元会長のカルロス・ゴーンが日産自動車にやって来たのは1999年。それ以前の1990年代といえば、日産を代表する車種であるスカイラインでニューモデルが登場すると、自動車メディアはバブル景気のような賑わいとなり、さまざまな出版物が世に登場してはスカイラインに多くのページを割いたものだ。筆者も自動車メディアに1993年から携わるようになり、幸運にも1993年の9代目R33型スカイラインの登場に立ち会うことができ、以降、最新モデルであるV37型の登場にも立ち会わせもらった。
サーキットで輝かしい歴史をもち、「羊の皮を被った狼」と呼ばれるスポーツセダンとして人気を博したスカイライン。新型が登場すれば毎回、ライバル車を揃えて走行テストを行った。そうしたなか、ライバルとして真っ先に名前が挙がるのが、BMW3シリーズだ。大人5人が乗れるキャビンスペースを確保し、取り回しの良いコンパクトなボディサイズとフロントエンジン・後輪駆動のレイアウトを生かした高い走行性能を両立した4ドアセダンとして、スカイラインとBMW3シリーズは常にその実力を比較されてきたのだ。
そして2019年3月、7代目となる新型BMW3シリーズが日本に導入され、試乗会が開催された。筆者はその会場にスカイラインを持ち込み、その実力を比較した。かつてライバルだったBMW3シリーズとスカイライン。最新モデルにおける関係性は、従来のライバル関係と同じなのか、それとも違うのか?
音声会話だけで車両操作や情報アクセスが可能
まず、日本市場に導入されたばかりのBMW3シリーズから紹介したい。SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)が全盛という時代でも、BMWで絶対に外すことのできないコアモデルがこの3シリーズだ。その理由は、メルセデス・ベンツCクラスとともに日本市場における販売の中心車種となっているからだ。
新型BMW3シリーズはまず4グレードが導入され、全車2L直列4気筒ターボエンジンを搭載している。価格は、今年9月発売予定のエントリーグレード320i SEが452万円、1月から販売されている320iスタンダードが523万円、320i Mスポーツが583万円。そしてトップグレードの330i Mスポーツが632万円となっている。320と330は同じエンジンながら、仕様が異なっている。320iは最高出力184ps、最大トルク300Nmという出力に対して、330iは最高出力258ps、最大トルク400Nmというパワフルな仕様となっている。そして今回試乗したのは、トップグレードの330i Mスポーツだ。
外観デザインは、ひと目でBMW3シリーズとわかるコンサバなデザイン。しかし、BMWのアイコンであるキドニーグリルは従来2つのパーツに分かれていたが、新型の3シリーズではひとつのフレームで縁取られ、より立体的な造形となっているのが特徴。またボディのシルエットも長いルーフラインを採用し、Cピラーも緩やかな角度とすることで、流線形が強調され伸びやかなスタイリングとなっている。
ボディサイズは全長が4715mm、全幅が1825mm、全高は1430mm。先代に比べて全長で70mm、全幅は25mm拡大された。さらにホイールベースも先代より40mm延長され2850mmとなり、室内空間の広さはひとつ上の5シリーズと勘違いするほどの広さとなっている。しかも、ボディは骨格から新設計されており、先代に比べて約55kgの軽量化と高剛性化を実現。さらに重心は−10mmと下げることで、高い走行性能に寄与している。
インテリアはコクピットが12.3インチの液晶パネルとなり、先進性が光るデザインとなった。その先進性の光るインテリアで注目なのが、BMWとして初採用となるAIを生かした新開発のBMWインテリジェント・パーソナル・アシスタント。iPhoneのSiriのように、音声会話だけで車両の操作や情報へのアクセスが可能となる機能だ。従来の音声入力に比べて、より自然な会話に近い言葉で、ドライバーの指示や質問を理解し、適切な機能やサービスを起動してくれる。このインテリジェント・パーソナル・アシスタントは起動する際に、こちらが呼びかける言葉を任意に設定できるのも特徴である。
いま来た道を、バックで正確に戻れる機能
