不動産経済研究所によると、2019年の新築マンションの平均価格は4787万円で、首都圏だけに限ると5980万円と6000万円が目前。平均的な会社員では簡単には手が出せないレベルまで上がっています。それに対して、東日本不動産流通機構によると、2019年の首都圏の中古マンションの成約価格の平均は3442万円ですから、これなら十分に手が届く範囲ではないでしょうか。いよいよ中古マンションの時代といっていいでしょう。
なにかと買いやすくなっている中古マンション
しかも、その中古マンションを買うときのローンが、来年、2021年1月から格段に有利になります。来年1月といえば、まだまだ先のことのように思われるかもしれませんが、そんなことはありません。自己資金の準備を進めながら、物件探しをしていくと、いい物件が見つかったときには、半年、1年が経過していたということも珍しくありません。早めに、準備しておくにこしたことはないのです。
折から、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあって、中古マンション価格が下がり始めています。大手不動産会社などが売主の新築マンション価格は下がりにくいのですが、売主のほとんどが個人の中古マンションは、さっそく下がり始めているのです。
その中古マンションを買うときのローンが格段に有利になるとはどういうことでしょうか。具体的にみてみましょう。
2021年1月から「フラット35」の制度が改正
住宅金融支援機構では、民間機関と提携して実施している住宅ローンの「フラット35」について、2021年1月からの制度改正を予定しています。そのなかでも、利用者にとって嬉しいのは、中古住宅をリフォームして取得する場合などに利用できるフラット35リノベの条件が大幅に緩和される点です。
国の住宅施策は、かつての新築住宅取得支援一辺倒から、中古住宅流通促進へのシフトを強めており、今回の施策もその一環。市場の動向をみても、首都圏では新築マンションの発売戸数を中古マンション成約件数が凌駕しており、まさに中古住宅の時代にふさわしい動きといえるでしょう。
フラット35リノベが格段に利用しやすくなる
そのフラット35リノベは当初10年間(金利Aプラン)または5年間(金利Bプラン)、金利を0.50%も引き下げてくれる嬉しい制度です。それが格段に利用しやすくなるのですから、1月からの実施に向けて、ぜひとも注目しておいていただきたいところです。
その1月からの適用条件は、図表1にある通り。金利引下げ期間が10年の金利Aプランに関しては、ほぼ現状通りですが、金利Bプランに関しては、大幅に緩和されます。
金利引下げの条件を大幅に緩和して利用促進
現在のフラット35リノベの金利Bプランの条件は、断熱等性能等級4、一次エネルギー消費量等級4以上、耐震等級2以上、高齢者等配慮対策等級3以上――などのいずれかの条件を満たす必要があります。住宅性能表示制度の等級を用いて、厳しく条件設定されているのですが、これが図表1にあるように、住宅ローン減税等の対象になるリフォームと同等で、機構が定める工事であればOKに緩和されます。
従来、住宅金融支援機構では、フラット35(リフォーム一体型)と呼ばれるフラット35を実施してきましたが、後に触れるフラット35S等と併用する場合を除いて、金利引下げのメリットがないこと、認知度がさほどではなかったことなどもあって、あまり利用が進んでいませんでした。それを、フラット35リノベに吸収、大幅な金利引下げが適用されるようにして、利用を促進しようということですから、1月以降、利用者が急増する可能性があります。
5年間で70万円以上の負担軽減になるケースも
実際のところ、どれくらいの効果があるのか、具体的な例をみてみましょう。
図表2の(1)は、中古住宅取得費用とリフォーム費用のうち3000万円をフラット35で調達する場合の資金計画例です。現在のフラット35(リフォーム一体型)だと、金利は1.30%ですから、毎月返済額は8万8944円になります。
それが、2021年1月以降、当初5年間の金利が0.50%下がるフラット35リノベ金利Bプランを利用できるようになれば、毎月返済額は8万1918円。月額7000円ほどの軽減で、年間にすれば8万円以上、5年間では42万円ほども得できる計算になるのです。これが、借入額5000万円になると、図表2の(2)にあるように、5年間で70万円以上の負担軽減です。
もちろん、より厳しい条件のフラット35リノベの金利Aプランを利用できれば、さらに軽減メリットが大きくなるのはいうまでもありません。
フラット35にはさまざまな金利引下げ制度がある
このフラット35には、ほかにも図表3にあるようなさまざまな金利引下げ制度があります。なかでも、最も多くの人が利用しているのが、先にも触れたフラット35Sです。フラット35SのSは、スペシャルの頭文字からきています。利用に当たっての条件はさほど厳しいものではなく、2020年4月の申請実績をみると、フラット35の申請戸数が9297戸に対して、フラット35Sが8659戸を占めています。つまり、フラット35Sは、フラット35利用者のうち9割以上が利用できる、ごく当たり前の制度になっているわけです。
そのほか、地方公共団体と連携して実施されているフラット35子育て支援型・地域活性化型、フラット35地域活性化型などもあります。これらは、地方公共団体の補助金などの支援策と合わせて金利引下げを利用できるので、メリットが一段と大きくなります。
ただし、利用できる地方公共団体は限られているので、詳しくは住宅金融支援機構のホームページをご覧ください。
金利引下げ制度の組合せでさらに金利が低くなる
これらの金利引下げ制度、組み合わせて利用できるのが大きなメリット。図表4にあるように、フラット35子育て支援型・地域活性化型とフラット35S(金利Aプラン)を組み合わせると、当初5年間の金利引下げ幅は0.25%+0.25%の0.50%に拡充され、6年目から10年目も0.25%の引下げになります。
さらに、フラット35S子育て支援型・地域活性化型とフラット35リノベの組合せだと、金利Aプランは当初12年間金利が0.50%引き下げられ、金利Bプランでも7年間0.50%の引下げになるのです。
もちろん、これらの金利引下げ期間が終わると、もとの金利に戻りますが、それでも当初から確定している金利が適用され、借入後に市中の金利が上がっても適用金利が上がるようなことはないので安心です。こうしたメリットを活かして、新築に比べて比較的手が届きやすい中古住宅の取得に向けて、準備を進めてはどうでしょうか。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)