現在、自動車を取り巻く最先端技術の中で注目されているのが、自動運転と電動化だ。ちょうど2019年6月3日、国土交通省と経済産業省から乗用自動車の新しい燃費基準が発表された。新しい燃費基準の概要はというと、2030年度を目標に、燃費の基準値を2016年度実績比で32.4%改善となる25.4km/Lとしている。また、対象となるのはガソリン車をはじめ、ディーゼル車、LPG車に加えて、新たに電気自動車(Battery Electric Vehicle/以下、BEV)やプラグインハイブリッド車が追加されているのが注目のポイントといえる。
25.4km/Lという基準値は、純粋なガソリン車でクリアすることは厳しい数値で、電動化をしなければ確実に達成できない。しかし、ここで勘違いしていただきたくないのは、電動化=すべてをBEVにすることではないということだ。電動化というと、自動車にあまり詳しくないメディアはすぐに「内燃機関+化石燃料」を否定し、BEVへのシフトを推進すべきだという論調の記事を掲載しがちだが、現状、それはなかなか難しいだろう。なぜなら、仮に現在保有されているクルマをすべてBEVに置き換えたとしても、すべてのクルマに電力を供給することは難しいからだ。また、搭載できるバッテリー容量による走行距離の短さや車両本体価格の高さも壁となり、BEV普及を阻んでいることも付け加えておきたい。
これは個人的な見解だが、現在トヨタが開発中とされている「全固体電池」のように、搭載バッテリーに技術的なブレイクスルーが起きない限り、現時点でBEVは、限られたエリアのみで使用するシティコミューター的な乗り方がベストだと考えられる。長距離を走行するためにバッテリーをたくさん積めば、その分車量重量も重くなるし、価格も高額になってしまう。
しかし、厳しい燃費基準値をクリアするためには、電動化はマストだ。そうなると、少なくともしばらくの間は、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車がより高効率化され、自動車の主役となっていくのではないかと考えられよう。
ジャガー、ベンツ、ポルシェ……各社が“電気自動車”を開発
しかし、着実にBEVシフトの動きは始まっている。それは、国産メーカー主導ではなく、実は外国メーカーのほうが積極的なのだ。イギリスの高級車ブランド、ジャガーは2018年9月より、ブランド初となるBEVのSUV「I-PACE」の予約を開始し、2019年になってデリバリーを開始した。
また7月4日にはメルセデス・ベンツがピュアEVの「EQC」を日本市場に導入するなど、続々と導入され始めた。またスポーツカーメーカーとして知られているポルシェは「タイカン」と呼ばれるピュアEVを開発しているし、フェラーリも最高出力1000psというハイパワーのハイブリッド車「SF90ストラダーレ」を発表している。しかし、これらのクルマは車両本体価格が1000万円以上という高額車なので、一般の人にはなかなか手が届きにくいクルマだ。
そこで一般の人にも手の届くBEVといえば、第一に挙げられるのは、国産車の日産リーフであろう。現行モデルは2代目となり、2019年1月に発売開始したリーフe+は62kWhというバッテリー容量を搭載し、モーターの最高出力160kW、最大トルク340N・mを実現しつつ、航続走行距離は約40%アップの458km(WLTCモード)を達成。こうなると、「BEVは走行距離が短い」とはいえないレベルである。また日産の素晴らしいところは、リーフというハードを開発するだけでなく、全国のディーラー網に充電器を配置することで、一方で相変わらずEVの弱点ともされ続けている満充電時の走行距離の短さをカバーしようとしていることだ。この日産リーフの車両本体価格は324万3240円~472万9320円と、ジャガーI-PACEに比べれば、一般人でも十分に手が届く価格だろう。
500万円で購入可能な「テスラ・モデル3」の実力
その日産リーフの価格に肉薄するBEVが、いよいよ日本に上陸する「テスラ・モデル3」だ。テスラは自動車メーカーではなく、シリコンバレーに本社を置くIT企業。すでに販売されているテスラモデルSやモデルXは、他の自動車メーカーとは一線を画したデザイン、ユーザーインターフェイス、そして機能性が特徴。モデルSやモデルXは1000万円近い高額車だったのだが、今回のモデル3の車両本体価格は、511万~655万2000円となっている。今回、販売開始したばかりのテスラ・モデル3に試乗できたので、インプレッションを紹介しよう。
外観デザインでは、特にフロントマスクが特徴的だ。普通の乗用車では冷却するためにフロントグリルやバンパーに空気の取り入れ口が開けられているが、テスラにはそれがない。そしてテスラに乗って最も驚くのがインテリアだ。センターに大きなディスプレイがあるだけで、そのほかスタートボタンをはじめ、スイッチらしきモノはなにもない。カードキーを所定の位置に置くとスイッチがONとなり、ディスプレイが表示される。テスラ・モデル3はエアコンの調整やナビの操作など、すべてをこのディスプレイだけで操作するのだ。
走行性能はモーター駆動の良さを前面に出して、スタートからグーンと加速していく。その圧倒的なパワーによる加速力にサスペンションの味付けがマッチしておらず、乗り心地は熟成しきれていないように感じたが、テスラ得意のアップデートで解消してくるだろう。500万円のクルマとしてはちょっとシンプルすぎて物足りない感もあるが、航続走行距離は409~530kmと、まったく不満はない。
日産リーフも、e+となって以降はパワーアップし発進時からの加速は鋭くなっているが、テスラの圧倒的な加速フィールに比べると、どうしてもマイルドだ。これは、自動車メーカーが作るBEVと、テスラのような異業種が作るBEVではまったくアプローチが異なっているからだろう。どちらが正しいという結論は出ないが、それだけBEVは従来のクルマ作りとは異なるのだと実感できた次第である。
(文=萩原文博/自動車ライター)