石徹白未亜「ネット依存社会の実態」

「ゲーム依存」が疾病分類に追加、業界から反論…パチンコ業界より圧倒的に遅れる依存対策

「gettyimages」より

 世界保健機関(WHO)が定義する「ICD-11(国際疾病分類)」に、今年新たに「ゲーム障害」の文言が加わった。しかし、このゲーム障害の定義は同じICD−11の中にある「ギャンブル障害」の診断基準をゲームに書き換えただけのように瓜二つだ。

 果たして、ギャンブル障害とゲーム障害はどこまで似ていて、ギャンブル依存対策はどこまでゲーム依存に有効なのだろうか? 10月26日に行われた「ゲーミングの未来を考える会」の研究会において、筑波大学図書館情報メディア系助教の照山絢子氏により、「依存問題の支援現場から見えること~ギャンブル依存からゲーム依存へ~」の講演が行われた。前編に続き、その様子をお伝えする。

進むパチンコ・パチスロ業界の依存対策

 照山氏は医療人類学を専攻しており、ギャンブル依存研究にも詳しい。意外にも思えるが、パチンコ・パチスロ団体はギャンブル依存対策をかなり積極的に行っている。照山氏によると、ギャンブル依存対策を支援する団体は、支援者の属性により「自助系」「医療系」「啓発団体系」のほか、パチンコ業界では自らが依存対策を行っており「業界系」も存在する。

 パチンコ・パチスロにおいては全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)が依存問題対策にあたっており、全国のホールで実施されている。全日遊連によるギャンブル依存対策の取り組みの一部を紹介する。

・依存症支援施設、研究プロジェクトに活動助成、研究助成

・全国のすべてのホールに依存問題に対する研修を受けたアドバイザースタッフを配置

・自己申告、家族申告プログラム

・ホール内のATM撤去推進活動

・本人・家族向けのコールセンター

 こうしてみると、単に「啓発のポスターを貼るだけ」よりも踏み込んだ、実態や実情に即した支援が行われていることがわかる。

 なお、「自己申告、家族申告プログラム」は、本人もしくは家族からパチンコ、パチスロ利用を控えたい、もしくは禁じたいと申告があった場合「今日は終わりですよ」とスタッフが利用者に声をかけたり、禁止要請の場合は入店拒否を行うケースもある。ユーザーに一番近い「業界の中の人」だからこそできる依存対策だ。

「業界主導のゲーム依存対策は、まだ進んでいない。パチンコ・パチスロ業界の取り組みは示唆に富むものではないか」と照山氏は話す。

 一方で、ギャンブル依存の対策はそのまますべてゲーム依存にスライドできないとも照山氏は指摘する。ギャンブル依存と比較した際のゲーム依存特有の問題として、「(1)未成年ユーザーの存在」「(2)ゲームはパチンコ、パチスロホールのような『場所』性を持たない」「(3)e-sportsの台頭との兼ね合い」を挙げた。

 照山氏の講演の後、質疑応答では「パチンコ・パチスロ業界は構造が似ているが、ゲームはPC、家庭用ゲーム機、そしてスマホなど、構造が共通しておらず、業界団体としての結束が強くない。さらに、いくつかの大規模ゲームタイトルは事業者の拠点が海外にあり、日本には支社がない場合もある。その上、ゲーム業界は栄枯盛衰も激しく、かつLINEのような多事業展開の一部でゲーム事業を運営している企業とゲーム事業専業の企業の温度差もあり、パチンコ・パチスロ業界に比べ、統一見解が出しにくいのでは」と、ゲーム業界ならではの構造についての指摘もあった。

海外ではゲームのプラス影響の研究も

 前編の齋藤広美氏(精神保健福祉士)、そして後編の照山氏の講演が行われたゲーミングの未来を考える会の発起人である芳山隆一氏は、もともとはゲーム開発・運営に携わってきた。一ゲームファンとして「デジタルゲームがより健康的に楽しまれることを目指して」という理念のもと、同会を立ち上げた。

 芳山氏はゲーム業界に対し「さまざまな側面からデジタルゲーム研究を牽引してほしい」と話す。ゲーム障害になりやすいゲームとなりにくいゲームの差を解明することは、「予防対策の具体化」や「不要な規制の回避」につながる。

 さらに、一次予防の方法論が具体化されれば医療資源の圧迫を防ぐこともでき、ゲーム障害にかかわるすべての人にメリットがあるのではないか、と芳山氏は話す。実際に、海外の大学におけるゲームが脳や体に及ぼすプラスの影響の研究も紹介された。

