
2020年12月23日、菅義偉首相は自民党の木村弥生衆院議員、日本電産の永守重信会長と会食した。木村議員は日本看護協会政策秘書室長を務めた看護師。17年の衆院選で、選挙区を鞍替えして京都3区から立候補したが、落選し、比例区で復活当選した。菅氏を支援する無所属議員の集まり「令和の会」のメンバー。菅政権の誕生により、20年10月、自由民主党副幹事長に就任した。永守会長は木村議員の支援者である。
菅首相と永守会長は脱炭素で歩調を合わせている。菅首相は10月26日の所信表明演説で「経済と環境の好循環」を成長戦略の柱に掲げた。温暖化対策として50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする脱炭素社会の実現を目指すと述べた。これを受けて経済産業省は30年代半ばに、国内の新車販売は電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などガソリン車以外にする目標の設定に向けた議論を始めた。
次世代車の導入では英国が2030年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売の禁止を決めるなど欧州が先行。中国や米カリフォルニア州も35年までにガソリン車の新車販売を全廃する方針を打ち出している。欧州委員会は30年の温室効果ガス排出削減目標を1990年比で55%とする計画。カリフォルニア州はすべての新車を排ガスを出さない「ゼロエミッション車」にする。
EV用駆動モーターに1兆円投資
世界的な脱炭素の機運の高まりを追い風に、日本電産は車載事業で攻勢を強め、EV用駆動モーターに最大1兆円規模の投資を行う。永守会長は20年10月26日、オンライン決算説明会で「この事業は50年計画。シェア45%。1兆円の利益を出すような事業」と強調した。
駆動モーターはガソリン車のエンジンにあたるEVの基幹部品だ。日本電産はモーターとギア、インバータなどを組み合わせたシステム製品「E-Axle(イーアクスル)」を開発し、19年から量産を始めた。これまでに中国の広州汽車集団や吉利汽車系の大手自動車メーカーに採用された。
攻めの経営を打ち出せるのは業績が急速に回復してきたからだ。日本電産はコロナ禍で稼ぐ力を高めた。20年4~6月期の連結決算(国際会計基準)の売上高は前年同期比7%減の3368億円だった。新車販売台数が低迷したため、車載部品が567億円と25%減少した。ハードディスクドライブ用モーターなど精密小型モーター事業も1044億円で3%減だった。搬送用ロボットなど機器装置事業は6%減の357億円。新型コロナの感染拡大に伴う設備投資の減退の影響を受けた。
こうした最中でも、本業の儲けを示す営業利益は2%増の281億円だった。営業増益を確保できたのは、新型コロナを契機に構造改革に取り組んでいるからだ。世界の生産拠点で部品の内製化や共通購買の推進、生産ラインの統合などの合理化を進めてコスト削減に努めた。