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カプコン、コロナ下で社員に事実上の出社強要か…ゲーム業界、労働環境改善されない特殊事情

文=菅谷仁/編集部、協力=山岸純/山岸純法律事務所・弁護士
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カプコン公式サイトより

 新型コロナウイルス対策として政府が首都圏4都県に発令した緊急事態宣言は、今月8日から再延長期間に入った。

 外出自粛が当面続くということは、友人との会食や趣味の活動が制限され続けるということで、その代わりとしてスマホ用アプリゲームや家庭用ゲーム機などでストレス解消を図っている人も多いだろう。“おうち需要”の高まりもあってか、ゲームメーカー各社はコロナ禍であっても新作ゲームソフトの開発・販売を継続し、ゲーム内イベントの更新も続けられている。つまり流通や交通などライフラインに従事する人々と同じように、今も誰かが感染の不安を抱えながらゲームを作り続けているということだ。

 Business Journal編集部に先月、ゲームメーカー大手「カプコン」(大阪市)でのゲーム開発者の労働実態に関して複数の項目にわたる内部告発があった。告発内容を精査したところ労働基準法など諸法令に明確に違反しているわけではなかったが、世界的に見て良質とはいいがたい日本国内のゲームクリエイターの労働環境に関して問題提起をする意図で、以下のように記事にまとめた。各告発の内容とカプコン側の回答を項目ごとに記載し、山岸純法律事務所の山岸純弁護士に法的見解を求めた。

「全員強制出社でコロナ禍を理由とする休みは認められない」

 まず、寄せられた告発の一つは、緊急事態宣言下にあっても「全員強制出社を余儀なくされている」というもの。カプコン社内のある開発部署に今年1月、次のような社内メールが送信されたのだという。

「昨年ランサムウェアによる重大な被害に遭う事件がございました。この事件により当社システムへの攻撃が急増しており、現時点においてもVPNをはじめとする外部回線が安全と言えるまで対策が進んでいません。現在の対策としては24時間体制での監視を行い、ネットワークの不審な挙動に即時対応している状況です。

この状況を鑑みて、多くの方に検証していただき準備を進めてきたリモートシステムの使用を一時断念し、出勤対応せざるを得ないという判断に至りました」

 こうしたメールと合わせて同社幹部から「日本の7割は在宅だが、3割は出社して日本経済を支えている。我々は3割として日本経済を支えていく使命がある」という講話もあったという。

 ランサムウェア被害の影響を挙げた上で、同社社員は「リモート出社も許されず強制的に全社員出社です。しかも、全員出社方針の方針に異を唱えたり、不安や不満を言ったりする社員に関しては、人事担当者がリストアップして面談の上で、強制的に就業制限をかけて自宅待機とし、仕事を取り上げるという状況にあります。まるで退職を促されているように見える事例もありました」と語る。

リモートワーク中に感染したら自己責任?

 そもそもリモートワークが許されない状況は、昨年4月7日に発令された緊急事態宣言のころから継続しているのだという。宣言直後、ゴールデンウィーク前に同社開発部門の従業員に向けて行われた講話の録音データも寄せられたおり、その中で同社幹部は次のように従業員に語っていた。録音内容を書き起こして引用する。

「皆さんの中で、この現状にすごく不安をかかえている人はいると思います。遠慮なく自宅待機をしていただいて結構です。悪い意味ではないです。本当にそう思っています。

 その状態で働き続けることは難しい、とても難しいと。精神的に疲弊していくことを私たちは望んでないです。皆さんが健康で働いてくれることが一番の望みです。そこをよく考えてください。1カ月でも2カ月でも不安のある限りは休めばいい。

 ひとつ、大事なことを言っておきます。

 みなさんが自宅待機になった場合に、自宅待機中にもし感染されたとしても、どの企業も責任は負わないです。それは皆さんの自己責任ということになります。『休みたい、休ませてくれない』ではなくて、休ませるほうが簡単というのはそういうことです。

 自宅勤務していただいても、そこでの感染は皆さんの自己責任となります。ご自身で医療機関に行っていただき、検査をうけていただくしかないんです。把握しきれない、それが現状です。私個人はものすごく不安です。ここにいるメンバーが誰一人欠けることなく、来年も開発活動をしていってくれることが私の理想です」

 上記の講話で気にかかるのは、自宅待機を選ぶ従業員に対して「その状態で働き続けることは難しい、とても難しい」という部分と「自宅勤務していただいても、そこでの感染は皆さんの自己責任となります」の二点だろう。

