ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 五輪延期決定後に東京の感染者数急増
NEW

【新型コロナ】五輪延期決定後に東京都の感染者数が急増…安倍政権の“長期的対策”の欺瞞

文=藤野光太郎/ジャーナリスト
【新型コロナ】五輪延期決定後に東京都の感染者数が急増…安倍政権の長期的対策の欺瞞の画像1
安倍晋三首相(写真:日刊現代/アフロ)

米国シンクタンクが公表した死亡人口予測

 新型コロナウイルスパンデミック(感染症の世界的大流行)に関する衝撃的な予測がある。米国屈指の政策シンクタンク「ブルッキングス研究所」(ワシントンDC)は3月2日、新型コロナウイルスの感染拡大が今後の世界経済に及ぼす影響を予測した報告書「COVID-19による世界的マクロ経済への影響~7つのシナリオ」(便宜上、タイトルは筆者仮訳)を公表した。

 世界5大シンクタンクのひとつとして知られ、米国政府との距離も近い同研究所がまとめた43ページにわたるこの報告書のなかで、「人口への影響」に関する項目に添付された国・地域別の表には、信じ難い数字が並んでいる。下表は、そこに記された予測値一覧から、世界と日本における予測死亡人口を抜粋・並記したものだ。

【新型コロナ】五輪延期決定後に東京都の感染者数が急増…安倍政権の長期的対策の欺瞞の画像2

 一瞥しただけで背筋が凍るシロモノである。季節性インフルエンザの場合、間接的な死亡も合算した「超過死亡概念」に基づく世界の年間死亡者数は25万~50万人と推計されているが、これは桁が違うのだ。

 同報告書でこの表とは別に目を引いたのが、後半に添付されている別表「各国死亡率」である。下表は、死者激増中のイタリアと日本における「致死率」予測データを並べたものだ。日本は、7つのシナリオにおける各々の死亡率が世界中で唯一、イタリアと同じ比率になっている(筆者注:「S」はシナリオ番号、「-」は未試算のため空欄)。

【新型コロナ】五輪延期決定後に東京都の感染者数が急増…安倍政権の長期的対策の欺瞞の画像3

 イタリアは3月2日に死者52人だった。現在の日本と近い死者数だ。果たして、日本は大丈夫か。言うまでもなく同報告は「予測」であり、誰もがそうならぬよう回避したいと願っている。早期に治療薬やワクチン薬が開発されれば、杞憂にすぎなかったと安心することもできる。

 ただし、未解明の新型コロナウイルス・パンデミックに対する治療薬やワクチンは、開発後の治験に1年はかかることが見込まれている。短期間にすさまじい速度で感染が拡大し死者が急増する「傾斜角」をみれば、その時間はあまりにも長すぎる。

感染者数の激増で東京都も「感染爆発」に突入か

 パンデミックの猛威は日を追うごとに勢いを増している。

 本稿執筆中の3月30日17時現在、世界の感染者数は約72万3124人、死者数は約3万3986人。特に欧米では、信じられないような勢いで死者が急増中だ。イタリアは感染者9万7689人中の死者1万779人。米国が感染者14万2637人中で死者2485人。スペインも感染者8万110人中に死者6803人。

 各国ともすさまじい死亡者数だ。治療薬もワクチンも未開発、病床数や人口呼吸器具、医療物資などはすでに限界目前。補充の見通しは立っておらず、遺体を収納する冷蔵庫の空きさえない。どの国も、今のままだと医療現場が確実に崩壊する。

 感染者数・死者数の急増グラフが示す鋭い「傾斜角」と、予想される「医療崩壊」を併考すれば、冒頭に掲示したブルッキングス研究所の予測数値がにわかに現実味を帯びてくる。

 一方、日本は30日現在の感染者数がクルーズ船を含めて2605人、死者数64人。一見して、数字の上での死者数には前述の欧米各国と大差があるが、現在の数字だけでは何も判断できない。

 日本で重症化した治療中の患者が延命している大きな理由のひとつは、危うい感染リスクを抱えて必死で治療に勤しむ医療従事者の努力と充実した医療環境・高い延命治療術があるためだ。患者の力が尽きれば、いつ死者数が激増するかもわからない。

