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コロナ、吉村知事「大阪モデル」が行き詰まり…“とりあえず数字出せばいい”の自縛

文・写真=粟野仁雄/ジャーナリスト
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吉村洋文知事

 大阪府吉村洋文知事は7月31日、道頓堀などの大阪市中央区の歓楽街「ミナミ」の御堂筋、堺筋、長堀通、千日前通に囲まれた四角い区域を特定し、接待を伴う飲食店のうち、新型コロナウイルスの感染防止対策を取っていない店に休業を求めることを決めた。居酒屋などには営業時間を午後8時までとするように要請する。

 大阪にはミナミと並ぶ歓楽街として大阪駅近くの北区、「キタ新地」があるが、7月12日からの2週間でミナミに滞在した感染者は148人と判明した一方、キタは41人だったことを根拠に、休業要請は見送られた。ミナミのあるスナック経営者は「午後8時閉店では商売にならん。滅茶苦茶や」と怒る。

 狭い一地域を具体的に示して休業要請することは、愛知県など一部を除き、他の都道府県では積極的には行われていない。「夜の街」を強調する小池百合子東京都知事も、歌舞伎町に限定するなどはしていない。「吉村流」を通す大阪府には大きな危機感がある。府では7月29日に感染者数が初めて200人を突破し221人となり、浪速っ子は一挙に不安に陥った。

 吉村知事はこの日午後2時から定例会見を開き、面倒なメールアドレスの打ち込みなしに空メールシステムを利用する「改良版コロナ追跡システム」などについて説明した。会見に出席した筆者が神戸市の自宅に戻った直後、「221人感染」とニュース速報が流れ、吉村知事が緊急会見を開き、「検査数が2000を超えるなど増えているので、数字は増加傾向にはあるが想定内」などと話した。

「5人以上は控えて」は愚民政治?

 前日の7月28日。大阪府の感染者が150人を超え、吉村知事は8月1日から20日の期間に限定し「5人以上の飲み会や宴会を控えてほしい」と呼びかけた。「5人と4人で何が違うんや?」といった批判が出ることは承知の上。吉村知事は「大勢での飲食といっても、どのくらいかわからないから」と説明する。

 だが本来は「大勢」という、ありふれた日本語を使われた府民が自らの常識、良識で判断すべきものではなかろうか。「大勢イコール何人以上」というものではない。ちなみに「大勢(おおぜい)」は「広辞苑」でも「多くの人、多人数」と説明するのみ。あえて「5人以上」と提言したのは、「大勢いうたかて、いったい何人やねん?」などという問い合わせが数多く役所に寄せられるのを避けたい面もあろう。

 しかし今回は、評価を得てきた「吉村流の具体性」に本人が縛られた感がある。これまで府の専門家会議で科学に裏打ちされた具体的な数値や日時などを迅速に打ち出す「大阪モデル」が高く評価されていた。しかし、今回は自らも「5人に科学的根拠はありません」と認める。府民のために具体的数字を出すべきと考えたというより、政府が抽象的なことしか言わないのに対して数字などの具体的な内容を提示して評価されてきた身として、「なんでもええから数字を出したかった」のが本音ではないか。

 一方、メディアに引っ張りだこの感染症の専門家、岡田晴恵・白鴎大学教授はテレビ朝日の情報番組で「学生を教えているからわかるのですが、若い人は大勢って何人ですか? って必ず具体的なものを求めるんですよ」と話し、吉村知事の「5人」を評価した。しかし、ある意味で「愚民政治」でもあろう。

 現在、感染者の多い若者の行動が課題で、吉村知事も「20代や30代を中心にどんちゃん騒ぎをすることで感染が広がる」を強調していた。「5人以上」について吉村氏は「団体で飲み会などを申し込んできた場合、店にキャンセルしろとは言いません」とし、利用者の自粛を一義にしている。

「感染対策をしている」の判断基準は

 ほかにも大きな課題がある。休業補償だ。吉村知事は28日の会見で「府が発行している感染防止宣言のステッカーを貼っているなど、感染防止対策に協力してくれているところには補償するが、そうでないところはしない」と話した。新たな「大阪モデル」で重症病床35%か、軽症中等症病床50%に達した場合、「黄信号2」とし、クラスター(感染者集団)が発生して感染防止策を取っていない施設などに休業を求める。キタ新地やミナミでは黄信号が出た7月1日以降も、人出が減らなかったための新対策だ。

 しかし協力していたのか、いないかをどのように線引きするのか。簡単に入手できるステッカーなどでは判別できない。補償は飲食店などの経営者にとっては死活問題。下手すれば「協力していたのに保証されなかったため廃業に追い込まれた」などと訴訟沙汰にもなりかねない。

 記者会見でそこを詳しく聞きたかったが、会見がすでに2時間に及んでおり遠慮した。もっとも、そこはまだ詰められていないだろう。これまで休業を要請した店などには50~100万円の支援金を払っていたが、もはや財源がなく、陽性率の高い限定地域などに限ることになったようだ。

 春先からの迅速かつ具体的なコロナ対策で高い人気を博してきた吉村知事。本人も「新型コロナの第2波」と認める浪速の感染者激増のなか、真の正念場だ。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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