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工藤会・野村総裁に史上初の死刑求刑は出来レースなのか?裏に警察庁の意向と米国への配慮

文=編集部
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警察庁が置かれている中央合同庁舎第2号館(「Wikipedia」より)

 1月14日に福岡地裁(足立勉裁判長)で開かれた特定危険指定暴力団・五代目工藤會野村悟総裁と田上文雄会長に対する論告求刑公判で、検察側が野村総裁に死刑を求刑したことが注目されている(田上会長には無期懲役と罰金2000万円を求刑)。指定暴力団トップに死刑が求刑されるのは、史上初の事態だ。

 以前から工藤會関係者の冤罪事件を取材し、四代目工藤會の溝下秀男総裁(故人)との共著もある、作家の宮崎学さんに聞いた。

警察庁による「死刑ありき」の捜査

 今回の裁判は、1998年の北九州元漁協組合長射殺事件(殺人罪)、2012年の元警部銃撃事件(組織的殺人未遂容疑)、13年の看護師刺傷事件(組織的殺人未遂容疑)、14年の歯科医師刺傷事件(組織的殺人未遂容疑)の4つの事件について、野村総裁と田上会長の指示の有無が争点となっている。

 19年10月から始まった公判は、20年4月の緊急事態宣言による休止をはさんで、9月までに59回の審理、検察側・弁護側でのべ91人の証人尋問が行われた。被告人質問は4事件に関して野村総裁と田上会長に1回ずつ計8回にわたって行われ、両者はいずれも容疑を否認している。

 初公判には18席の傍聴券を求めて約300人が列をつくったが、今回の公判はソーシャル・ディスタンスへの配慮か、一般傍聴席は6席。約130人が抽選に並んだ。

 宮崎さんは、「野村総裁への死刑求刑は以前からの“既定路線”なので、驚きはないですね。もちろん、福岡県警ではなく警察庁の意向です」と説明する。

「15年1月に就任した金高雅仁警察庁長官が、その年の6月の会見で『組織(=工藤會)のトップを死刑や無期懲役にもっていき、二度と組に戻れない状態をつくり、恐怖による内部支配を崩していこうという戦略。徹底した捜査を遂げるということで臨んでいる』と宣言しています。このときに税務関係の逮捕にも言及していて、実際にその通りになりました。

『トップに極刑を』とは山口組に対しても言われたことはなかったので、『やる気』は伝わりました。それには、12年の元福岡県警警部への銃撃が大きく影響したといわれています。今回の裁判で審理されている事件のひとつですが、やはり警察のメンツを潰された、ということのようです」(宮崎さん)

 金高長官の会見の前年である14年9月から「平成の頂上作戦」として野村総裁と田上会長ら最高幹部が続々と逮捕され、野村総裁は15年に所得税法違反(脱税)容疑でも再逮捕された。所得税法違反については福岡地裁と高裁で懲役3年、罰金8000万円の実刑判決を受け、上告中と報じられている。

中世の魔女裁判と同じ「異様な裁判」

 宮崎さんは、「今回の裁判では多くの証人や証拠が集められましたが、具体的に野村さんたちの関与を裏付ける決定的なものは出てきませんでした。それでも、『ヤクザの親分は明確な指示など出さない』という『ヤクザの行動原理』だけで公判が進められてきました。これ自体は珍しいことではなく、ヤクザの親分衆の裁判は、だいたいがこのように進められてきました。法学者など識者の中には論理的におかしいと思う人もいるはずですが、『ヤクザをかばうのか』と言われるのが怖いのか、誰も反対しません。文句をつけているのは私くらいです」と笑う。

 宮崎さんは4つの事件についてそれぞれ問題があるというが、特に元漁協組合長射殺事件の問題点は、これまでもメディアで取り上げられてきた。

「この事件は1998年と20年以上も前のことで、すでに実行犯らの判決は確定しているにもかかわらず、起訴しています。弁護人は、『日頃から何かあるたびに、また工藤會の仕業かと騒ぐわりには、ずいぶん古いものを持ち出してきたなと(笑)。でも、わざわざ出してくるということは、検察は自信があるのでしょう。弁護団も緊張感を持って裁判に臨みます』と話していました」(同)

 また、被害者のK氏は北九州では有名な元大物ヤクザだったことも指摘されており、K氏の子分は、後に工藤會二代目となる草野高明総長の実弟を殺害する事件も起こしている。

「警察は、そうした経緯も把握しておきながら、『一般市民を襲う卑劣な工藤會』というレッテル貼りをしています。初公判では、弁護団が『一言で言えば異様な裁判だ』と述べていたそうで、私も同感です。理屈はいいから、とにかくヤクザを死刑にしようということで、これは中世の魔女裁判と変わらないでしょう」(同)

米財務省が「最凶組織」と名指し

 工藤會への「頂上作戦」には、日本政府による「アメリカへの配慮」も見え隠れする、と宮崎さんは指摘する。

「米財務省から『ヤクザの中でも最も凶暴な団体』とされた工藤會のトップに死刑を求刑することで、『日本もちゃんとやっています』というところを出したいのかなと思うんです」(同)

 実際に、野村総裁らの逮捕は海外でも大きく報道されている。一方で、初公判を前に「週刊実話」(日本ジャーナル出版)に獄中手記を寄稿して話題になった野村総裁が「最凶組織」は心外だと明かしているのは興味深い。

 この手記には、「『最凶ヤクザ』は心外と言うしかない。確かに我ら工藤會(Kudo-kai)は、アメリカ財務省から『the most violent yakuza syndicate』(最も凶悪なヤクザ組織)と名指しされたと聞いている。だが、テレビや新聞が『工藤會のしわざか?』」と騒ぐ事件のほとんどは工藤會の事件ではないし、『99%が有罪』といわれる日本の裁判で、工藤會の組員たちは無罪判決もけっこう受けている」とある。

 この手記によると、野村総裁は喜寿(77歳)を前に比較的健康のようで、裁判にも粛々と臨んでいるようだ。死刑の求刑にも、表情を変えなかったと聞いた。

後編に続く

(文=編集部)

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