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国際比較で最下位の日本のコロナ対策

【コロナ】韓国や中国も対策が奏功し自粛緩和の一方、日本がいまだに自粛続く根本的原因

文=青木泰/環境ジャーナリスト
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安倍晋三首相(写真:日刊現代/アフロ)

 ドイツ、台湾、韓国、そして中国の武漢では新型コロナウイルス対策への取り組みが奏功し、活動自粛を緩和させつつある。一方、日本は当初の水際作戦は“ざるに水”で、中国からの観光客を例年通りに受け入れ、安倍首相は中国の習近平国家主席訪日と東京オリンピック開催に引きずられ、政府の専門家会議も首相に忖度してPCR検査を医療崩壊につながると抑制し、コロナ対策の要である検査と感染者隔離、緊急事態宣言が遅れてしまった。

 このような実態が「ロンドン時事通信」で世界的にも明らかになった。23カ国・地域のコロナ対策の国際比較調査で、日本は最下位になった(※1)。政治、経済、地域社会、メディアの4分野で調査され、日本は各分野と総合評価いずれも最下位だった。

 日本の国内ではタレントの志村けんさんや岡江久美子さんの死が、人々に大きな衝撃を与えたが、PCR検査さえ受けられず孤独死していった人たちは、安倍政権の無策による犠牲者といえ、各種世論調査で不支持率が支持率を逆転。政権に対して以下のような批判の声もあがっている。

「忍び寄るコロナ、まるで竹槍を持たされて、本土決戦に臨む戦争末期の日本」(ラサール石井氏)

「戦後初の国家による私権制限宣言(緊急事態宣言)の遅れと補償ができない理由について説明がない」(倉重篤郎氏)

「なぜ検査がこんなに少ないのか、「なぜ」を深く掘り下げたい」(田原総一朗氏)

「薬害エイズ以来の人災だ―疫学では何人検査して何人陽性なのかを見るのが基本。東京都のデータも、国のデータも無茶苦茶」(児玉龍彦氏/東京大学先端科学技術研究センターがん・代謝プロジェクトプロジェクトリーダー)

「クルーズ船・・乗客乗員4000人近くを『隔離』した結果、感染者約700人、死者10人の大惨事を引き起こした」(作家・橘玲氏)

「最大の問題は、過去の経験や知恵が全く生かされていない、…専門的な知見を蓄えてきた優秀な官僚が、安倍政権になって次々と枢要なポストから外された」「安倍首相の政策的判断は、科学的根拠に乏しいものだった」(舛添要一元厚労相)

「具体的な戦略・戦術が見えてこない」(宮本雅史氏/産経新聞社編集委員)

 自民党政権の元厚労相や、今まで安倍政権を支持・評価してきた人たちまで日本政府のコロナ対策に愛想を尽かせている。国際比較調査は、そのことを正しく表したものといえる。

PCR検査での右往左往

 日本政府の右往左往ぶりを見かねてか、ノーベル生理学・医学賞受賞者の山中伸弥・京都大学 iPS細胞研究所所長が独自のHPを作成するなどして情報発信している。「文藝春秋」(6月号)でも次のように指摘している。

「新型コロナウイルスは、季節性インフルエンザとは段違いの恐ろしさがある」

「このウイルスは、二重人格の持ち主で、ほとんどの人は軽症か無症状で済むのに、数%の人には強力に襲い掛かって命を奪ってしまう」

「僕自身は57歳ですが、季節性のインフルエンザになっても死ぬリスクはまず無い…新型コロナだともしかしたら死んでしまうかもしれない」

「(感染症との闘いは)長いマラソン」

 1918年のスペイン風邪(現在のA型インフルエンザ)では、当時はワクチン開発の技術もなく、世界の3分の1が感染し、自然免疫(集団免疫)ができて感染が終息したが、流行は3次まで3年間に及び、約4000万人、日本では23万人が死亡したという。

 新型コロナの大きな特徴は、感染しても無症状の場合があるため感染が拡大するという点である。ワクチンや対抗薬、集団免疫を獲得するまでの間、検査して感染者を見つけ、隔離して感染拡大を防ぐ一方で、社会的自粛をすすめ、経路不明な感染拡大を抑制することで「医療崩壊」が起こらないようにする。「検査・感染隔離」と「社会的自粛」が世界で共通した対策といえる。