 デジタルゲームがこの世に誕生して67年になり、もはやゲームは「子どものもの」だけではない。政治、経済、主義信条などさまざまな文脈の中にゲームが現れるようになり、若者の価値観などにゲームが及ぼす影響は大きくなっている、と芳山氏は指摘する。

 あるデジタルカードゲームの大会で、参加者の1人が(中国との間で政治的混乱が続く)香港を応援するメッセージを表明したところ、賞金を剥奪、一定期間、大会出場を制限されたケースもあったという(最終的には賞金剥奪は撤回)。

「ゲームは楽しい。それでいい。だが、ゲームのまわりにいる人が俯瞰の視点でゲームのことを考える時期が来ているのではないでしょうか」と芳山氏は話した。

「ゲーム依存は病気か」で対立

 研究会の発表後の質疑応答で、ICD-11の中にゲーム依存が含まれたことに対する反対の論文がゲーム業界から資金提供された側から行われており、戦いが始まっている、という指摘があった。「ゲーム依存は病気だ」という主張と「エビデンスが不足しており、疾病定義は拙速だ」という主張の対立だ。

 ICD-11にゲーム依存が入ったことに対し、前編で講演の様子をお伝えした齋藤氏は「『ゲーム障害』という病気だとわかったことで安心する方も、家族もいる。一方で、ゲーム障害という言葉があるからこそ反発する人もいて、その見極めは難しい。ただ、言葉が広まっていくのは悪いことではないと思う」と話す。

 芳山氏も「ゲームが要因で家族の断絶が起きるのは、ゲーム業界に身を置いていた自分として、とてもつらいことだ。ICD-11に加わったことがトリガーとなり、議論が深まること自体はいいことだと思う。事業者は『しょせん遊びを提供しているのだから、特に深く考える必要はない』とは思ってほしくない。いろいろな文脈で語られることが多くなったゲームにさまざまな視点を向けてほしい。それぞれの人が、ゲームにもらったものに対して恩返し的に返したほうがいいのではないか」と話した。

「似た反応」が続出する不気味さ

 私自身はライターであり、ゲーム依存が病気かどうかを判断できる立場ではない。だが、ゲームやゲーマーに対し批判的な記事が出た際に、ツイッター上の「一部」のゲームファンの反応は、テンプレートでもあるのか、と思うくらい、そのヒステリックな反応が似ていて不気味に思うことがある。ヒステリックさが不気味なのではない。判を押したようにヒステリックさが「似ている」ことが不気味なのだ。

 何もこれはゲームに限らず、政治、社会問題界隈でもツイッター上でヒステリックな人はよく見かける。(そもそも字数制限のあるツイッターで議論や問題提起をするのはテクニックが必要で、感情に流されやすい媒体なのではないかという問題もあるが)。

 怒っている人たちは「頼まれてもいないのに、仕事でもないのに、自らの精神状態を健やかで穏やかなほうに置けず、あえて自ら闘いの道を突き進んでいる」といえる。毎日、何かに腹を立てることを自分に課しているのだ。そして、そういう人たちの発言は、共通の回路があるのではと思うくらい、そのヒステリックさが似ている。

 もともと血の気が多い人で、そうしているのが楽しいのであればいいのだろうが、「自力でもう止めることができなくなっている」のであれば、それはもうすでに病的な状態なのではないだろうか。

石徹白未亜/ライター

ライター。得意分野はネット依存・同人文化(二次創作)・ファッション。ネット依存では自身の体験をもとに書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)を執筆、NHK『ハートネットTV』、フジテレビ『バイキング』、朝日新聞、週刊文春等メディア出演多数。個人に向けたスタイリストとしても活動しており、著書に男性スーツ本『できる男になりたいなら、鏡を見ることから始めなさい。』(CCCメディアハウス)。ユニ・チャーム株式会社でのスーツ着こなしセミナーなど、ファッション研修も多くの実績あり。おうち大好きインドア派。同人誌と串揚げとしめさばとビールで生きてます。
●「主なプロデュース作品
『何になりたいかわからないけど就活を始めるあなたへ まず自己分析をやめるとうまくいく』辻井啓作(高陵社書店)
『自分のイヤなところは直る! 』牧野秀美(東邦出版)
『英語がサクッと口から出る 英語の「筋トレ」4センテンス繰り返しCDドリル 初級編 』渡部泰子(主婦の友社)

Twitter:@zPvDKtu9XhnyIvl

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