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江川紹子の「事件ウオッチ」第148回

江川紹子が考える「安倍首相記者会見のポイント」…自粛要請と補償をセットにするために

文=江川紹子/ジャーナリスト
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江川氏の質問に答える安倍首相(画像は首相官邸より)

 新型コロナウイルス感染の対策として、政府や自治体からさまざまな「要請」がなされている。それに従い、感染拡大防止に協力をしたことでさまざまな損失が出ている人たちに対して、損失補填について言及しないまま、「要請」が重ねられてきた。ようやく、安倍首相は3月28日の記者会見で、なんらかの「給付金」を検討すると表明した。一刻も早く、その内容を明らかにし、実施することが求められている。

「要請だから損失は自己責任」はあり得ない

 政府による大がかりな「要請」は、安倍首相が2月26日に全国での大規模なスポーツ・文化イベントを中止もしくは延期、または規模を縮小するよう要請したのを皮切りに、翌27日には全国規模の小中高校の一斉休校を要請。いずれも、専門家の提言ではない、首相の「政治判断」だったが、3月10日には「専門家会議の判断」を受けて、イベント中止を「10日程度」継続するよう、再要請した。同月20日には、専門家会議の提言を受けて、引き続き主催者側に慎重な対応を求める形で、この要請を維持した。

 海外からの帰国者がウイルス感染している例が相次ぐ一方、政府は水際対策の強化として、海外からの帰国者に対し、「(自宅やホテル等に)14日間待機し、空港等からの移動も含め公共交通機関を使用しないこと」も要請している。

 こうした要請に従って、さまざまな活動・仕事を控えている国民、団体、企業は、多くの損失を被っても、なんの補償、損失補填もない。特に、文化・芸術等のイベントに関しては、最初の中止要請からすでに1カ月が過ぎた。このジャンルでは、経営基盤のしっかりした組織に属さないフリーランスも多く、彼らはウイルス感染の収束見通しも立たないまま、いつまで仕事がなくなり、収入が断たれる状態が続くのかもわからないという、物心両面の苦境に立たされている。

 政府の要請に応えて、オペラ公演の無観客上演・ネット中継を行った(当然チケット代は払い戻し)滋賀県のびわ湖ホールの沼尻竜典芸術監督は、「我々は精いっぱいやれることをやるだけだが、文化・芸術は水道の蛇口ではない。いったん止めてしまうと、次にひねっても水が出ないことがある」と述べ、継続性の大切さを訴えている(びわ湖ホールのオペラ無観客上演・ネット中継については、Yahoo!ニュース個人を参照)。

 ドイツでは、文化大臣が「芸術家と文化施設の方々は、安心していただきたい。皆さんを見殺しにするようなことはいたしません!」と力強い言葉で支援を確約し、実際に政府として1兆円を超える支援を発表している。

 イギリスでも、イングランド芸術評議会(ACE)が、アーティストや劇場、ギャラリー、美術館などに合わせて1億6000万ポンド(約210億円)を注入すると発表した、と報じられている。

 一方、日本では3月27日になって、ようやく宮田亮平・文化庁長官が文書によるメッセージを発表した。ただ、その内容は「私が先頭に立って、これまで以上に文化芸術への支援を行っていきたい」という願望を述べただけ。あとは「明けない夜はありません! 今こそ私たちの文化の力を信じ、共に前に進みましょう」という精神論での呼びかけにとどまった。姿も現さないまま、ホームページでこのような紙を発表するだけで、なんらかの効果があると思っているとしたら、あまりにも想像力が枯渇しているといわざるを得ない。

 日本でも、子どもの休校により仕事を休まざるを得なくなった保護者の賃金に対する助成が決まり、新型コロナウイルスで影響を受けた個人事業主、中小企業などを支援する特別貸付制度も創設されて、当面は無利子・無担保で融資を受けることはできる。

 しかし、要請に応えたイベント中止によって仕事を失うのは子育て中の人ばかりではなく、また融資はあくまで融資であって、いずれ返済を迫られる。

 感染拡大を防ぐ、という大義の下に行われた政府の要請に応え、イベントを中止させ、収入を失ったのに、まったくなんの損失補填もなく、「忍耐せよ。金が足りなければ融資を受けろ」というのはあまりにも過酷ではないか。「要請であり、主催者の判断なのだから、損失は自己責任」というのはあり得ない。

 強制力のない要請に従わせるには、主催者の公徳心に訴えるだけでなく、ある程度の経済的なインセンティブも必要だ。そうでなければ、格闘技K-1がイベントを強行し6500人もの観客を集めるような事態が繰り返されかねない。

首相発言を“言いっぱなし”にさせないために

 3月28日に行われた記者会見で安倍首相は、冒頭のスピーチで、初めて融資以外に「給付金制度」を作ると述べたが、その規模や対象などについては明確にしなかった。「困難にあっても、文化の灯は絶対に絶やしてはなりません」とは言うものの、具体策は挙げられず、「この難局を乗り切っていただくことに重点を置いた対策を進めます」と述べるにとどまった。

 しかし、その後の質疑のなかで、私が自粛と補償もしくは助成はセットで行う考えはないか問うたのに対して、安倍首相は次のように述べた。

「(文化芸術等の)灯が消えてしまっては、もう一度それを復活させるのは大変だということは重々承知しております」

「しかし、損失を補填する形で、税金でそれを補償することはなかなか難しいのでありますが、そうではない補償の仕方がないかということを、今、考えているところでございます」

「無利子・無担保で5年間据え置きの融資はあるのですが、やっぱり借りても大変だというお話も伺っています。ですから、そういう方々に対する給付金についても考えていきたいと考えています」

 ポイントを整理するとこうなる。

(1)税金による損失補償はしない
(2)そうではない補償の仕方がないか検討している
(3)給付金という形を考えている

 (1)の点に反応し、非常に悲観的なコメントをしている識者が少なくないが、意気消沈するのは早すぎる。実は、この答弁で大事なのは(1)の部分ではなく、(2)と(3)だと思う。

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