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住宅ジャーナリスト・山下和之の目

一戸建て価格、実はマンションより2千万超も安い&広い…“一戸建て志向”強まり鮮明

文=山下和之/住宅ジャーナリスト
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「Getty Images」より

 前回は2021年の住宅市場で、価格や供給がどうなりそうなのかについて触れましたが、今回は住宅の形態、立地などにどんな変化が起こりそうなのかをみてみましょう。コロナ禍によって、消費者の住宅選びのあり方に変化が起こっており、そこから21年の新たな住宅トレンドが生まれそうです。

在宅勤務で住まい選びの考え方が変化している

 2021年に入って、ワクチンや治療薬によって新型コロナウイルス感染症を抑制することができたとしても、在宅勤務の流れは変わらないのではないでしょうか。

 実際に在宅勤務を取り入れた多くの企業では、生産性などに大きな影響はなく、今後も一定水準で継続していきたいとするところが多いようです。働く側も通勤やオフィスなどでの“三密”を避けることができる上、通勤時間の無駄がなくなるため、在宅勤務を歓迎する人が少なくありません。

 それが、住宅選びにも一石を投じることになっているのは周知の通りです。これまでは、多少狭くても、多少高くても、できるだけ都心に近い住まいを選ぶのがふつうでしたが、在宅勤務を前提にすれば、その必要はありません。郊外で、最寄り駅からの距離が遠くても、広い家のほうが、安全・安心、健康に暮らせると考えます。場合によっては郊外を飛び越えて地方でもいい、そんな考え方の人が増えています。

都心から郊外に希望を変える人が1割近くに

 具体的には、郊外の広めのマンションを取得する、あるいはマンションから一戸建てに変えるといった変化が起こりつつあるのです。

 たとえば、三井不動産レジデンシャルが、マンション居住者や購入希望者を対象に実施した調査によると、図表1にあるように、「都心エリア希望で変わらず」が57.4%と最も多いものの、「郊外エリア希望で変わらず」が16.5%で続き、「都心エリアから郊外エリア希望に変化」したとする人が7.5%となっています。

 7.5%という数字はまだまだ少ないような気がしますが、それでもこれまでの都心一辺倒の考え方に変化が起こりつつある点は、注目しておいていいでしょう。そうした流れを受けて、大東建託が行った調査では、57.6%の人が「これから郊外の人気が上がると思う」とし、57.7%の人が「これから地方の人気が上がると思う」としています。

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国も地方への移住促進に力を入れる方針

 国も東京一極集中を解消して、地方を活性化するため、地方創生に力を入れています。20年度の予算で、地方への移住に100万円、地方での起業に200万円、地方に移住しての起業に300万円の給付金制度をスタートさせています。また、地方でマイホームを取得する場合には、住宅金融支援機構が実施している住宅ローンのフラット35の金利を引き下げるなどの優遇策も行っています。

 21年度からは、この地方移住の給付金制度の対象を拡充することになっています。地方移住の給付金の対象になるのは、地方に移住して、地元の企業に就職することが条件ですが、21年度からは東京の企業に勤務しながら地方に移住する場合も、対象とする方針なのです。

 先にも触れたように、在宅勤務を前提にすれば、東京の近くに住む必要はなくなります。地方に住まいながら東京の会社の仕事をすることも可能ですから、そうした形での移住も100万円の給付金の対象にしようというわけです。

 地方に移住するに当たっては、仕事と住まいの確保が重要な問題で、それが移住への障壁になってきました。それが、この制度の拡充によってある程度解消され、21年には地方への移住が進むことになるのではないでしょうか。

距離が遠くなっても広い住まいを希望する

  郊外や地方への流れに拍車がかかる同時に、マンション一戸建てへの変化も重要なトレンドになりそうです。リクルート住まいカンパニーが行った調査でも、多少不便な場所にあっても、広い住まいのほうがいいとする人が多くなっています。

 住まいの広さと最寄り駅からの距離はほぼ反比例、駅から近ければ狭くなり、遠くなるほど広くなります。その広さと距離についてどちらを重視するかを聞いたところ、コロナ禍以前の19年12月の調査では、「ぜったい広さ」「どちらかといえば広さ」の合計割合が42%だったのが、20年5月の調査では52%と過半数を超え、9月調査でも53%とさらに増えました。特に注文住宅や新築一戸建て、中古一戸建てを希望している人でその割合が高く、一戸建て指向は距離より広さ重視につながっているようです。

