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パナソニック津賀社長、異例の長期続投…目的は「“裏切られた”テスラ事業の撤退」だ

文=編集部
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パナソニックの津賀一宏社長(写真:ロイター/アフロ)

 パナソニックの津賀一宏社長の続投が決まった。6月の株主総会を経て正式決定すれば、就任から9年目に入る。1977年から86年まで9年間社長を務めた山下俊彦氏と並び、松下幸之助氏ら創業家を除けば最長の政権となる見通しだ。

 パナソニックは20年3月期の営業利益が3000億円の見込み。前期比で27%減る。ライバルのソニー(同8800億円)、日立製作所(同6690億円)に大差をつけられた。各社の数字はコロナ禍でもう少し目減りするかもしれない。津賀氏の社長交代説が公然と語られていたが、同氏主導で立て直しを図るしか選択肢はなかった。

 巨額の投資をしたプラズマテレビ事業で失敗。12年3月期と13年3月期に合計で1兆5000億円を超える最終赤字を出した。津賀氏は業績が急降下する最中の12年6月に社長に就任。負の遺産を整理するために、プラズマテレビなど赤字事業からの撤退を決断した。経営危機を脱し、一時は成長軌道に乗ったかに見えたが、車載電池などに軸足を移した成長戦略が実を結ばず、「赤字事業の撲滅」を実現できていない。構造改革は道半ばだ。

いつテレビの自社生産中止を決断するのか

 構造改革のタイムリミットである22年3月期が迫るなか、テレビの自社生産が事業リストラの焦点となる。パナソニックの“本流中の本流”だったテレビ事業は一時、好転したが、20年3月期の事業損益は再び赤字になったようだ。自社で開発・生産するのは上位機種のみに絞り込み、ボリュームゾーンの下位機種については、他社との協業で補完していく方針を打ち出しているが周知徹底できていない。「もはやテレビは家電の王様ではないのに、どうしてテレビの自社開発、自社生産にこだわるのか」とアナリストは指摘する。

 パナソニックのテレビの歴史を見ておこう。16年にテレビ向けの液晶パネルの自社生産をやめ、業務用に転換した。パネルを外部調達しているのだから、テレビの自主生産にこだわる必要はない、との意見もある。パナソニック・ブランドを貸し出し、開発から販売までを一括委託するODM(相手先ブランドでの設計・製造)にまで踏み込むことができるかどうかが鍵である。

 津賀氏は赤字額の大きい半導体と液晶パネルからの撤退を決めた。次はテレビであるのは、誰の目にも明らかだ。パナソニックがテレビの自社生産を止める日――。赤字事業撲滅のための象徴的な出来事となるのは間違いない。

テスラ事業は赤字を垂れ流し

津賀氏は「家電の会社」からの転換をはかるべく、BtoB(企業間取引)事業へのシフトを掲げ、自動車分野に経営資源を集中した。その象徴が電気自動車(EV)メーカー、米テスラとの提携だ。10年、パナソニックはテスラに3000万ドルを出資。両社は14年、米ネバダ州に車載電池工場を設けることで合意。共同運営する電池工場、ギガファクトリー1に両社合わせて5500億円をつぎこんだ。パナソニックは2000億円以上の巨額投資をしたことになる。

 両社は16年、太陽光発電の分野で提携を発表。パナソニックは17年からテスラが米ニューヨーク州バッファロー市につくった工場で太陽電池や太陽光パネルの生産を始めたが、両社の関係が良好だったのはここまでだった。

 車載電池はテスラが18年に出荷が本格化した主力EV「モデル3」向けだが、量産の立ち上げにコストが膨らみ黒字化が遅れた。パナソニックは大阪府の工場でも「モデル3」以外の車種の電池を生産しているが、テスラ向けの車載電池事業は赤字だ。

