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長谷川高「“ガラガラポン”の時代を生き抜くための経済・投資入門」

ITバブル崩壊直前と同じ兆候…コロナ禍が崩壊に拍車、実態なき企業の株価が異常な高騰

文=長谷川高/長谷川不動産経済社代表
ITバブル崩壊直前と同じ兆候…コロナ禍が崩壊に拍車、実態なき企業の株価が異常な高騰の画像1
「GettyImages」より

 不動産バブル崩壊前夜、1990年代の初頭、私は不動産デベロッパーに勤務していました。品川区の独身寮から横須賀線で銀座にある本社へ通っていました。しかしながら週の内2回程度はゴールドメタリックのベントレーに乗って出社していました。よく本社の前で国産の社用車から降りる役員たちと鉢合わせしましたが、こちらは営業中ですので特段意に介しませんでした。

 ベントレーはもちろん私の所有車ではありません。打ち合わせと称して恵比寿の不動産会社の社長と会うたび、その社長の乗るベントレーで会社まで送ってもらっていたのです。

 徐々に不動産バブルの崩壊が囁かれていたある日、その会社を訪れてみると、いつものベントレーがジャガーに代わっていました。「銀行からの返済の催促が厳しくなり現金化した」とのことでした。「ジャガーもいいですね」と申しますと「これは金融流れだよ。知り合いの不動産ブローカーが自動車ローンを払えず、そいつから50万円で買い受けた。車検までの命だけどね」と。「金融流れ」とは自動車ローンが払えなくなった車の購入者がローン会社に無断で第三者に譲渡してしまうというものです。車の実質の所有者はローン会社のままですので、車を買い受けても次の車検は取得できないのです。そしてこんな話しも飛び出してきました。

「実は来月付き合っている韓国のホステスに赤坂にクラブを出させる。その費用は約4億円かかった」と。今思えば、どこかおかしな話しが至るところに転がっていました。自分がバブルの中にいる間は、それがバブルなのかどうかは気がつかないものなのです。

 そんな折、勤めていた会社の創業者、江副浩正氏により号令が発令されました。全社員による全保有物件の売却キャンペーンの始まりでした。約1兆円分の(不良)資産の現金化です。私の足元でもバブル崩壊が突如起こり始めました。同時に会社のコピー用紙は藁半紙となり、カラーコピーは使用禁止。ボーナスはゼロとなりました。社員の大リストラも始まり、会社は確実に傾いていきました。

 数カ月後、恵比寿の社長の会社は50億円を超える債務の支払いが滞り破綻しました。そして、当然ながら社長自身も自己破産です。まさに業界全体の崩壊が激しく始まったのでした。

 さらに約1年後、久しぶりにお会いした時にはクルマはマークⅡに変わっていました。仕事は白タクをしていると。「例の赤坂の韓国クラブのホステスを送り迎えしている」というのです。さらに社長はこう言いました

「平家物語だよ、平家物語。盛者必衰の理だよ」

ITバブル崩壊

 これまでのバブルを振り返ってみると、マーケットにおいて振り子が大きく片方に振れすぎた時、その大きな偏りが揺り戻される兆候として、またはその崩壊を暗示するかのような出来事が起こってきたように思われます。

 私が過去においてもう一つよく記憶しているバブル崩壊は、1999年に起こりましたITバブル崩壊です。Windows95が1995年に発売され、その翌年1996年に私自身独立し不動産コンサルティング会社を起業致しました。

 すでに不動産業界は不動産バブル崩壊の影響で右を見ても左を見ても焼け野原状態となっていました。そこで当時景気の良かったネット業界にあやかろうと、社名を有限会社デジタル不動産コンサルタントとしまた。ホームページを立ち上げた結果、取材が殺到しました。

 同時に私はいくつかのインターネット系の会社と関わりをもちました。しかし、どの会社も私が不動産バブル崩壊前夜に不動産業界で体験したものよりも、さらに「酷い」中身でした。どの会社の社長も有名大学を出てかつ有名企業を退職した若手経営者が莫大な資金を集め、社会の注目を浴びていました。しかし、その内側に入って私が見たものは、一言で言えば「実態がない」、つまりお金を稼ぎ出す仕組みが見当たらなかったのです。すべてサービスはネットに関連づけられていましたが、まったく収益を上げていない状態でした。それでも皆が皆、上々を目指しかつ声高らかにそれを宣言し資金を集めていたのです。

「不動産業界より酷い」。これが当時の私の正直な感想でした。当然ながら間違いなく、近い将来崩壊すると確信を得ました。そして、1999年にその崩壊が海の向こうの米国からやってきました。いわゆる「ITバブル崩壊」でした。

バブル崩壊前夜を象徴する出来事

 この時に起きたことと非常に似通ったことが今、米国、特にIT関連業種において再び起きています。まさにバブル崩壊前夜を象徴する出来事の数々です。現在、米国では若者を中心にスマホを利用した株取引が盛んに行われています。1999年の頃でいうデイトレーダーの再来です。彼らが好んで使う証券会社が「ロビンフット」なるアプリであり証券会社です。手数料が無料で、かつその使いやすさで人気があるようです。