 実際、感染爆発直前の3月30日現在、日本は死者64人だが、前述のようにイタリアでは、3月2日に死者52人だったのが、わずか28日間で約207倍にまで急増したからである。

 小池百合子東京都知事は「東京は爆発的感染(オーバーシュート)の入口に差し掛かっており、封鎖(ロックダウン)寸前の重大局面に立っている」として、3月25日に引き続き、27日にも「外出自粛要請」などの継続を都民に求めた。

 しかし、感染者数が激増して200人を超えた時点で東京都は、すでに「感染爆発」に突入したとみなければならない。言うまでもなく感染拡大には地理的境界がなく、首都圏を越えて国内全体に広がる。事態は、より深刻度を増し続けているということだ。

 これまで日本は、独自の「振り分け」で分別した有症者にPCR検査を集中し、「量ではなく質」だとして「感染拡大の抑制に成功している」と国内外に公言してきた。だが、その対策は、果たして本当に功を奏したのか。相変わらず感染爆発の兆候がなければ、それは正しかったのかもしれないが、現実は日本に危機をもたらしつつある。

 そもそも、東京都が「感染爆発」で封鎖すれば、ウイルスを駆逐できても免疫はできないため、いずれは再びウイルスが還流する。ところが、後述するように、この期に及んでは「時間をかけて免疫を広めつつ、治療薬とワクチンの開発を待つ」などという時間的余裕もなくなってしまった。

欧米からも検査数の少なさに懐疑的・批判的な指摘が

 病気は検査を踏まえた医師の診断で確定する。日本では、海外渡航の有無または渡航者との接触の有無、さらには「高熱」が続く症状の有無など、感染の可能性が高い有症者しか検査を行わない方針を採ってきた。そのため、結果的に検査数は低く抑えられ、確定する感染者の絶対数も低くなる。

 事実、東京都が感染者数の急上昇を発表した前日の3月24日頃まで、日本でのPCR検査件数はわずか1万5000件。同時期の韓国では30万件余が検査済みだった。

 最近になって、欧米からも日本のPCR検査数の少なさを「おかしい」と懐疑的・批判的に指摘する声が出てきたが、国内では一部の専門家が以前から指摘して警鐘を鳴らしてきた。

 検査の範囲や数量が少なければ、膨大な検査漏れがデータから除外される。そのため、時々刻々と増えつづける感染者の実数からは遠のくばかりだ。近似値の実数を集計・分析できなければ、感染の分布を含む実態は把握できない。日本がこれまで国内外に公表してきた感染者数は、ほとんど当てにならないのである。

 これに対して、専門家からは「欧米のように検査漏れの感染者が日本に多数徘徊している、と考えるのは現実的ではない。学説に基づく致死率で死者数を割り戻せばわかる」という説明が行われている。その場合、割り戻して推定される感染者数は約6000人程度か。

 しかし、前述のように、現在治療中で表面化しない患者には人工呼吸器や集中治療室で延命中の重症者が多く、日常的な感染リスクに晒されて治療に没頭する医療従事者たちの努力と高いレベルの医療環境を持つ日本の場合、延命治療でかなりの患者がまだ持ちこたえているのが実態なのである。

 その結果、ある時期に死者数が急増すれば、その数を学説の致死率で割り戻して出た数値こそ、実は感染者数の近似値となる可能性が高いのである。前段で「いつ死者が激増するかわからない」と書いたのは、そのためだ。現在の死者数から感染者数を割り出しても、国内感染者総数の近似値は得られないのである。

 検査を抑制し続けて、結果的に感染の実態を推定できず、従って適切な致死率を割り出す母数の近似値にも向かえず、感染の地域分布も把握できない状況で、日本の執政者がなしたことは「一部休校」ではなく「全国一斉休校」という拙策だった。

