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クラシック音楽のCDレコーディング、気の遠くなる作業と優秀なプロデューサーのスゴさ

文=篠崎靖男/指揮者
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「Getty Images」より

「少し雑音が入った。もう一度演奏して!」

 これはオーケストラを録音する仕事の際に、しばしば録音プロデューサーから飛んでくる言葉です。正直に言うと、指揮者も楽員もうんざりしてしまいます。オーケストラが演奏しているステージには、全体を録音するメインマイク以外に、各楽器別の小さなマイクがたくさん置かれていて、楽譜をめくる時に起こってしまうような小さな雑音でも録音してしまいます。どんな小さなノイズでも、入ってしまったら、そのCDは売りものになりません。僕も「指揮台からノイズが出ている」と叱られて、固い底の靴を履いてきたことを謝りながら、靴を脱いで指揮をしたこともあります。

 オーケストラは60名程度から、ときには100名以上のメンバーで演奏するわけですから、当然のごとく、ひとりくらいはうっかりとミスをすることもあります。そんな時にも録音プロデューサーから、無情にも「撮り直します」と声がかかるのです。ある奏者が超難関のソロをなんとか吹き終えたのに、どうってこともない音符を演奏していた仲間がうっかりミスをしたばかりに、すべてが無駄になることもしばしばです。録音は商品として完璧なことが前提なので、そうなってしまうと何度も録り直し作業が続きます。わかりやすく説明すると、小学校でクラス全員の大縄跳びをする際、毎回誰かひとりが縄に足に引っかけるという、袋小路に入り込むような状況が近いと思います。

ポップスとクラシックの違い

 これには、ポップス音楽とクラシック音楽の大きな違いが関係しています。

 ほとんどのポップスコンサートでは、音響機器が欠かせません。エレキギターや電子ピアノのような楽器はもちろんですが、マイクで拾った音が、音響機器を通りながらイコライジングされ、魅力ある音に変換されてスピーカーから聴衆に届きます。エコーもかけたり、かけなかったりしながら音をコントロールしていくので、クラシック専門ホールが持つような残響は、むしろ邪魔になります。

 そのため、メンバーが一緒に演奏していても、各セクションに単独のマイクがつけられ、別に録音していく方法が一般的です。録音後にベースギターの間違いに気づいても、その奏者だけをスタジオに呼んで間違えた部分だけを録り直せばいいわけです。もちろん、ベースギターの1音の間違いのために、超多忙なスター歌手に再度スケジュール調整をしてもらうことができないといった事情もあります。

 ところがクラシック音楽の場合は、野外コンサートなどの特別な機会でない限り、マイクを使わない生音で演奏します。残響のあるホールの中で、各楽器の音を美しくブレンドすることによって音づくりをしていくので、録音であっても全員が一斉に演奏していることが必要なのです。

 したがって、録音が終わってから大きなミスでも見つかったら大変です。もちろん、そんな事態を防ぐために、指揮者も入念に音をチェックしながら指揮をしていますが、それ以上に、別室でヘッドフォンを耳に当てながら1音の間違いも聞き漏らさないように、それこそ瞬きもせず楽譜を見つめている音楽プロデューサーの資質は、もしかしたら指揮者以上なのかもしれません。特に、海外のクラシック音楽専門のメジャーレーベルのプロデューサーのすごさを目の当たりにすると、驚き以上の気持ちになります。

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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