「Go To」旅行費用は半額、外食は2割を国が補助…過去最大規模の需要喚起策の効果
はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大は、国内の観光・外食・イベント産業に甚大な被害をもたらしている。これに対して政府は、感染の終息を見極めつつ、かつてない規模の需要喚起策を行い、消費を促進する「Go Toキャンペーン」の実施を決めた。
Go Toキャンペーンには「Travel」「Eat」「Event」「商店街」の4種類がある。なかでも需要喚起が期待されているのは「Travel」であり、旅行業者等経由で、期間中の旅行商品を購入した消費者に対し、代金の2分の1相当分のクーポン等(宿泊割引・クーポン等に加え、地域産品・飲食・施設などの利用クーポン等を含む)を付与(最大一人あたり2万円分/泊)する内容である。
また「Eat」に関しては、オンライン飲食予約サイト経由で、期間中に飲食店を予約・来店した消費者に対し、飲食店で使えるポイント等を付与(最大一人あたり1000円分)と、登録飲食店で使えるプレミアム付食事券(2割相当分の割引等)を発行する内容である。
さらに「Event」では、チケット会社経由で期間中のイベント・エンターテイメントのチケットを購入した消費者に対し、割引・クーポン等を付与(2割相当分)する内容となっている。
現在のところ8月上旬から半年間の予定で、何回でも利用できるとのことである。そこで今回は、旅行、外食、イベントの3分野で実施されるGo Toキャンペーンが、消費者に与えるメリットを統計的な手法を用いて数量的に推計した。
推計方法
政府は本事業に1兆6794億円もの予算を計上しており、実質的に旅行商品価格を最大で5割、外食とイベント価格を2割程度引き下げる効果がある。価格が下がれば、財・サービスの購入量は増加する。この増加分のメリットを、「消費者余剰」の増加として計算した。
なお、消費者余剰の定義は、「消費者が財を購入するとき支払ってもよいと考える最大の金額から実際に支払った金額を差し引いた金額」とされている。消費者余剰分析は、政策評価手法として一般的であり、例えば、米英で実施されている規制インパクト分析において、「規制の費用」を測るために用いられている。
推計結果
本分析の対象とした3分野における価格弾性値を計測すると、旅行が-1.1、外食が-1.0、イベントが-2.3となる。これら3分野については、補助率が最大で旅行50%、外食とイベントが20%であることからすれば、市場規模の増加率は基準から旅行が最大で+55.1%、外食が+20.2%、イベントが+45.3%それぞれ増加することになる。
コロナ後のそれぞれの市場規模水準は不明だが、家計調査のパック旅行と一般外食、入場・観覧ゲーム代支出に世帯数を乗じた金額に基づけば、2020年1-4月平均で2018年平均対比それぞれ42%、79%、76%の水準になる。したがって、仮に旅行・外食・イベントの市場規模が直近2018年の2分の1、3分の1、3分の2になったと場合分けして、試算対象とした3分野の市場規模の拡大額を合計すると、半年間でそれぞれ最大+2.1兆円、+1.4兆円、+2.8兆円となる。この金額がそのままGDPの増加に結び付くわけではないが、2019年度名目GDPのそれぞれ0.4%、0.3%、0.5%に相当する額となる。
なお、旅行の付与については、最大一人当たり2万円分/泊の上限があるため、旅行の効果が下振れる可能性がある一方、外食の最大一人当たり1000円分のポイント等付与は加味していないため、外食の効果が上振れる可能性があることには注意が必要。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)