急激な社会の変化や過重労働、人間関係など、さまざまな理由からメンタルを病んでしまう人が増え続けている。その中でも、IT技術者は比較的「病みやすい」環境に身を置いているため、メンタルのケアをしっかり行わなければいけない。
この連載では、カウンセラーでありベリテワークス株式会社代表の浅賀桃子氏が執筆した著書『IT技術者が病まない会社をつくる』(言視舎刊)を通して、IT企業におけるメンタルヘルスマネジメントを紐解いていく。そして、IT業界特有の病んでしまう環境、メンタル不調者が出づらい組織の特徴、どんな組織をつくっていけばいいのか、事例を交えながら「病まない会社」づくりをサポートしていく。
メンタルの不調を招く労働時間超過と「ジタハラ」
今回のテーマは「メンタル不調を招きやすい組織と人」だ。
前回記事でも説明したが、メンタル不調を招く要因として特に挙げられるのが「極度の長時間労働」「恒常的な長時間労働」である。労災認定の目安となる「極度の長時間労働」は直前1カ月間の時間外労働がおおむね160時間超となる。また、「恒常的」と認められる期間はおおむね6カ月とされている。
「労働時間が長すぎてつらい」と周囲に助けを求められる人だけではない。問題なのは、自分の不調を周囲に伝えることができない状況に追い込まれている人がいることだ。それがリモートワークの推奨によって拍車がかかっているようにも感じる、と浅賀氏は述べる。
こうした背景を受けて、組織は「時短」に傾くわけだが、時短を推奨することが、かえって労働者の負担になってしまうこともある。
10人程度の部署で働く20代後半のAさんは、最近、課長のCさんから「早く帰れ」「残業は月●時間以内に収めること」「成果は今までと同様に出せ」と強要されるようになった。仕事量は変わらないのに残業代がもらえなくなったことから、Aさんのモチベーションは低下。まさに「ジタハラ(時短ハラスメント)」の状況である。
この背後にあるのは、「働き方改革=時短推奨」という表面的な対策になってしまっている会社の意思決定プロセスだ。課長のCさんは、経営層の意向を受けた部長のBさんからの指示を受けて、時短を強要していた。持ち帰り残業の実態や慢性的な人手不足も把握している中での「やむを得ない」言葉だったのである。
Aさんからの相談を受けた浅賀氏は、持ち帰り残業の時間と業務内容の洗い出しをするようにアドバイス。B部長もC課長も、Aさんが抱えている仕事量やかかっている時間について正しく把握できていなかった。
こうしたジタハラ対策には仕事量の見直しが欠かせない、と浅賀氏。もし上司に相談するときは、1日にどれだけの仕事をこなしているのか、勤務実態の記録をまとめておくことを勧めている。
自分の将来が見えないという不安を掻き立てる組織
その他の「不調を招きやすい組織」の特徴も挙げていこう。
たとえば成果主義の導入。IT業界でもエンジニアの評価方法として成果主義を取り入れる企業が増えているというが、逆にこれが不調をもたらすケースも少なくないという。
成果主義の導入は従業員のキャリアプランにも大きな影響を及ぼしているといい、会社の中である程度のキャリアを積んできた人たちに、今後のキャリアプランを具体的に考えて書いてもらうワークを実施しても「全然浮かんでこない」という声が増えているという。
年功序列ならば、何歳くらいにこれくらいのポジションで、というようなイメージができたものの、成果主義では何をもって評価されるのかもピンと来ず、10年後と言われても自分の先輩や上司と同じようになっているイメージがわかなくなっているのだ。これが将来への不安を呼び起こし、不調を招く要因の一つとなっている。
また、職場の人間関係も欠かせない要因の一つだ。特に理不尽な上司にあたってしまうと、メンタルはどんどん削がれていく。組織であれば、異動にならない限りは嫌な人間関係が続くことになるが、もしそれが難しい場合は、いかに理不尽上司からの被害を最小限にとどめられるかが、メンタル不調を防ぐポイントになる。
そんなときに浅賀氏がおすすめしている対処法が「逃げる」というもの。この「逃げる」とは、上司を理解しようとすることから「逃げる」という意味だ。私たちは相手への期待に対して、その意に沿わないことが起こるとネガティブな感情を抱く。上司に対する「上司は○○であるべき」という価値観が、ネガティブの感情を呼び起こすのだ。
そこで「相手を理解できるとも、相手に理解してもらえるとも思わないこと」で、上司の振る舞いや言葉の捉え方を変えるのだ。理解できないものはできないとすれば、幾分かネガティブな感情を流すことができるだろう。
もちろん、その場がどうしても耐えられない場合は、職場から「逃げる」ということも選択肢に入れるべきだ。
病みやすい人を取り巻く環境
最後に「病みやすい人」のタイプについて説明をする。
IT技術者によくみられるストレス要因には以下のものが挙げられる。
・人手不足
・長時間労働(休めない)
・ドッグイヤー(情報産業における技術革新など変化のスピードが速いこと)
・下請け構造
・厳しい納期、顧客の無理な要求
・顧客からの強いプレッシャー
・円滑でないコミュニケーションや人間関係
この状況に当てはまっている人や組織は要注意だろう。
また、浅賀氏は「自分自身が不調になったことを認めようとしない」心理を持っている人も、とりわけ30代くらいの男性に多いように感じると述べる。自分のストレス症状をいち早く把握できるのは自分しかいない。そこに気付き、いかに早期対処していくか。これが必要となる。
(文=編集部)
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『IT技術者が病まない会社をつくる』 IT業界に朗報! コロナ禍の中、メンタルヘルスに配慮しながら、業績をアップできる組織には何か必要か? IT事業について、現場・人事・経営者の3つの視点を兼ね備えたカウンセラーとして高評価を得ている著者が、キャリア・メンタル双方の側面から、組織づくり・管理法を提案する。