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藤野光太郎「平成検証」IRカジノ解禁の真実(2)

安倍政権が「世界最高水準」と豪語するカジノ管理委の穴…元検事総長や元警視総監らで構成

文=藤野光太郎/ジャーナリスト
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安倍晋三首相(写真:つのだよしお/アフロ)

「巨悪を眠らせるな!」と言ったミスター検察・伊藤榮樹検事総長は「検察は警察に勝てない」とも言った

 もし、検察が「公務員の職権濫用」を問うて警察を追い込めば、おそらく刺し違える前に検察庁は深手を負う。

 1980年代半ばに検察庁トップに就任し、以降「ミスター検察」との異名を取った伊藤栄樹検事総長(当時)は「巨悪を眠らせるな!」と検察官たちの士気を鼓舞した。“巨悪”とは、いわば「大規模で奥深い犯罪構造の最深部から、意のままに力を行使する存在」としてイメージされるものだ。

 しかし、同氏は自らの検察人生を回想した著書『秋霜烈日』(朝日新聞社)で、「検察は警察に勝てない。勝てたとしても双方に大きなしこりが残る」「警察が捜査で職権濫用せざるを得ないようなら、それを可能にするための法律をつくったらよい」(以上、筆者要約)とも言っている。法の手続きとして、これは正論かもしれないが、法の理念からは逸脱気味であり、道義的には投げやりにも読める。

 伊藤検事総長の時代、政権は米国の意のままに「規制緩和/民営化」の推進を国策とした中曽根康弘内閣だった。かつて特高警察の元締でもあった「内務官僚」出身の中曽根元首相は、もちろん警察と対峙することはなかった。

 仮に警察が組織的な不正を行って、それが発覚したとしても、検察が「巨悪を眠らせない」と本気で胸を張る機会はなかなか訪れがたい。伊藤氏は「巨悪の摘発」を夢想したが、それは今も国内外の高枕でいびきをかいている。

 言うまでもなく、犯罪は立証されなければ成立しない。国民に代わって犯罪を取り締まり、容疑者を逮捕し、起訴して法廷に立たせるのは「警察」と「検察」の役目である。平成末期に準備され、令和に入って始動した「カジノ管理委員会」には、まさしくそれを絵に描いたような人事が配置された。

「検察+警察」という、捜査機関の国内ツートップによる人事構成で誕生した同委員会は、かつて検察トップが洩らした力関係に無縁でいられるだろうか。捜査・立件・公表で両者に政治的妥協があれば、不当・不正・違法は結局、野放しになり、どうでもいいような“雑魚の摘発”だけが「正義のアリバイ証明」として使われることになる。

強行採決で合法化したIRカジノ事業だが、“イカサマ”が心配だからこそ規制機関には強大な権能が

 前回の記事で、「日本におけるカジノ開業に向けて内閣府が設置したカジノ管理委員会は、その役目を全うできるのか」「今、メディアがもっとも光を当てて動向を国民に知らせねばならないのが、このカジノ管理委員会である」と指摘した。民設民営の胴元が開帳する賭博場に不正・違法があってはならず、そのお目付け役は名実ともに「正当に機能する独立機関」であるべきだからである。

 IRは国の監視・管理の下で運営されるカジノの事業収益で、その区域整備を推進することになっている。後述するように、厳しい規制の実施を法令に明記されたカジノ管理委員会には、IRカジノの数と場所を決め、設置・運営の業者を決め、機械・設備の納入業者を決め、以降もカジノ規制のすべてを取り仕切るための強大な権力を委ねられている。

 安倍内閣は、IRカジノ法(特定複合観光施設区域整備法)の強行採決で歴史に残る「民間賭博の政府公認」という禁断の扉を開いた。少しはその緊張感があるらしく、「無理矢理に法をねじ曲げてカジノを解禁したはいいが、厳しい監視と規制なしで放置したことになれば、事業経営から個々のゲームに至るまで、そこでどんなイカサマをしでかすことか。そうなれば、法制化した責任を問われることになる」との不安はあったようだ。監視・管理を担う規制機関には、少なくとも書面上では相応の規模と権能が備わっているからである。

