多くの女性が入れかわり立ち替わり利用していて、かなり賑わっている印象だった。
コンコースには日産の車も展示されていた。空港が所在する苅田町には、日産の生産拠点である日産自動車九州の工場がある。実は九州北部にはトヨタやダイハツのほか、サプライヤーなど自動車関係の生産拠点が数多く集積している。
ターミナルビルを出ると、空港ではおなじみの巨大駐車場が出現するが、その先の様相が他空港と異なるのは人工島ならでは。当然のことながら、島内には民家は1軒も存在せず、ビジネスホテルと空港関連施設しか見当たらない。とにかく風景が無機質だ。
地面もアスファルトとコンクリートばかりで、30度を超える気温の中ではなかなかキツい。ホテルや空港施設、レンタカーの営業所の横を抜け、15分ほどで連絡橋の手前までたどり着いたが、この時点でかなり体力を消耗した。念のためにターミナルビルで500mlのペットボトルを2本買っておいたが、すでに1本を飲み干した。道中は店はおろか、自動販売機も一切ないので、特に夏場は注意が必要だ。
東京のレインボーブリッジや横浜ベイブリッジなどの巨大な橋は、歩道が存在していても、途中に階段があるなど徒歩での通行は面倒なことが多い。自動車の通行がメインであり、時には進行方向へ向かってマイナスに伸びる歩道や、螺旋階段など、あくまで歩道は車道のオマケという姿勢がありありとうかがえる。
しかしこの連絡橋は、かなり歩行者に良心的だった。橋のかなり手前から緩やかにスロープが延びていき、橋の最高点までほぼ傾斜が一定で、実に歩きやすい。段差もほとんどなく、路面の被膜が経年劣化で傷み、やや滑りやすい部分はあったものの、全体的にはストレスなく歩くことができた。時折、自転車も通るのだが、交通量が少ないうえに歩道も幅が広いので、すれ違いもスムーズだ。
海の上から周囲を見渡せる景観も新鮮。変化が少ないことを予想していたが、前後左右を見ながら歩いていると、意外に飽きない。ただ、夏場でも十分に風は強かった。冬場は凍えるような寒さになることが予想されるため、あまりおすすめはできない。
朽網駅まで約10km、所要時間は約2時間30分
休みながら30分ほどかけて橋を渡ると、残念ながら本土側には階段と、ジグザグ折り返すスロープの2ルートが出現した。しぶしぶ階段を降りたが、空港から駅へ向かうより、駅から空港へ向かう場合の方が、格段にストレスが大きいといえそうだ。
そのまま歩道のある道をひたすら真っ直ぐ歩いて行くのだが、右手には海、左手には空き地と工場群が並ぶばかり。相変わらず店はおろか、自販機のひとつも見当たらない。つまり、空港から徒歩で脱出する場合、ターミナルから1時間以上に渡って、まったく飲み物を入手することができないのだ。
さらに困ったのが、トイレがないこと。橋のふもとにあった駐車場にはトイレがなく、沿線には公園すら存在しないため、用を足せるところがまったくない。特に女性は注意が必要だ。緊急の場合は徒歩移動をギブアップして、冒頭に書いた朽網駅行きのバスやタクシーを利用することも検討してほしい。
自販機をようやく見つけたのは、豊前松山城址のある小高い山の手前。このあたりですでに出発から6kmを超え、暑さもあってかなり体力を消耗しだした。座って休める施設はなく、信号もない道なので立ち止まることすらない。これまで歩いてきたルートに比べ、圧倒的に過酷だ。
それでもさらに5分ほど歩くと、ホテルなど商業施設の建物が見えてくる。近づいていくとコンビニも見えてきて、ようやく人心地がついたが、体力的にはもうヘロヘロだ。県道25号という大きな道路を右折すると、飲食店もちらほらと見られるようになってきた。
ここからさらに1.5kmほど進み、朽網川という小さな川沿いに左折すると、ようやく朽網駅の入口に到着した。距離は約10km、所要時間は約2時間30分だった。
とにかく今回のコースは過酷だ。海沿いとはいえ、コンクリートとアスファルトの上を歩き続けるため、夏場は水分補給が欠かせない。一方で冬場は強風が吹き荒れることが予想される。春秋も気温変動が激しそうで、服で上手く体温調節することが求められそうだが、大きい荷物を背負うには距離が長すぎる。
前述のように、あらかじめバスの時刻を調べておいて、体調・体力と相談しながら、ギブアップも視野にいれて挑んだ方がいいと思われる。そんな過酷なルートだった。
(文=渡瀬基樹)