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新型コロナ:安倍首相、江川紹子氏の質問打ち切りが物議…大手メディア、事前に質問提出か

文=編集部
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2月29日、新型コロナ対策について会見する安倍晋三首相(AFP/アフロ)

 安倍晋三首相が2月29日に開いた新型コロナウイルスに関する会見が、質問者が多数いたのにかかわらず打ち切られたことが波紋を呼んでいる。フリージャーナリストの江川紹子氏が「まだ質問があります」と食い下がったのだが、安倍首相は降壇し帰宅。事前に“質問通告”していた5問のみ回答し、36分で終了した。

首相は事前に提出された質問の回答を読むだけ

 江川氏はヤフーニュースの個人ページで1日、『新型コロナ対策・首相記者会見で私が聞きたかったこと~政府は国民への説明責任を果たせ』と題する記事を公開。当日の模様を次のように解説している。

「冒頭、首相から19分にわたるスピーチがあった。続く質疑応答は、初めに内閣記者会(記者クラブ)の幹事社2社(朝日新聞、テレビ朝日)の記者から質問があった。その後、他の記者からの質問に移った。私は『はい』と大きな声を上げながら、手を挙げた。しかし、司会の長谷川栄一内閣広報官は、ただの一度も私の方に視線を向けなかった。指名されたのは、NHK、読売、AP通信の3記者。(中略)

 スピーチの間は、首相の前に立てられた2つのプロンプターは、質疑の時間になると下ろされる。首相は、会見台の上に広げられた書面を見ながら質問に答える。複数の証言によると、首相会見では事前に質問者が指名されており、質問内容も事前に提出している、とのこと。会見開始直前に駆け込んできた男性は、佐伯耕三首相秘書官で、彼が提出された質問への回答を用意し、安倍首相はそれを読んでいる、というわけだ」

「首相会見は政府の方針を確認する場」

 こうした記者会見の様子に、首相官邸と官邸記者クラブに対する批判が噴出している。安倍首相は2日の国会審議で、江川さんの質問に答えなかった理由を野党から問われ、「記者とは事前に打ち合わせをしていた」などと答弁し、さらに物議を醸している。

 そもそも日本の大手マスコミにおいて記者会見とはいったいどういう位置づけなのか。全国紙政治部記者は次のように説明する。

「江川さんがいろいろ批判されていますが、そもそも首相官邸の記者会見というのは基本的な政府方針を確認する場です。江川さんも元新聞記者だったらわかるでしょう。会見で驚くべきニュースが出ることはないというのが、多くのマスメディアの共通認識です。首相を含め、閣僚は専門家ではないので、事前に質問通告を出していないと何も答えられません。

 独自ネタは官邸をはじめ、夜討ち朝駆けや政府高官の囲み取材で各社の担当者がネタをあてて引っ張ってくるものです。政府当局者との信頼関係を醸成していった末に、スクープがあるのです。

 その結果、ニュースは横並びではなくなります。癒着と言われるかもしれませんが、政府側も緊張感をもって取材に対応していますし、政府に取り込まれないように現場の記者教育はしっかりしています」

「『特別に質問する利権』を守りたい」

 だが、そもそも政府高官の自宅に夜討ち朝駆けしたり、囲み取材したりするのには、常時首相官邸に出入りできる官邸記者クラブに属していなければできない。官邸記者クラブは基本的に全国紙などでつくられていて、フリーランスは加入できない。

 安倍晋三首相の会見を含む、各省庁の記者会見はフリーランスにも開放されているが、それらが「政府の方針を確認する場」にすぎないのなら、政府側と大手メディアで構成される記者クラブでつくる茶番と批判されても致し方ないだろう。

 別の新聞社社会部記者は次のように話す。

「これまでもこの問題には多くの指摘が寄せられ、新聞協会や新聞労連などでも研究が続けられてきました。日本新聞協会は2002年に『記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解』とするガイドラインを発表し、開かれた記者クラブや会見のあり方を打ち出しました。

 しかし、確かに会見は開放されてきましたが、質疑の深さに関しては以前より劣化した印象です。会見で、すべてをつまびらかにしてしまえば、雑誌やネットメディアにも同じ深度のニュースが載ってしまうからです。その結果、質問の事前通告が徹底化され、通告外の的を射た鋭い質問は少なくなってしまいました。プレスリリースプラスアルファの内容しか、会見ではわからなくなってしまったのです。

 端的にいうと新聞社は『特別に質問できる利権』を守りたいのです。警察取材でも官邸記者会をはじめとする政治取材でも、新聞社や大手通信社に所属しているか、そうでないかで対応や取材の自由度に歴然とした差があるのは事実です。ただでさえ部数や視聴率が落ちている現状で、新聞社やテレビ局は自分たちの大きなアドバンテージを失うわけにはいきません。

 非常に残念なことですが、大手記者がフリーランスの記者に対して『会見をかき回すな』『胡散臭い』『得体が知れない』などと陰口を言って忌避する光景がよく見られます。そうした記者たちは内心、『フリーと同じ土壌で戦ったら勝てないかもしれない』という不安感があるのだと思います。つまり、今の官邸記者会や各警察記者会に、江川紹子さんと互角に競えるジャーナリストがどれだけいるのか、ということです」

 メディアが競争し合って、それぞれの切り口で政府や社会の問題点を指摘することは大事なことだ。健全な競争の中でこそ、良質なニュースが生まれる。メディア各社には改めて現在の会見やフリーランスのあり方に関して、議論を進めてもらいたい。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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