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舘内端「クルマの危機と未来」

EV、2025年にガソリン車と同じ価格水準に…リチウムイオン電池で技術革新、価格3分の1に

文=舘内端/自動車評論家
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日産・リーフ(「Wikipedia」より/Qurren)

自動車生産・販売激減

 新型コロナウイルスの感染拡大が、経済・産業をズタズタにしている。自動車産業も例外ではない。各国の自動車メーカーはみな生産、販売が激減している。その原因のひとつが、生産のグローバリゼーションだ。最終組み立て国に他国から部品が届かず、止まったままの工場も多い。しかし、電気自動車(EV)は少々事情が異なる。

グローバリゼーションで生産ストップ

 自動車は部品の生産が世界各地に分散している。生産のグローバリゼーションである。これによってもっとも賃金の安い国・地域で部品を生産し、緻密な物流ネットワークで配送し、もっとも効率よく組み立てられる国・地域で自動車本体を生産する。ただし、このシステムを回すには、モノだけでなく国境を越えた人の交流が絶対的に必要だ。新型コロナウイルスは、モノと人の移動を断絶させた。

 モノと人、そして金融のグローバリゼーションが、今回の新型コロナウイルスのパンデミックで弱点をさらけ出し、結果として産業・経済が瀕死の状態に陥っている。それぞれの地域が封鎖し、他の地域との交流をストップしたため、自動車部品の流通が止まった。ひとつでも部品がそろわなければ自動車は完成しない。

電池は地産地消で反グローバリゼーション

 ところがEVは、電池に関する限りコロナウイルス禍の世界的広がりにすでに対処している。いわば反グローバリゼーションである。電池は地産地消なのだ。EVに使われる電池はリチウムイオン電池である。現在ではトラブルは激減しているが、かつてはPC、航空機で発火等のトラブルが発生したこともあり、輸送するには厳重な安全対策が求められ、コスト上昇の一因になっている。ただし、それは電池単体の輸送であり、EVに部品として搭載されている電池は、この限りではない。

 また、軽くなったとはいえリチウムイオン電池もまだ重い。EVの1台当たり軽くて200キログラム、航続距離が500キロメートルを超える大きなSUVでは400キログラムにもおよぶ。当然、輸送費用もかさむ。

リーフ68万7500台分の電池工場

 この2つの要因から、EV用の電池はEVを生産する地域で生産する体制となっている。こうした生産体制のために、新型コロナウイルスの渦中でも電池だけはEVを生産する上で障害にならない。

 たとえば日産自動車のリーフの電池をつくるエビジョンAESC社は、米国で年間3.0GWh(ギガワットアワー:3.0GWhは30億ワットアワー、新型リーフ7万5000台分)、英国で1.9GWh/年(同4万7500台分)、中国で20.0GWh/年(同50万台分)、日本で2.6GWh/年(同6万5000台分)、合計27.5GWh(同68万7500台分)の電池を世界各国に分散して生産する能力を持っている。

 このように日産は、ことEVの電池生産に関しては地産地消を心掛け、現在に至ってはまさに反グローバリゼーションで新型コロナウイスルの脅威に備えている。だからといってEVの普及が進むかというと、そう簡単ではない。たとえば上記の工場で2019年に実際に生産された電池は7.5GWh(同18万7500台分)にすぎない。

中国EVマーケット撃沈

 中国はEV普及の急先鋒であり、もっとも早く普及するといわれてきたが、その勢いに陰りが見えてきたという。中国のEV生産の最大手といえばBYDと北京汽車集団である。いずれも業績を大きく落ち込ませている。

 BYDの屋台骨はリチウムイオン電池の生産である。大きくて重いが安全性の高いリン酸鉄リチウムイオン電池の販売で業績を伸ばし、自動車メーカーを合併吸収。現在ではトラックとバスのラインアップを揃え、このマーケットをしっかり押さえたトップメーカーである。BYD製のバスはすでに日本に上陸し、京都をはじめ沖縄、会津、岩手に導入されている。ちなみに価格は1台6500万円台とエンジンバスの2倍近い。

 うまくEV普及の波に乗るかと思われたが、ここにきて業績が悪化している。19年のBYDの純利益は42%減、20年1~3月期は前年同期比でなんと85%のダウンである。

 業績悪化の主原因は、中国政府の補助金の減額だ。中国政府は1兆円を超える潤沢な補助金を用意して、世界に先駆けEV普及大国を目指したのだが、補助金を当てにした60社にもおよぶ新興EVメーカーも、ここにきて相次ぎ業績を悪化させ、人員削減に追い込まれており、その野望もとん挫したようだ。

25年にエンジン車と同価格

 2018年に中国政府は、25年にEVとPHV(プラグインハイブリッド等の新エネルギー車)700万台を標榜した。大胆な普及目標である。しかし、中国経済の成長率も鈍化し、19年の販売台数は前年比マイナス4%の120万台にとどまった。12年から始まった新エネルギー車の急速な販売台数の増加傾向は、19年に初めてマイナスに転じた。果たして中国は25年に700万台の新エネルギー車(ほとんどはEV)の販売目標をクリアできるだろうか。

 その鍵を握るのが車両価格の低下であり、それはリチウムイオン電池価格の低下なくしては達成できない。リチウムイオン電池は25年に第5世代の 「G5」に進化する。一気に価格は3分の1に、重さは同じ電気容量で23%軽くなり、結果として同じサイズのエンジン車とほぼ同価格になるといわれる。電池の陽極の材料が高価なCo(コバルト)から廉価なNi(ニッケル)へ変わるからだ。

 つまり、2025年が本格的なEV時代の幕開けということだ。ただし、そこからEVの開発を始めてもまったく遅い。果たしてどこの自動車メーカーが、どこの国がEV普及レースに勝ち残るのか。また、EVの生産は新型コロナウイルスの拡散に耐えられるシステムを構築できるだろうか。そして日本は――。

(文=舘内端/自動車評論家)

舘内端/自動車評論家

舘内端/自動車評論家

1947年、群馬県に生まれ、日本大学理工学部卒業。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京〜大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書は、「トヨタの危機」宝島社、「すべての自動車人へ」双葉社、「800馬力のエコロジー」ソニー・マガジンズ など。
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。
日本EVクラブ

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