重症化の原因が抗原抗体反応の過剰発生なら対策の根本的見直しも

 とはいえ、PCR検査は一時的なものであり、検査結果は「長期的な対策」の材料にはなり得ない。仮に検査結果が「陰性」と出ても、その後に感染するからである。

 PCR検査は医療現場における短期的な速攻対処であり、素早く感染者を特定して隔離・治療し、一気にウイルス感染を遮断するための判別策だ。時間が経過すれば結局、感染実態の全体像は把握できない。

 今後、感染拡大を抑えながら抗体が数年かけて広がっていけば「集団免疫」ができて、その間に治療薬とワクチンが開発されればパンデミックは終息する。日本では、厚生労働省と専門家会議が「PCR検査の抑制で医療現場における感染拡大を回避しつつ、薬の開発を待ちながら無症者間の免疫拡大を期待する」という長期的対策を立てた。

 そこには、「治療薬とワクチンが開発されれば、いずれは季節性インフルエンザと同様の伝染病として落ち着くだろう」との想定があったものと思われる。実際、免疫が拡大しないまま感染を止めてしまえば、近い将来、訪日外国人から国内にウイルスが還流し、日本は再び新型コロナ・パンデミックの危機に陥る火種を抱えることになるからである。

 ただし、新型コロナウイルスには未解明の「謎」が山積している。そもそも「感染で抗体ができれば免疫がつくから安心」という既成概念が通用しない特殊ウイルスの疑いもあり、重症化のメカニズムは「抗原抗体反応の過剰発生」によるものかもしれないという説も出始めている。風邪のコロナウイルスを抗体として持つ個体が、新型コロナウイルスの侵入を「再感染」と認識して「過剰に攻撃する」というものだ。

 いずれにしろ、東京を皮切りに国内での「爆発的感染」の兆しが濃厚になってきた現在の日本は、もはや長期的対策に固執せず「危機の脱出」を最優先せざるを得なくなってきた。

東京五輪「1年程度の延期」確定翌日に東京都の感染者数が急増

 長期的対策を考えて検査を抑制したのは専門家が考えた末での選択肢の範囲であり、無闇に責めることはできない。事態がより深刻化したことで都市封鎖(ロックダウン)に踏み切るとしても、それは仕方のないことだ。

 しかし、それらの施策がもし「不純な思惑」によるものであれば、それは明らかにされねばならない。もし、政権維持や製薬利権で「検査の抑制」や「データの改竄・隠蔽」が行われたのだとしたら、今後も同じことが起きるからである。実際、安倍政権は過去にそのようなことを何度も繰り返してきた事実がある。

 日本の「感染爆発」が本格化して死者が激増した場合、その原因が「不純な思惑による意図的な検査漏れで無症状の感染者が広まったから」だとしたら、事は単なる失策では済むまい。

 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が延期を納得表明し、安倍晋三首相とバッハIOC(国際オリンピック委員会)会長が電話協議で「1年程度の延期」が確定したのが3月24日。その翌日、小池都知事は東京都における感染者数の「公表数値」が急角度で上昇したことを公表した。その急上昇は今も続いている。

 注意深い国民にとって、この流れはとても“偶然”には見えない。まるで「オリンピック開催のために東京都と安倍政権が結託して、これまで抑制・隠蔽してきた都内の感染者数の公表を解禁したかのようだ」と疑念を抱く人も少なくないのではないか。

 PCR検査が行われてきたのは、濃厚接触者および濃厚接触者周辺の無症状の人々に限られてきた。「全国一斉休校」のような政府の迷妄は、短期・速攻の対策に使えるデータが得られなかったせいだが、それは病原体保有の有無が不明のまま有症者が医療機関を受診できず、結果、感染者が確定されなかったためだ。前述のように、政府の方針が「長期的対策」だったからである。

 しかし、それが果たして「長期的対策」だけを目的としたものだったのか、それとも水面下にそれ以外の目的が潜んでいたのか。実は、国内外に「公表」する日本の新型コロナ感染者数・死亡者数を、政府が意図的に抑えてきた痕跡がある(以下、次稿)。

(文=藤野光太郎/ジャーナリスト)

【新型コロナ】五輪延期決定後に東京都の感染者数が急増…安倍政権の“長期的対策”の欺瞞のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!