 現在の米国の個人投資家の多くは失業給付等の政府からの支援金を原資に取引を行い、その対象は主にGAFAやテスラのようなテック系の企業です。米国におけるIT系企業中心を中心とするナスダック市場の指数は、ITバブルといわれた1999年当時の2倍以上となり、新型コロナな発生後も急上昇を続けています。GAFAなどの企業は十分に優良企業ではありますが、その株価はすでに正常な数値ではなくなっています。

 今年6月には、このロビンフットを利用してオプション取引をし、結果約7000万円以上の損失を抱えてしまった大学生が自殺したといった事件が起こりました。またその直後には、そのロビンフット本社が窓ガラスを防弾仕様に変えたといったニュースも入ってきました。

 さらには、現在米国では、SPAC(特別目的買収会社)、別名「白紙委任状会社」が次々と上場し莫大な資金を市場から集めています。これはこの言葉の通り、資産をなんら持たずに空箱のまま上場し、資金を集めてから将来有望と思われる企業を買収していくといった謳い文句で組成された空箱企業です。どんな企業をいくらで、どんな条件で買収するかは経営陣に任せている、それゆえ白紙委任状会社といわれています。

 このSPACが買収して大きなニュースになった企業がニコラ・モーターというベンチャー系電気トラックメーカーです。なんと今年の6月にこのニコラを買収したSPACの株価は一時約3兆円にまで値上がりしました。しかし、実はこの電気トラックメーカーはいまだ1台も完成品を市場で販売していないのです。

 さらにはこの企業が製造したトラックが道を走る宣伝用の動画が詐欺的だと告発する企業調査会社が現れました。彼ら曰く、そのトラックの走行する動画はただ坂道を下っているだけで、トラック自体は自力走行していないというのです。そしてニコラはその坂道走行を認めました。「弊社は自力走行しているとは言っていない」と。

 この企業が兆の単位の資金を集めているのです。何かが大きくおかしくはないでしょうか?

 直近の米国でのIT(テック)バブルの再来は1999年同様に近々破綻すると思われます。 ここのところ、早くも米国ナスダック市場で変調が起こっています。しかし、それを報じるニュースは「上がり過ぎた株価の調整」とか「今後も小さな乱高下を繰り返す」といった内容が多いようです。

 残念ながら、これから、いやすでに始まっていることは「いっときの調整」などではないと思われます。それはまさに1999年以来のITバブル崩壊の再来だと感じます。そのしてその影響、つまり大波は日本にも間違いなく襲ってくると思われます。

日本で起きている極地的バブル

 ところで現在の日本ですが、バブルが起こっているのでしょうか? 私は極地的にはバブルは十分に熟成されていると思います。代官山や恵比寿の路上に駐車されている高級車の多さ、そしてその運転手の若さ、(パンデミック前の)夜の高級店の異常な賑わい、これを見るたびにこれまでのバブルとは登場人物は大きく異なりますが同質の違和感を感じてきました。振れ過ぎた振り子は元に戻ると思います。まさに盛者必衰の理だと。

 そして今回は新型コロナという感染症の影響で経済が傷んだ状況下で起ころうとしています。その結果、新型コロナが今回の「崩壊」に加速をつけていると感じます。

 今回の幾度目かのバブル崩壊に関して、私は取引先や顧問先にここ数カ月警鐘を鳴らし、個別に対処方法をお伝えてきました。しかし、いまだピンと来ない方も多いのも事実です。しかし、準備するかどうかでその損害も大きく異なります。それは過去数回起きたバブル崩壊とその惨状がすでに証明してくれています。

 そして、崩壊の後には大きなチャンスがやってきます。いつの時代もガラガラポンのあとには、ピンチをチャンスに変えて大きく飛躍する者が出てきます。我々は評論家ではありませんので、もちろんその点においても最大限備えています。

(文=長谷川高/長谷川不動産経済社代表)

長谷川高/長谷川不動産経済社代表

長谷川高/長谷川不動産経済社代表

東京生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。
大手デベロッパーにて、ビル・マンション企画開発事業、都市開発事業に携わり、バブルの絶頂期からその崩壊と処理までを現場の第一線で体験。 1996年に独立。
以来、創業から一貫して顧客(法人・個人)の立場で不動産と不動産投資に関するコンサルティング、投資顧問業務を行う。また、取引先企業と連携して大型の共同プロジェクトを数多く手掛ける。
自身も現役の不動産プレイヤーかつ投資家として、評論家ではなく現場と実践にこだわり続ける一方で、メディアへの出演や執筆、講演活動を通じて、難解な不動産の市況や不動産の購入・投資術をわかりやすく解説している。
長谷川不動産経済社

Twitter:@hasekei8888

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