 一戸建てが注目される第一の要因として、コロナ禍対応があります。在宅勤務が増えて住まいのなかにワークスペースを確保する必要があり、そのためには多少不便でも広い家のほうがいいに決まっています。ウイルス対策を考えても、広い家なら家庭内でソーシャルディスタンスをとりやすいといったメリットもあるでしょう。

実はマンションより一戸建てのほうが安い

 住まいの広さを求める上では、マンションより一戸建てのほうが断然有利です。国土交通省の『令和元年度住宅市場動向調査』によると、19年度に住宅を取得した人の住宅の延床面積は「分譲戸建て住宅」(建売住宅)が110.3平方メートルに対して、「分譲マンション」は75.8平方メートルです。中古住宅をみても、「中古一戸建て」が104.3平方メートルに対して、「中古マンション」は74.0平方メートルです。一戸建てのほうが、30平方メートル以上広くなっているのです。

 そして、実はマンションより一戸建てのほうが「安い」というのが、一戸建てが注目されるいまひとつの理由に挙げられます。

 たとえば、首都圏でみると、不動産経済研究所の調査によると、2019年の新築マンションの平均価格は5980万円ですが、東日本不動産流通機構による新築一戸建ての平均価格は3510万円です。一戸建てのほうが、実は2000万円以上安いのです。

一戸建ては広くなり、マンションは狭くなっている

 こうした傾向に拍車がかかりそうな要因として、マンションの面積はますます狭くなり、反対に一戸建ては広くなりつつある点が挙げられます。

 まず、首都圏の新築マンションをみると、図表2にあるように、このところ平均専有面積はジワジワと縮小しています。不動産経済研究所の調査によると、14年には70.8平方メートルだったのが、19年には68.0平方メートルまで減って、20年に入ってからも9月は66.29平方メートル、10月が64.33平方メートルと60平方メートル台の半ばまで縮小しています。

 専有面積が狭くなっているのに、1平方メートル当たりの単価は上がり続けています。15年は77.9万円でしたが、19年は87.9万円と4年間で10万円も上がっています。価格が高くなっているため、専有面積を狭くせざるを得ないという事情が背景にありそうです。

 前回も触れたように、このところは地価が低下し、建築費も頭打ちになっているところから、マンションの価格上昇にもそろそろ歯止めがかかりそうではありますが、そうなったとしても実際に下がり始めるのは21年ではなく、22年以降になりそうです。そうすると、この面積縮小傾向が21年も続く可能性が高く、その点も一戸建ての優位性につながりそうです。

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一戸建ての値段はほぼ横ばいで面積は広くなっている

 マンションとは逆に、新築一戸建ての価格はほとんど横ばいなのに、面積は広くなっています。

 東日本不動産流通機構の調査によると、図表3にあるように、成約件数は年々増えていますが、価格はほとんど横ばいが続いています。09年には3505万円だったが、19年は3510万円と、10年間で5万円しか上がっていません。新築マンションがこの10年間で3割以上も上がっているのとは対称的です。

 しかも、価格が横ばいのなかで、面積は拡大しています。図表4をご覧いただければわかりますが、土地面積は10年前の108.01平方メートルから19年には122.58平方メートルになり、建物面積も95.22平方メートルから、98.85平方メートルに増えているのです。

 このマンションと一戸建ての違いをみると、一戸建ての人気が高まるのも当然のことでしょう。まして、コロナ禍で広さが重視されるとなれば、なおさらです。

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マンションより一戸建てを希望する人が増加

 以上のような理由から、マンションより一戸建てを希望する人が増えているのですが、21年もその流れが加速されることになるのではないでしょうか。

 やはりリクルート住まいカンパニーの調査では、図表5にあるように、19年12月調査では、「ぜったい一戸建て」「どちらかといえば一戸建て」の合計が56%だったのが、20年5月調査では63%に増加、20年9月調査でも62%となっています。コロナ禍で、一戸建てへの流れが確実に定着しつつあるといっていいでしょう。20年12月現在、コロナ禍収束のメドがたちませんから、21年にもこの流れが続くのは間違いのないところではないでしょうか。

(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)

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山下和之/住宅ジャーナリスト

山下和之/住宅ジャーナリスト

1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(執筆監修・学研プラス)などがある。日刊ゲンダイ編集で、山下が執筆した講談社ムック『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド』が2021年5月11日に発売された。


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