 喫緊の課題はテスラ事業の黒字化だった。パナソニックの元副社長で17年秋にテスラに移籍した山田喜彦氏が両社の橋渡し役となっていたが、19年7月、山田氏はテスラを去った。そこで、津賀氏自身が渡米し、テスラの創業者イーロン・マスクCEOと直接向き合うようになった。それでも電池の価格交渉は難航した。テスラが値上げを呑むわけがない。交渉は決裂した。

 19年10月23日、テスラは中国・上海に建設した工場(ギガファクトリー3)でEVの試験生産を始めた。車載用電池を供給するのはパナソニックではなく韓国LG化学だった。テスラはパナソニックから韓国LG化学に乗り換えた。さらに20年2月、中国のCATL(寧徳時代新能源科技)がテスラとバッテリー供給契約を結んだ。パナソニックとテスラの関係は完全に冷え切った。

 CATLは19年7月、トヨタ自動車と新エネルギー車(NEV)用電池に関する包括的なパートナーシップを締結している。ニュースリリースに「CATLは、グローバルで優位性のある駆動用電池システムの世界トップのサプライヤー」と書かれている。

 パナソニックは20年2月26日、米テスラとの共同生産を停止すると発表した。バッファロー工場で太陽光パネルの中核部材である太陽電池を生産してきたが、5月に生産を停止し9月末に撤退する。今後、国内外の関連工場の閉鎖や売却を進める。設備を廃棄すれば巨額の損失が発生する。

 パナソニックは3月23日以降、新型コロナウイルスの感染拡大を理由にギガファクトリー1で受け持つ電池の生産を休止。テスラも3月23日からカリフォルニアの完成車の組み立て工場を一時休止した。電池工場、ギガファクトリー1は漂流を始めたように映る。

 津賀氏が成長戦略の柱に位置付けたテスラ事業は失敗に終わった。自分の手でテスラ事業の幕を引く。これが津賀氏が続投した隠された本当の理由だ。

役員で唯一の昇格は片山栄一執行役員だけ

 社長以下、16人の執行役員の顔触れは変わらない。唯一、執行役員から常務執行役員に昇格したのは片山栄一CSO(最高戦略責任者)。片山氏は16年1月、メリルリンチ日本証券のアナリストからパナソニックの執行役員に転じた。M&A(合併・買収)戦略の立案をするが、これといった華々しい成果を挙げてはいない。

 片山氏は17年4月に自転車事業を手掛ける子会社、パナソニックサイクルテックの社長を兼務。高価格帯のスポーツ用の開発を進めるなど自転車事業の強化に取り組んできた。それでも年商は300億円程度。7兆円規模のパナソニック全体から見れば貢献度は小さい。リストラで手腕を発揮したことが常務執行役員への昇格につながったとみられているが、「成長の柱をつくれないパナソニックの苦い状況を象徴するような人事」(関係者)。成長戦略策定が片山氏の本来の使命のはずだ。

 片山氏は常務執行役員には昇格した。とはいえ、パナソニックは片山氏を4年前に招いた当時と変わらぬ経営課題を抱えたままなのである。

“ポスト津賀”の本命は本間哲朗か

「権力欲が強いタイプではない津賀氏が社長を続投したのは、後継者不在だから、と聞いた。今辞めたら、パナソニックを小さくして辞めた男になってしまう。後継者は2人いたが、どちらも不祥事でコケた。今はその下の世代を育てている」(外資系証券会社のアナリスト)

“ポスト津賀”の本命は本間哲朗専務執行役員(中国・アジア社社長)。津賀氏の側近中の側近である。対抗が楠見雄規常務執行役員(オートモーティブ社社長)と品田正弘常務執行役員(アプライアンス社長)。日本マイクロソフトの社長・会長を務め、古巣のパナソニックに戻ってきた樋口泰行専務執行役員(コネクティッドソリューションズ社社長)に「バトンを渡すことはない」(パナソニックの元役員)と見られている。

 津賀氏は今年6月、経団連の審議員会副議長に就任する。東京五輪・パラリンピックは丸々1年延期になった。あと2年は社長をやるつもりだ。若くして50代で社長になったため、まだ63歳である。

(文=編集部)

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