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関西電力が人選して多額報酬を払う第三者委員会が、金品受領問題を調査する“茶番劇”

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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関電第三者委員会の但木敬一委員長

 関西電力役員らが福井県高浜町の森山栄治元助役(18年3月に90歳で死去)から多額の金品を受けていた問題について、調査中の第三者委員会(委員長・但木敬一氏)の経過会見が昨年12月15日にあった。元検事総長の但木氏は「多くがすでに亡くなっており解明が難しい」としながら、「100人以上の聴取を終え、関係会社等600人の書面調査も行った」「グループ会社の社員も含めて、情報収集するホットラインを設置。消去された役員のパソコン内容やメールも復元させる作業も進めている」とした。

田中角栄にも似る森山手法

 先立つ12月13日、市民団体「関電の原発マネー不正還流を告発する会」が、会が募った3272人が告発人になった告発状を大阪地検特捜部に提出した。役員ら12人に対する告発容疑の柱は以下だ。

(1)会社法の特別背任罪

 八木誠元会長、岩根茂樹元社長ら4人は、森山氏が顧問だった町内の吉田開発に正当な発注額を超える金額で業務発注し会社に損害を与えた。

(2)会社法上の収賄罪

 吉田開発などに業務を発注する便宜供与のために、森山氏が贈った金品を関電役員らが受け取った。

 提出後に会見した告発代理人の河合弘之弁護士(脱原発弁護団全国連絡会共同代表)は「1000人が目標だったが3倍も集まった。自分たちが払った電気代がそんな汚いことに使われたのかという市民の怒りです。第三者委員会に捜査権限はない。強制権限のある検察しか解明はできない」と話した。

 関西電力の八木誠会長と岩根茂樹社長(ともに辞任)は10月2日の会見で、森山氏の強面の人物像を強調し、恐れて返せなかったことを再三訴えていた。

「『わしの志であるギフト券をなぜ返却するのか。無礼者、わしを軽く見るな』と言われた」

「『トラックで家に突っ込むぞ』と言われた」

「(返そうとした社員を)激しく罵倒、叱責され家族も含めて身の危険を感じることもあった」

 この発言を聞いていて思い出される人物が、1970年代の総理大臣、田中角栄だ。彼は「こいつは使える」と目を付けた相手には最初、意味もなく金品を渡した。もらう理由が何もない相手が固辞すると「まあ、いいから取っておけ。いつか役に立つ」などと押し付ける。仕方なく受け取っていると、あとにじわりじわりとさまざまなことを要求され雁字搦めに陥るのだ。

「福島後」の関電にとって大飯原発や高浜原発の再稼働が重要課題だったのは、八木氏が思わず漏らした「東日本大震災後の再稼働へ向けて、影響力のある森山氏を怒らせてしまうと高浜での運営がうまくいかないというのが社内みんなの認識だった」という発言からもわかる。

問われる第三者委員会

 冒頭の会見で、但木委員長は「今日の会見で関電の施設を借りることもどうかと思ったが、今日は大安の日曜日でホテルがどこも空いていなくて」と発言した。「第三者」を意識した同氏に筆者は「『第三者委員会といってもどうせインチキでしょ』という知り合いの主婦もいる。関電から報酬はもらっているのか?」と極めてストレートに尋ねた。もちろん高額の報酬を受けていることは知っている。

 但木氏は「日弁連の第三者委員会の原則に基づいている。報酬はもらっているが、関電とはまったく独立した調査を進める」などと説明した。

「社の内部報告書の発表のように、墨塗りだらけになるのか」という経済誌記者の質問には、「1万円くらいの中元をもらった人の名をすべて出すことは、ある意味、制裁になりますから」などと言葉を濁した。その報告書をまとめたのが、関西電力外部委員の小林敬弁護士。大阪地検の元検事正だ。但木氏同様、十二分に現役特捜部に睨みが効く。これを見ただけでも、大阪地検が告発を受理して八木氏ら元役員らを刑事訴追するとは思いにくい。

 第三者委員会というのは、世論を意識する傾向が極めて強い。別世界の話だが、昨年、五輪4連覇の伊調馨選手への栄和人・日本レスリング協会強化本部長による「パワハラ騒動」で、同協会の第三者委員会は「パワハラ」の定義のハードルをこの件に関してだけ下げた。パワハラを一切認めなければ、世の批判の矛先が自分たちに向かうからだ。かように第三者委員会というのは、すべて「匙加減」だ。

  第三者委員会のメンバーは関電が決めている。関電問題の最終報告は「年度内も微妙」(但木氏)だという。意外と踏み込んで社員らの実名を出すなどして「社会的制裁」を受けさせるかもしれないが、それが刑事訴追をさせないための「ガス抜き」であってはならない。

(写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト)

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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