 ハッキング対策やゲーム関連データの漏洩防止など、セキュリティー上の必要性もあり、同業他社の開発部門の社員も出社を余儀なくされている例は多い。

 リモートワークが可能かどうかは、各企業の経営判断もある。だが一方で、会社での集団感染の防止など、リモートワークが社会全体の感染拡大抑制に有効であることは昨年の緊急事態宣言発令の時点から指摘されていたし、「リモートワーク中にコロナにり患」したのなら、労働に関連して生じた病気などとして「労働災害」として認められる場合もあるだろう。少なくとも「我々は(編集部注:出社する)3割として日本経済を支えていく使命がある」という精神論的な出社理由が、社会にとって有益かどうかは議論が分かれるのではないだろうか。

 上記のような出社方針をとられている理由を聞いたところ、カプコン総務部広報IR室は次のように回答した。

「当社は、従業員の健康と安全に配慮した勤務体制の整備に努めており、新型コロナウイルスの感染抑止に向けては、時差出勤や在宅勤務の可能な範囲での適用、オフィス内のソーシャルディスタンスの確保、入退館口への検温器設置や従業員へのマスクの配布などに取り組んでおります。

 上述の講話については、社内で音声を聞き直しましたところ、ご指摘の事実は一部確認できておりませんものの、講話全体を通じて従業員に伝えようとしたメッセージは、従業員全員が健康で勤務できることが一番の望みであること、またそのために、感染リスクが高いとされる場所ヘ赴くことを自粛することで、本人および家族、周囲の方々への感染リスクを回避してほしいということでございました。昨年 4 月上旬当時、未知のウイルス感染症の危険度も明確ではなく、リスクの受け止めも様々であった中、腐心した上でのメッセージであり、一部でご理解を得られなかった方がいらっしゃったことは真摯に受け止めておりますが、講話全体としては適切であったと考えております」(原文ママ、以下同)

「労働組合の設立を会社が許さない」?

 コロナ禍の勤務状況の改善を相談しようとしても、同社には労働組合が存在しないのだという。コロナ禍以前から、同社内には「社員のランクによって裁量労働制と固定残業制 を区分ける」「社員の大半が早めに打刻して夜中まで仕事している」などの課題もあるのだという。一方、従業員が労働組合を設立しようとしたり、ユニオンなどに参加しようとしたりする動きは「会社が許さないという」との告発もあった。

 労働組合の設立や加入を保障している労働三権は日本国憲法で定められた労働者の権利だが、どうなっているのか。カプコン側の回答は以下の通りだった。

「従業員が労働組合を設立、加入することに関して、当社として関連法規の遵守に努めております。労働組合を設立、加入することに関しての上述のような話は確認できておりませんものの、引き続き従業員の声に耳を傾け、より労働者の権利に配慮した就業環境を整えてまいります」

「労務に関する内容を漏出した場合に訴訟をちらつかせる」?

 個人が特定される危険性があるため情報提供の内容を具体的に記すことができないが、ある従業員がカプコンの人事担当者と労務に関して面談した際、会話の内容を外部に漏出した場合は「情報流出に当たると訴訟をちらつかされた」という告発もあった。

 製品や企業戦略など社外秘の漏出ではなく、労働者が不当な権利侵害を受けたり、労働契約の一方的な不利益変更を迫られたりした際に、公的機関やマスコミに告発することは情報漏出に当たらないのではないだろうか。カプコン側は次のように回答する。

「従業員との労務に関する面談において、人事担当部門からは上述のような事実は確認できませんでしたものの、従業員の声には引き続き耳を傾けてまいります。なお、従業員と労務に関する面談を行う際に、従業員が多面的に判断できるよう、公的機関を含めた第三者への相談を推奨する場合もございます。労働者各個人が労務上の内容を外部に告発することに関して、引き続き当社として関連法規の遵守に努めてまいります」

ゲーム業界特有の閉じた世界とは

 別の大手ゲームメーカー関係者は次のように語る。

「とにかくゲーム業界は狭いです。優秀な技術者はどこもほしいので、誰がどこに行ったのかはすぐ話題になるし、その逆もまたしかりです。また、誰がどんな発言したのかも社内だけではなく、同業他社にすぐ伝わります。『会社に労働条件で難癖をつけた』なんて話もすぐ伝わり、転職活動もうまくいかなくなります。だから長時間労働をさせられても、理不尽な要求をされても、みんな黙って仕事をしているんです。カプコンさんだけじゃなく、労働組合がない会社は多いですしね。『労組の成立は阻止しないけれど、そんなものを作ったら社内でどんな扱いをうけるかわからない』なんて話もよく聞きますよ。

