4連休前日の7月22日。安倍晋三首相は自民党の二階俊博幹事長と会食した。もっとも2人きりではない。メンバーには、プロ野球ソフトバンクの王貞治球団会長や俳優の杉良太郎氏、洋画家の絹谷幸二氏らスポーツ、芸能、文化の重鎮が並び、場所が銀座の高級ステーキ店なのもうなずけるような豪華会食だった。
主催は二階氏。メンバーはみな同氏と旧知の間柄だという。出席者によれば、安倍首相は着席するなり政府の新型コロナウイルス対策に関する考え方を披露。その後は、3氏がそれぞれの業界の現状について語った。生臭い話はなく終始穏やかな雰囲気で、安倍首相と二階氏の関係は良好に見えたという。実はこのメンバーでの会食を安倍首相は一度、公務を理由に断っている。それでも再設定に応え出席したところに、二階氏に対する気の遣いようがわかる。
9月中にも行われる自民党役員人事をめぐり、安倍首相と二階氏が静かな駆け引きを繰り広げている。自民党役員の任期は1年で、例年9月に人事が行われ、安倍政権では同時に内閣改造も実施されてきた。今年も同様のスケジュールで9月中~下旬に行われると見られている。
最大の焦点は二階氏が幹事長に留任するのか否かだ。幹事長人事をめぐる安倍首相と二階氏の駆け引きは6月頃から表面化し、二階氏が、安倍首相の嫌いな石破茂元幹事長の派閥パーティでの講師を引き受けたのもその布石。二階氏が主導し、親密関係を築く菅義偉官房長官が呼び掛け人に加わる派閥横断の議員連盟も8月中に初会合を開く予定。いずれも安倍首相に対する牽制とされる。
「安倍首相はなんとしても二階幹事長を替えたいと思っている。二階氏は9月8日まで幹事長を務めれば、通算在職日数で田中角栄元首相を超えて歴代最長となる。その勲章が得られれば、もういいだろう、というのが安倍首相の考え。二階氏が親中国なのも、米中対立を加速させているトランプ大統領との関係で障害になる。昨年の人事で二階氏を外したかったのに外せなかったことの雪辱もある。しかし、二階氏は幹事長続投への執念がものすごいから、外されれば、一気に反安倍となり、石破氏を担いで動き出すんじゃないか」(安倍首相に近い自民党議員)
燻る衆議院“秋解散”
二階氏が交代した場合の幹事長は誰になるのか。安倍首相は昨年、自身の後継含みで岸田文雄政調会長の昇格を想定していた。しかし、コロナ対策などで失点し、世論人気も低いままの岸田氏への期待は、この1年ですっかり萎んでしまった。
「むしろ安倍首相が心を許す盟友の2人、甘利明税調会長か下村博文選対委員長が浮上する可能性がある。二階氏を外した際に岸田氏が幹事長にならなければ、安倍首相が岸田氏を見切ったということになる」(同)
内閣改造はどうか。麻生太郎財務大臣と菅官房長官は留任の方向で、内閣の骨格は崩さないと見られる。
「メディアに頻繁に取り上げられてきた安倍首相と官房長官の不仲説が、国会で野党から質問までされるまでに至り、両者は必死で否定してきた。さまざまなコロナ対策が世論の批判を浴びていることもあり、危機管理の要として官房長官の交代は難しいのではないか」(同上)
“ポスト安倍”を競わせるため、河野太郎防衛大臣、茂木敏充外務大臣、コロナ担当の西村康稔経済再生担当大臣はポストが変わっても閣内残留の可能性が高いという。ただし、加藤勝信厚労大臣は例外。たとえ留任でも「コロナで大混乱の厚労省の後始末は最後までやってくれ」というメッセージらしい。
いまだ燻る秋解散のタイミングによっては、人事もその時期も変わってくる可能性がなくはないが、幹事長交代があるか、ないかは、その後の政局すべてに影響しそうだ。
(文=編集部)