 ところが日本の場合、検査を抑えるという初動の間違った政策をそのまま継続し、10万人当たりPCR検査はイタリアが3159人、アメリカが1752人、フランスが911人に対して、日本は187人と圧倒的に少ない。政府や東京都は薬剤が入手できないなど弁解していたが、結局「検査を増やせば医療崩壊するという」という現代版天動説のような主張が検査拡大にブレーキを掛けたのは間違いない。

 例えば橋下徹元大阪府知事も当初、「闇雲な検査拡大は危険」(「文藝春秋」<5月号>)としていた。「感染者数」より「死亡者数に注目すべき」として、「死亡者数は日本におけるインフルエンザによる年間の死亡者数(3000人)」を目安にし、検査は重症者等に限定すべきという主張であった。

 これに対し山中氏は「死亡者を単純に比較したことは危険である」と指摘し、ダイヤモンド・プリンセス号を例示し、クルーズ船で旅するくらい元気だった人が亡くなったことに触れ、もし「季節性インフルエンザならば、死者はゼロであった」とした。橋下氏は「脳天に衝撃が走りました。僕は、表面的な『死亡者数』だけに着目していたのですが、どのような状態の人が死に至るかまで考えが及んでいませんでした」と正直に告白した。しかし「検査を拡大させるな」という主張は取り消さず、検査抑制を後押ししてしまった。

 山中氏はPCR検査について、「(京大 iPS細胞研究所にも)検査機が30台あり、研究者数十人が、自粛要請で実験できずにいる」と明かし、大学や国の研究機関の測定機器や研究員を使えば1日2万件どころか10万件の測定もできるとしている。もちろん検査増により感染者数が増加した場合、感染者隔離のために医療施設やホテルなどをどう補充するかが課題であった。一方、出口戦略なき社会的自粛は、いつまで続くのだろうか。

社会的自粛と不可欠な補償

 日本政府のコロナ対策は、検査・感染隔離の体制をどうつくるかより、社会的自粛に大きく偏ったものであったが、5月4日、安倍首相は緊急事態宣言を5月31日まで延長すると発表した。しかし4月7日の緊急事態宣言発出以後、休業や営業時間短縮などで協力してきた事業者や、それによる失業者への補償は、一人当たり10万円のままにとどまり、延長に伴う新たな補償は示されず、弱者切り捨ての方針となった。

 イギリス在住のコラムニスト、ブレイディみかこさんは「AERA」(朝日新聞出版)誌上でイギリスの都市封鎖(ロックダウン)に触れ、「給与8割の補償」「家賃の支払いが滞った時に、家主の退去要請を6月30日まで禁止する」「住宅ローンの3カ月返済停止」「クレジットカードの返済を無利子で3カ月滞納可」していると紹介した。また、キーワーカーとして自粛の中でも社会を支えるために働く「運送業」「看護師、介護士」「スーパーの店員」に感謝を示し、そのような人たちやお年寄りが買い物できる時間帯を優先的に設けるなどの施策が取られていることを報告した。キーワーカーの子どもたちは、学校に通うこともでき、行政としての丁寧な対応である。

 一方、日本では野党や都道府県知事、与党の一部からも自粛補償が繰り返し提案されてきているが、国は「検討中」との返答を繰り返している。そうしたなかで大阪府の吉村洋文知事は出口戦略として、以下の3条件が1週間継続すれば社会的自粛をやめる方針だと発表した。

(1)検査を受けた人の陽性率が7%未満

(2)経路不明の感染者が10名未満

(3)重症者向けの病床率が60%未満

 この指標は今後感染者が増大した時には、自粛を再開する目安にするとも説明し、大阪モデルとして発表され、国の無策ぶりを際立たせる発表だった。社会的自粛は、コロナ感染の拡大を緩慢にできる効果はあっても、経済の停滞、失業の蔓延という大きな副作用をもたらす。京都大学大学院教授の藤井聡氏は、これまでの大事件によってGDPが減った事例として、リーマンショックでは17.7%、消費税10%への増税では7.1%、東日本大震災では5.5%だったとして、コロナは東日本大震災の3カ月後にリーマンショックが来たような状況であると指摘している。「このままでは2万人を切った自殺者が再び急増することになる」ため、消費税をゼロにして所得を失った個人や法人に対して、赤字国債を30兆円規模で発行して補償することが必要と主張している。

 嘉悦大学教授の高橋洋一氏も、各自治体が休業補償の手当てのために地方債を発行し、それを日銀が購入し補填するように主張している。株価操作のために国債購入の限度額80兆円を撤廃させた政権下では不可能ではない。感染症のもたらす経済的影響は社会的弱者にも降りかかり、早急な対応が必要である。