 新聞やテレビ局などの大手メディアの社会部や経済部は、クールジャパンが注目を集め、アニメやゲーム業界が盛り上がる前はほとんど取材に来ませんでした。今ですらハレモノに触るような雰囲気ですよね。なにか事件が起こって、『容疑者がそのゲームにはまっていた』なんて状況になると記者が会社の玄関に殺到しますが、どんな人々が、どんな状況でゲームを作っているのか、関心がないんでしょう。

 いつも会社に出入りしているゲーム専門メディアもまた、よっぽどのことがない限り、ゲームメーカーの社内事情や労働状況には触れません。新作ゲームの開発情報や各媒体で使う画像の著作権を押さえられているからです。もし新作の開発情報が一切入らず、キャラクターの画像やプレイ動画が使用できなくなれば、メディアとして干上がってしまうからです。

 そんなこんなで外部からのメスが入りにくいこともあると思います。創業者の精神論を軸にした強引な経営や、体育会系上司によるパワハラやセクハラもたくさん聞きます。若い人の間でゲームクリエイターが花形の職業として認識され始めたのはうれしい限りですが、次の世代に失望されないよう、今のうちに職場環境の整備は必要だと思います」

外部通報を生かして企業風土を変えるには?

 作り手が伸び伸びと働くことのできる環境で、面白いコンテンツが生まれ続けることを多くのゲームファンは願っている。では、ゲームメーカーやゲームクリエイターが労働環境を改善するために、どのような法律的な視点を持つべきなのか。山岸純法律事務所の山岸純弁護士は次のように語る。

「私のような非生産的な職業と異なり、ゲームクリエイターや、ライター、イラストレーターのような、豊かな想像力をもって芸術や感性を具現化することを業としている方々は、きっと、“キリの良いところまで”、“まだ期限まで時間があるから”といったサボり・ゴマカシ感情では仕事をしていないのでしょうね。

 自分の感性を頼りに頭にイメージされた画像や映像を表現するために、時間をかけて、時には時間を忘れて仕事をしているのかもしれません。こういった、『クリエイター』と呼ばれる方々は、本来、会社に労働力を提供し賃金をもらうという労働契約(雇用契約)で管理するようなことはできないのではないかと考えます。

 しかし、実際は、いわゆるフリーで仕事ができるクリエイターはほとんどいないでしょうから、また、生活の安定を求めるため会社に所属するしかありません。

 このような特性、“弱み”があるため、会社側は、会社に所属したクリエイターの『豊かな想像力をもって芸術や感性を具現化する活動』を、『締め切り』、『クライアントからのダメ出し』、『会社の都合による白紙撤回』などをもって搾取してしまうのでしょう。

 最近ではこのような関係を『やりがい搾取』と呼んでいるようです。

 今回、カプコン社の内部告発が取り上げられていますが、正直なところ、内部告発で何かが変わるものではありませんし、会社が関連法規の遵守に努める云々をプレスリリースしたところで、上記の構造はなかなか変わらないでしょう。

 日本社会では、残念ながら会社内のことは、あたかも“治外法権”のようであり、『労働者の権利がぁ!』と叫んでもなかなかよくなりません。

 かつて、たかの友梨ビューティクリニックでも残業代などに関し似たような問題がおこっており(https://biz-journal.jp/2014/09/post_5920.html)、マスコミに騒いでもらうことによって、ようやくエステ業界の労働環境改善につながったわけです。

 会社内で労働に関するセミナーを開いたり、労働基準監督署の指導を受けたり、また、昨今の労働者の権利意識の高まりによる、多少の改善は感じられますが、結局のところ、マスコミに“ブラック認定”されて、大々的に世間の非難を浴びることが、その会社やその業界の労働環境改善には一番の近道だと考えます。

 また、たかの友梨ビューティクリニックのときにも書きましたが、『外部通報』は、正しく使うことにより“ブラック企業“の暗部を社会にさらし出す最高のカードです。

 残念ながら、素人が生半可な知識で外部通報をすると痛いしっぺ返しをくらいます。今は、私を含め多くの弁護士が外部通報の手助けをしていますので、今回、取り上げられたクリエイター以外の方々も、弁護士に相談した上でどんどん外部通報カードを適切に行使し、その業界の労働環境改善に努めることが大切だと思います」

(文=菅谷仁/編集部、協力=山岸純/山岸純法律事務所・弁護士)

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山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。

 

菅谷仁/Business Journal編集部

菅谷仁/Business Journal編集部

 神奈川新聞記者、創出版月刊『創』編集部員、河北新報福島総局・本社報道部東日本大震災取材班記者を経て2019年から現職。

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