
新型コロナウイルス感染症の影響により大打撃を受けた観光業や飲食業などの需要喚起、地域の活性化に向け計画されている国内旅行促進事業「Go To Travelキャンペーン」。国の経済対策として約1兆4000円をかけて実施される巨大事業がついに22日から始まる。政府は当初、8月から開始する予定だったが、「地方の旅行業者から開始を急ぐ声を受けた」との理由で今月22日に前倒しした。
新型コロナウイルス感染者が増加している東京など首都圏を含めて、国内全域の人の移動を事実上大きく促進することになるのだが、とある地方の観光業者からは早くも不安の声が上がっている。現在に至るまで、新型コロナウイルス感染症の感染者数ゼロを守り続けている岩手県だ。
「もしお客、従業員に感染者が出たら廃業かも」
キャンペーンの対象は国内旅行の旅費、宿泊費。移動するだけの交通費は対象外だ。宿泊の場合は宿泊のみの代金のほか、新幹線、飛行機を利用する交通費込みのパック旅行も対象となる。22日時点で35%が割り引かれ、9月以降は旅行全体の35%割引に加え、旅行先で利用できる地域共通クーポン分が15%還元され、総額で半額になるという制度設計だ。
世界遺産に登録されている中尊寺金色堂のある岩手県平泉町の旅館関係者は、次のように話す。
「あまりにも唐突のキャンペーンの開始に、正直狼狽しています。確かにコロナのせいで、経営はリーマンショックや東日本大震災を超える厳しさです。その上で我々は政府に対して、支援策を求めてきました。多くは雇用調整助成金の助成率の引き上げや地域振興券の発行、事業再編・統合促進税制など、現場事業者の経営をダイレクトに支援する内容が主でした。
国内旅行の需要喚起も業界団体が要望していたと思いますが、それは『県内限定』や『東北限定』などの地域限定型のキャンペーンだったと記憶しています。それぞれの地域の状況をみながら、ゆっくりと拡大していくものだと考えていたんです。それが突然、全国規模で展開されるとは思ってもいませんでした。
われわれとしては、大手旅行代理店さんが手配したツアーを断ることはできません。どこの地域から来た方でも、お客様はお客様です。ただ感染者ゼロのこの県で、万が一にも従業員やお客様に感染させてしまうことがあったら、もう廃業するしかありません。観光業の現場にとってはあまりにもリスクが高いように思います」