新型BMW330i Mスポーツに試乗すると、Mスポーツという専用チューニングの施されたサスペンションに加えて、オプションの19インチのホイール&ランフラットタイヤを装着しているにもかかわらず路面からのゴツゴツ感が少なく、乗り心地の良さに驚いた。ランフラットタイヤ独特のショルダー部の硬さを感じることもなく、ようやくBMWもランフラットタイヤの味付けのコツを掴んだように感じた。ボディは大型化されたが、ハンドル操作に対しての反応の速さやコーナリング時の安定性は、まさにスポーツセダンの代名詞である3シリーズらしさを継承している。ハンドルを握り運転していると、時間を忘れて走りたくなる。そんな気分に浸れるクルマに仕立てられている。
高い走行性能ばかりに注目してしまうが、先進の運転支援システムも充実。この3シリーズから、新世代の高性能3眼カメラと処理システム、そしてレーダーを採用し、精度と正確さが向上している。さらに、車両が直前に前進したルートを最大50mまで記憶し、その同じルートをバックで正確に戻ることが可能なリバース・アシスト機能を採用。狭い道路などで行き止まりとなった場合でも、正確に元のルートに復帰することができるというスグレモノだ。新型BMW3シリーズは歴代モデルから継承された高い運動性能に加えて、最新鋭の運転支援システムを搭載したインテリジェントスポーツセダンといえる。
いまでは古さを感じさせるスカイライン
それでは、BMW3シリーズのライバルとして持ち込んだ日産・スカイラインはどうか? 現行型である13代目のスカイラインは、2014年2月に3.5LV6エンジン+モーターを組み合わせたハイブリッド車が登場。遅れて5月に今回試乗したBMW3シリーズと同じ2Lターボエンジンが追加された。ちなみにこのターボエンジンは、ダイムラー製となる。今回試乗したスカイラインは、2Lターボエンジンを搭載した最上級グレードの200GT-t タイプSPで、車両本体価格は471万3120円で、BMW330i Mスポーツとは約160万円の価格差となる。しかし売れ筋となるであろうBMW320iならば、523万円とわずか約51万円差までグッと縮まるのである。
スカイラインのボディサイズは全長4815mm×全幅1820mm×全高1450mmで、3シリーズより全長が100mmスカイラインのほうが長く、その他はほぼ同じとなっている。そして搭載する2L直列4気筒ターボエンジンは最高出力211ps、最大トルク350Nmで、出力は320iと330iの中間となっている。
すでに登場から5年が経過しているものの、スカイラインはマイナーチェンジなどが行われておらず、アップデートがほぼなされていない。その結果、アナログメーターとセンターコンソールに設置されたツインモニターという組み合わせが、新型3シリーズと比べるとかなり古さを感じさせる。コントロール性は問題ないが、いかにもデジタル化の過渡期に登場したという雰囲気が、現在となっては気になる部分だ。
電子デバイスの味付けが強すぎるスカイライン
実際に走行してみると、同じ2Lターボエンジンなので、加速能力には遜色がない、しかし排気音が、3シリーズはドライバーを高揚させるサウンドなのに対して、スカイラインはノイズ感が強いのも残念なところだ。そしてもっとも差を感じたのが乗り心地。同じ19インチ+ランフラットタイヤの組み合わせなのだが、ランフラットタイヤを履きこなしていない感じで、ゴツゴツとした路面からの衝撃がダイレクトに伝わる硬めの乗り味となっている。これでは、フツウのセダンをスポーティに仕立てた乗り味の硬いクルマ、という印象が拭えなかった。
BMW3シリーズが高い走行性能が魅力のスポーツセダンなのに対して、スカイラインがスポーティな走りが楽しめるセダンという差となったのは、2001年に登場した11代目スカイラインから路線変更したことが大きい。もともとスカイラインは日本専売モデルだったが、もともとはコンセプトカーだったXVLを、日本ではスカイライン、海外ではインフィニティG35とグローバルモデルとした。さらに搭載するエンジンを直列からV型に変更。ローレルやセフィーロなどと合併させることで、ボディサイズも大型化され、それまでのスカイラインの美点であった高い運動性能は影を潜めてしまったのだ。
つまり、まさにこのモデルから、スカイラインとBMW3シリーズはライバルではなくなったといえるのではないか。しかも最新型に乗ってみると、運転支援システムの差こそ小さいものの、走りという点では大きく差が開いてしまっている。これは、電子デバイスの味付けの差にも思われ、3シリーズではそれが控えめなのに対し、スカイラインはかなり前面に出ているように感じるのだ。この味付けが、運転する楽しさをスポイルしているのだ。ゴタゴタ続きの日産だが、もう一度、スカイラインという名前が輝くようなクルマをつくってもらいたいものである。
(文=萩原文博/自動車ライター)