政府の新型コロナ対策で数十万人が殺される

 現在ウイルスの感染が衰える夏場に入りつつあり、日本でも一部を除き非常事態宣言が解除されつつあるが、岡田晴恵・白鴎大学教授が指摘しているのが、秋冬の感染拡大時期に急増する感染患者を手当てできる「検査と感染隔離」対策を今から準備することである。検査にあたってはPCR検査、抗原検査、抗体検査を特性に応じて行い、感染者の隔離と医療体制を準備すること、一方で検査を拡大することによって自粛体制も緩和できる数理モデルなども、小田垣孝九州大学名誉教授から発表されている(※1)。

 本来、政府は感染拡大と医療崩壊から国民の命を守ることを大目的とし、災害復興の対策組織のような陣形を感染症に対してもつくり、問題解決にあたらねばならなかった。それをコロナ感染対策チームとすれば、そこに予算を付けて、任せればよいのである。

 ところが、安倍首相をトップに据える新型コロナウイルス感染症対策本部や専門家会議は、内閣府の指導の下に各省庁縦割りで、首相の指示を受けて省庁に持ち帰るだけでしかない。4月にPCR検査件数を1日2万件に引き上げると発表したが、いまだ1万件を切る実施率であり、アベノマスクの配布方針を見ても、実効性のある対策・会議とはいえず、実態は、やっているふりを装う仮装の組織でしかない。

 急いで組成しなければならないコロナ感染対策チームとは、感染症に向き合い世界の最新情報を共有し、目的意識を常に共有し、問題課題を見つける課題解決型のチームである。チーム内に以下のようにいくつかの部門を設けた、100~200人規模の官、民、学、NPOなどの市民からなる実践型組織である。

「ワクチンや抗ウイルス剤の開発・実用化」

「感染防御の各種検査の実行体制づくり」

「感染者隔離と治療のための医療施設拡充」

「国と都道府県、市町村の情報共有と連携」

「自粛やコロナ不況への対策と補償」

「学校・福祉施設対策」

「社会的弱者への影響調査と対策」

「感染対策に従事する医療、社会福祉関係者への支援対策」等々。

 このコロナ感染対策チームは、感染対策を実施する現場を持つ各自治体にも設け、各自治体のチーム間で情報を共有して実行に移す。例えば、国民すべてにお金を素早く配る方法は選挙時の投票所を活用し、住民はそこに行って名前を言えば10万円の小切手を渡され、指定された受け渡し日に行けない人は期日前投票のようなかたちで入手できるようにすればよい。給与が保障されている行政職員こそ、希望する家庭に給食を届けたり、デイケアセンターの手伝いに入り、体制を支えるということも検討できるだろう。コロナ感染に対応する現場を見ると、山ほどの課題が見えてくる。あれこれ考える前に体を動かし、救国の連携をつくっていこう。

 このまま、このやる気のない国に期待していれば、経済不況やコロナ感染拡大の第2波で、多くの国民が命を奪われることになる。文字通りに国家の危機といえる。野党や国民が中心になって政府にコロナ対策の改変を迫ると共に、自らも構築に取り掛かるしかない。

(文=青木泰/環境ジャーナリスト)

※1:新型コロナ対策で必要不可欠な「検査・感染隔離」と「社会的自粛」は、検査体制を拡充すれば、自粛も緩和できるという数理モデルを小田垣孝教授が発表した。検査を今の2倍にすれば、自粛目標は8割削減から5割削減に軽減でき、4倍にすればほぼ自粛目標を「ゼロ」にできるという計算結果を公表した。秋冬の第2次感染の流行に備える「検査」と「自粛」の理論的確信が発表されたといえる。

青木泰/環境ジャーナリスト

青木泰/環境ジャーナリスト

元大手時計メーカー研究所勤務。中途退職後、中小企業の技術顧問をしながら、「廃棄物の焼却処理による大気汚染等の環境影響」や「資源リサイクル問題」等をテーマに著作や市民活動を重ねる。3.11後、汚染がれきの広域化問題の講演会や学習会で全国約100箇所講演。「被災避難者支援」や「ごみ問題」で国会議員にも情報提供。廃棄物資源循環学会会員。環境行政改革フォーラム(青山貞一主宰)会員。NPOごみ問題5市連絡会理事長。

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