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藤和彦「日本と世界の先を読む」

コロナ・ワクチン、不信感で接種広がらない懸念…日本アンジェス、最も優れたワクチン開発

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員
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「GettyImages」より

 新型コロナウイルスのワクチン接種がまもなく始まる。英国政府は12月2日、米製薬大手ファイザーなどが開発したワクチンの使用を承認した。7日にも医療機関などで投与が始まる見通しである。米国でも12月中旬から接種が始まる見込みであり、感染拡大が続く欧米でパンデミック収束に向けた期待が高まっている。

 日本国内でもワクチン接種に向けた準備が進んでいる。12月2日の参議院本会議で改正予防接種法が可決、成立した。これにより、2020年度内から始まるとされる接種費用が無料となる。 政府は米ファイザー、米モデルナ、英アストラゼネカの3社から合計1億4500万人分を購入し、2021年前半までに国民全員分のワクチンを確保する目標を掲げている。

 これまでの常識では10年かかるとされてきた感染症のワクチン開発が、開発着手から1年足らずで実用化できたのは技術革新の賜である。ファイザーが開発したワクチンは「メッセンジャーRNA(mRNA)」と呼ばれる新しいタイプである。従来のワクチンはウイルスそのものやウイルスをかたちづくるタンパク質を投与していたが、mRNAワクチンは体の中でウイルスのタンパク質をつくらせる。ウイルスが持つRNAの配列さえわかればワクチンができることから、開発スピードが速いのである。

 有効性や安全性の面でも高い評価が出ているが、課題もある。mRNAはもともと壊れやすいため、長年ワクチン開発の大きな障害となっていた。最近になって脂質という人の細胞膜に似た成分でmRNAを包み込む技術が開発されたが、ワクチンの品質を保つためには細心の注意が必要である。このため、長期間保管するためには、セ氏マイナス70度の環境が不可欠とされており、ワクチンを素早く安定的に届ける供給網の整備が喫緊の課題となっている。ファイザーほど深刻ではないが、モデルナのmRNAワクチンも同様の課題を抱えている。

 ファイザーやモデルナに比べて少し遅れをとっているアストラゼネカのワクチンも、来年1月には承認される見通しとなっている。アストラゼネカのワクチンは、通常の冷蔵庫で長期保管ができる上、価格も低い。ワクチンの製造法がシンプルであることから、世界中に製造拠点を設置できるというメリットもある。しかし、メッセンジャーRNAタイプに比べて副反応が出やすいとのデメリットが指摘されている。

中国の「ワクチン外交」

 日本では接種予定はないが、中国やロシアのワクチン開発はどうなっているのだろうか。

 まず中国だが、一時は世界の開発レベルのトップを走っていたが、予防効果や検証が不十分との問題点が噴出している(11月27日付日本経済新聞)。中国は今年1月からワクチン開発を急ピッチで進めてきており、世界で治験の最終段階にある11種類のワクチンのうち4種類が中国製だが、このところ「有効性があまり高くない」「接種後に健康状態などを確認していない可能性がある」との批判が相次いでいる。

 習近平指導部は、ワクチンをアフリカや東南アジアなどの新興国に優先供給するという、いわゆる「ワクチン外交」を展開し、政治的影響力を強めるとの戦略を描いていたが、軌道修正を迫られそうだ。

 今年8月に世界で初めて「スプートニクV」を承認したロシアでは、現在最終段階の治験が実施されている。ワクチンの価格は欧米製より安価(11月25日付ロイター)とのことだが、中国製ワクチンと同様、検証データの透明性不足というアキレス腱がある。

 国際製薬工業団体連合会は11月27日、「来年半ばまでに10種類の新型コロナウイルスワクチンが利用できるようになる」との見通しを示した。世界保健機関(WHO)によれば、ワクチン接種によって集団免疫を克服するには、接種率が65~70%に達することが必要だが、米ホワイトハウスで新型コロナウイルスワクチンの配布計画を統括するスラウイ首席科学顧問は12月1日、「(全世界に十分な量のワクチンが行き渡る時期について)2022年の前半か半ばまでに、大半の人が免疫を持つようになると望んでいる」と述べた。

第2のパンデミック

 ワクチン開発・供給に目途が立ちつつあることは明るい話題であるが、国際赤十字・赤新月社連盟は11月30日、「ワクチンを巡る偽情報が『第2のパンデミック』になりかねない」と警告を発した。新型コロナウイルス感染拡大への対応はこれまで「不信感」というパンデミックに妨害されてきており、ワクチン接種でも同じように妨げられるという懸念である。米ジョンズ・ホプキンズ大学が67カ国で実施した調査によれば、「ワクチン接種を受けるつもりだ」と回答した人の割合が今年7月から10月にかけてかなり減少しているという。

 日本では2013年、副反応とされる症状が多数報告されたためにわずか2カ月で接種勧奨が取りやめになった子宮頸がん予防ワクチンという前例がある。海外からのワクチンに問題が生じた場合の対応が不十分になる可能性があることから、国内でのワクチン開発にも引き続き注力する必要がある。

 国内のワクチン開発を牽引するアンジェスは、来年半ばまでに世界初のDNAワクチンの実用化を目指している。DNAワクチンはmRNAワクチンと同様の利点を有するとともに、保管面での制約が少ないとされており、最も優れたワクチンになるのではないだろうか。日本のみならず世界のためにも一刻も早く日の丸ワクチンが完成することを期待したい。

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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