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クラシック音楽のCDレコーディング、気の遠くなる作業と優秀なプロデューサーのスゴさ

文=篠崎靖男/指揮者

優秀なプロデューサーの条件

 しかも、オーケストラの仕事時間は厳密に決められており、各奏者の精神的、肉体的な限界もあるので、限られた時間のなかで、プロデューサーは瞬時に「何が一番大切か」と優先順位を決めて、「ここをもう一度」「ここはいいので次に行こう」と指示を出すのです。

 しかし、もう時間もないにもかかわらず、自分のソロに満足がいかず「もう一度!」と言う奏者もいます。そんな時はプロデューサーもイライラしているかもしれませんが、やはり、最高の音を録りたいという思いは演奏家側も同じです。よほどのことがない限り断らないところを見ると、余裕を持ったスケジュール管理を頭の中でつくり上げているのだと思います。つまり、優先順位を決め、瞬時にスケジュール管理を構築するのが、優秀なプロデューサーの要素でもあるのです。

 これは、指揮者の仕事でも同じです。限られたリハーサル時間のなかで最高の結果を出すためには、この2つの要素は欠かせません。

 僕は、この録音作業を英国、ドイツ、フィンランドと、さまざまな国で経験してきましたが、やり方はどこも同じです。まずは一度軽く演奏して、録音技師が音を調整し、それからマスターとなる演奏を一度録音します。それを指揮者も含めて一度聴いてから、問題がある場所を部分的に録音していきます。ミスがあったところや、演奏がうまくいっていないところを録り直していくのです。そんな録音作業がすべて終わったあと、プロデューサーは音源をスタジオに持ち帰り、パッチワークのようにつぎはぎして完璧なものをつくり上げて、CDやラジオ放送等で使われていくのです。

 しかし、やはり指揮者もオーケストラ奏者たちも人間です。何度も同じところをやり直させられていると、だんだんと集中力がなくなっていき、心の入らない演奏になってしまうこともあります。僕は、その時に優秀なプロデューサーのもうひとつの資質を感じるのです。ステージから離れた別室で、小さなモニターと音だけを聴きながら、オーケストラの集中度合いを見定め、タイミングよく休憩を取ったり、次の楽章に進んでリフレッシュするなど、そういった相手の心の状態を読み取ることができるプロデューサーと仕事をしていると、完成した録音からもオーケストラが存分に演奏していることを感じるのです。

(文=篠崎靖男/指揮者)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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