
2019年に猛威をふるったインフルエンザですが、年が明けてもその兆候はまだ続いているようです。過去20年で2番目に早く流行が始まったといわれていた昨年ですが、ピークの時期も長く、厚生労働省は全国的にインフルエンザの流行に対しての注意報まで発表するという、異例の事態にまでなっています。これは全国の医療機関での患者数が一定数を超えると出されるものですが、さらに患者数が拡大する様相も呈しています。
都道府県別で見ると、昨年暮れにもっとも患者数が多かったのは山口県で、とうとう警報レベルを超えたともいわれています。次いで多いのが北海道、宮城、青森と東北各県が続き、人口が多い東京、愛知、福岡、兵庫なども患者数は多かったようです。
年末年始で移動も多かったため、感染が拡大してしまったということも、あるかもしれません。
そんななか、さらに困った事態が引き起こされています。それはインフルエンザ治療薬の「ゾフルーザ」に対しての耐性を持ったウィルスが出てきてしまったことです。ゾフルーザは、それまでよく使われていた「タミフル」などが1日2回、5日間継続して服用しなければ効果がないとされていたのに対し、1回飲むだけで効果があるということから医療機関でも多く処方されています。インフルエンザ患者の約40%の人たちには、このゾフルーザが処方されているということです。
しかし、ゾフルーザに耐性を持つウィルスが現れたということで、日本感染症学会および日本小児科学会などは抗インフルエンザ薬の使用方法について意見をまとめ、「子供についての使用は積極的には勧められない」という提言と指針を示しています。それはゾフルーザ耐性ウィルスも、通常のウィルスと同様の感染力を持つということと、いざ感染してしまった時には重い症状が出る、ということがわかったからです。
インフルエンザ感染から発症の流れ
私たちがインフルエンザに感染した後のプロセスは、
インフルエンザウィルスに感染→リゾチーム(粘膜中に存在するたんぱく質分解酵素)、 インターフェロン(抗ウィルス性たんぱく質)、マクロファージ(大食細胞)が出動→インターロイキン生成(IL-1/炎症性物質/マクロファージや白血球がつくる)→炎症が起きる(発熱・関節痛・筋肉痛)→インターフェロン生成(感染細胞で作られるウィルス抑制物質)→ナチュラルキラー細胞(NK細胞/リンパ球の一種)→感染細胞を殺す
と、ここまではいわゆる自然免疫の働きです。この段階でウィルスを駆逐して治ってしまう場合も多々あります。しかし、ウィルスが自然免疫という防波堤を突破して、さらに侵入してくると、
自然免疫を突破しウィルスが増殖・感染拡大→マクロファージ(大食細胞)が大量につくられる→リンパ球(T細胞・B細胞)大出動→キラーT細胞出動(インターロイキンの刺激でつくられる)→感染細胞を殺す→ウィルスの増殖が止まる→治癒→感染の記憶が免疫系に残る
という経路をたどることになります。いずれにしても、体力、免疫力が高ければ治るわけですが、それが衰えていると、体の中に炎症が広がり、思わぬかたちで余病を併発する、という事態にもなりかねません。
ゾフルーザの例を引くまでもなく、ウィルスを薬でやっつけようとしても、その場が凌げるだけで、ウィルスはその薬の効果をすり抜けるように、形を変え、ある意味での発展をして生き延びようとします。よく言われるように「いたちごっこ」になってしまうわけです。