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今年、東日本大震災級の大地震発生の兆候か…伊豆諸島で土地の異常な高さ変動観測

文=鶉野珠子/清談社
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東日本大震災の津波によって破壊された岩手県大船渡市の中心部(「Wikipedia」より)

地震大国」と呼ばれる日本。近年も、2011年3月11日に発生した東日本大震災をはじめ、16年の熊本地震、18年の北海道胆振東部地震など、大型の地震が次々に起きている。

 これだけ頻発するのだから、いつ、どこで、どのくらいの規模の地震が起きるかを事前に予想することはできるのだろうか。地震予測を配信するアプリサービス「MEGA地震予測」で情報解析を担う東京大学名誉教授の村井俊治氏に、地震予測の実情について話を聞いた。

「予知」は不可能だが「予測」は可能

 日本では毎日のようにマグニチュード(M)4以下の小規模な地震が起きており、大型の地震も多発している。だが、政府は「現在の科学的知見からは、地震の予知は困難」と宣言し、予知のための研究ではなく、被害を最小限に食い止める対策のほうに予算を投じている。

 地震科学探査機構(JESEA)の取締役会長を務め、『地震は必ず予測できる!』(集英社)や『地震予測は進化する!「ミニプレート」理論と地殻変動』(同)などの著書を持つ村井氏は、「現状では『予知』はできませんが、『予測』は可能です」と断言する。そもそも、「予知」と「予測」はどう違うのだろうか。

「発生時期、発生場所、規模の範囲の正確さが異なります。『予知』は、どこで起きるか、どのくらいの規模かをピンポイントに当て、時期も1週間以内などと高精度の情報が求められます。『予測』となると、予知よりは精度が落ちてしまうのです」(村井氏)

 とはいえ、大まかにでも地震が起きる可能性を知ることができるのはありがたい。村井氏は「測量工学の知識を生かして地殻や地盤の動きを観測し、予兆をつかんでいる」と言う。

「観測のポイントは、主に『1週間に4センチ以上の週間高さ変動が複数点にまとまって現れるか』『4週間の単位で水平方向の変動がまとまって現れるか』『ある地域が、ある期間に連続して沈降傾向を示した後、隆起に転じるか』の3点です。今挙げたような変動があると、その土地に震度5以上の地震が起きる可能性が高いといえます。このような変化が地震の予兆である証拠は、162個の地震を解析して証明済みです」(同)

地震予測に懐疑的な目が向けられる理由

 村井氏は、こうした地盤の動きのほか、さまざまな宏観異常現象も地震の前触れとしてとらえ、注視している。

「たとえば、ラドンガスが噴出したり人間の耳には聞こえない音が発生したりと、さまざまな現象が地震の前兆とされています。私の地震予測の主流は地殻や地盤の異常な変動を観測することですが、あらゆる可能性を排除しないことで、より予測の精度を高められるのではないかと考え、研究を続けています」(同)

 しかし、こうした宏観異常現象は科学的な根拠が世界的に認められたものもある一方で、信頼度が薄いものもあるため、日本では明確な地震の前兆として考えられにくいそうだ。さらに、村井氏が地震学者ではないことも、地震予測が「オカルトなのでは?」と懐疑的な目を向けられる一因になっているという。

「私の専門はリモートセンシングです。その知識と技術を駆使して地殻や地盤の動きを見ているわけですが、世間からは『地震の専門家ではないので信憑性が低い』と言われてしまうこともあります。しかし、地震学者は地震のメカニズムや地震によって起こる諸現象の解明が主な研究内容です。地球の動きを見て地震が起こるかどうかを予測するのは、むしろ我々がやっている測量工学の分野といえます。そうした事情が、なかなか理解を得られないようです」(同)

 地震予測という分野は発展途上だからこそ、あらゆる可能性を兆候としてとらえ、広い視野で研究したほうが良さそうなものだが、学術界に多い保守的な考え方とはマッチしないのかもしれない。

東日本大震災と同様の異常な兆候も

 このようにさまざまな観点から地震の予兆をつかもうとしている村井氏は、現在、新たな方法で予測に取り組んでいる。「搬送波位相」という電波が、GPSやQZSSなどの測位衛星から地球に設置された受信局に到達するまでの時間に遅延がないかを見る方法だ。

「地震の直前、宇宙空間の電離圏が乱れることは科学的に証明されています。そして、その乱れが影響し、衛星と受信局の間の電波の到達時間が遅れることがわかったのです。実際、18年9月に発生した北海道胆振東部地震でも、4日前に搬送波位相の遅れが現れています」(同)

 搬送波位相の遅延を近年のM6以上の大型地震のデータと照らし合わせて検証すると、すべての地震で搬送波位相の到達時間が遅れていたことが明らかになったという。今後、この方法を駆使すれば「予測」から「予知」まで精度を高めることもできるかもしれない。

 最後に、20年に巨大地震が起こりそうな危険地域を聞くと、衝撃の答えが返ってきた。

「19年11月に伊豆諸島の青ヶ島で土地の異常な高さ変動を観測しました。その変動差は、なんと81センチ。4センチ以上の高さ変動で震度5以上の地震が起きる可能性が高いので、異常な数値といえます。実は、11年にも同じ観測点で76センチの高さ変動を観測しており、その2カ月後に東日本をM9の大地震が襲いました。東日本大震災です。もしかしたら観測エラーかもしれませんが、その一方で事実かもしれないという考え方も捨てきれません。警戒するに越したことはないでしょう」(同)

 東北地方と青ヶ島は遠く離れているため無関係のようにも思えるが、大きい地震ほど、異常が観測された場所から遠くにまで影響が及ぶという。東北は3.11で地盤が急激に沈降した地域が多く、現在は隆起している傾向にある。周囲の地盤との境界にひずみが生じているため、そこが地震の発生源になり得る可能性もあるという。

「また、台風などによる気圧の変化も地震の発生を後押しすると考えられます。とはいえ、予測は人間でいう健康診断のようなもの。異常が起きそうな兆候をつかんでおくことは非常に重要です。ゆくゆくは予知レベルの高精度な地震の発生予想を可能にし、ひとりでも多くの命を救えたらと思います」(同)

 進化を続ける「地震予測」は、今後「予知」のレベルまで発展するのか。地震大国に住む我々には見過ごせない問題である。

(文=鶉野珠子/清談社)

清談社

清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

『地震予測は進化する!「ミニプレート」理論と地殻変動』 東日本大震災以降も日本各地に大きな地震が頻発している。しかも、熊本、大阪北部、北海道東部など、発生地はランダムだ。しかし、政府や地震学者は「南海トラフ」「首都直下」など特定の地震だけを対象にして「●年以内の発生確率は●%」という占いレベルの警告を発するだけである。いま求められているのは、「根拠と実効性のある地震予測技術」の確立だ。有料会員約五万人に向けて「MEGA地震予測」を毎週発信する著者が、近年の画期的な研究成果を世に問う。 amazon_associate_logo.jpg

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