 平成に準備され、令和に始動したカジノ管理委員会という規制機関は、まだ日も浅く、その位置づけや権能に対する社会的認知が追いついていない。また、それが実はいかに頼りない欠陥をはらんだ機関であるかについても、国民は早い段階で見極めておく必要がある。そのことを理解していれば、官製情報に依存した日々のニュースの真実を国民自身が看破できるからである。

 まずは、カジノ管理委員会の組織概要を整理しておこう。

独立規制機関としての強権を持つカジノ管理委員会の「位置づけ」「規模」「職員配置」

 内閣府の外局である同委員会は行政からの独立性が高く、国家行政組織法の第3条に規定された「三条委員会」の権能を持たされている。行政委員会であるため、他府省の大臣から指揮・監督を受けることはなく、独立した権限行使が可能だ。

 政府が「カジノ管理委員会を2020(令和2)年1月7日に設置する」との政令を閣議決定したのが前年の10月18日。衆参両院は翌11月29日、委員長と委員4名を含むカジノ管理委員会の国会同意人事に同意し、安倍晋三首相が任命した。内閣府が府令として「カジノ管理委員会事務局組織規則」を公布したのは2019(令和元)年12月25日である。同規則は、カジノ管理委員会の発足と同日に施行された。

 一方、20年度予算案の閣議決定は19年12月20日。すでに外局として設置を内定していたカジノ管理委員会の概算要求では、当初の職員95名(つまり、委員含みで計100名の陣容)、関連経費60億円が盛り込まれた。

 同委員会の組織中枢には、総務課に企画官1名、企画課に企画官1名(うち国際室に室長1名)、監督総括課に企画官1名(うち調査室に室長1名)、規制監督課に企画官2名(うち犯罪収益移転防止対策室に室長1名)が配置された。たとえば、調査室には当面10~20名の調査官が在籍して事業者の「背面調査」などを行い、財務の監督課では事業収益が「適正に社会還元されているか否か」を監視することになっている。

 以上の現場部門については、追って検証する。内閣府が「世界最高水準のカジノ規制を行うことにより、クリーンなカジノ・IR事業を実現する中核的な役割を担う機関」と位置づけるカジノ管理委員会は、どのような「人事」と「規制内容」で海千山千のカジノ事業者を監視するのか。

元検事長・元警視総監の采配で事業参入・設備機器・依存症対策・マネロン等を規制するというが…

 まずは、同委員会の「人事」。委員長を含む委員5名の任期は5年(ただし、発足当初の4委員中2名の任期は3年、残2名は5年)である(敬称略)。

委員長 北村道夫(元福岡高等検察庁検事長)

委員 氏兼裕之(元国税庁名古屋国税局長)

委員 遠藤典子(慶應義塾大学大学院特任教授)

委員 樋口建史(元警視総監)

委員 渡路子(精神科医)

 下記は「規制内容」だ。

【免許等による参入規制】
事業者、施設供用者、役員、株主、土地所有者、関連機器等のメーカー等、指定機関などの適格性をチェックし、廉潔性を確保する

【施設・機器の規制】
カジノ施設の数・規模、施設の構造・設備、カジノ関連機器等の基準等、型式検定等

【事業活動の規制】
カジノ行為(ゲーミング)の規制、事業全般の規制、IR事業の業務監査・区分経理・諸書類の届出

【依存症対策】
入場規制、依存症防止措置、貸付制限、対顧客還元サービス規制、広告・勧誘の制限

【資金洗浄(マネーロンダリング)対策】
事業者によるマネーロンダリング対策、チップに関わる規制、取引時確認等の義務づけ

【青少年の健全育成】
入場規制、広告・勧誘の制限

 以上が、カジノ管理委員会の概要である。

 さて、それでは内閣が「世界最高水準の規制機関」と宣言し、人事と規制内容で“万全/鉄壁”の不正防止を誇示するカジノ管理委員会に対して、筆者はなぜ、「素人目にも穴だらけ」で、「いくつもの重大な欠陥・問題をはらんで」おり、「職責を全うできるか」は疑わしく、今のままでは「管理・監督・監視にはならない」と断言しているのか。

 本則であるIRカジノ法の欠陥とは別に、まずはカジノ管理委員会の欠陥を明らかにしておかねばならない。以下、次稿。

(文=藤野光太郎/ジャーナリスト)

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