今年は衆議院議員総選挙の年である。首都圏の緊急事態宣言が解除され、いつ行われてもおかしくない状況になり、自民党の下村博文政調会長が「菅首相が訪米する4月に解散の可能性がある」と発言したことで、にわかに騒々しくなってきた。
【今後の政治日程等】
・4月上旬(8~10日?) 菅首相訪米予定
(菅首相は3月16日に1回目のワクチンを接種しているので、2回目は4月6日以降になる。)
・4月25日 衆議院、参議院補欠選挙
・4月29日~5月5日 ゴールデンウィーク
・6月16日 通常国会会期末
・7月4日 東京都議会選挙
・7月23日~8月8日 東京オリンピック
・8月11日~15日 お盆休み
・8月24日~9月5日 東京パラリンピック
・9月末 自民党総裁任期満了
・10月21日 衆議院議員任期満了
上記日程を考えると、総選挙は「ゴールデンウィークの前か後(4月か5月)」「東京オリンピック前(6月か7月)」「東京パラリンピック後(9月か10月)」に限られるだろう。
最も可能性が低い東京パラリンピック後(9月か10月)
この時期に解散総選挙をするには、菅首相にとってリスキーな面が3点ある。
1つ目は、自民党総裁選や衆議院議員任期満了が近く、まさに「追い込まれ解散になる」ことだ。総裁選もあることで、解散権という首相が持つ最大の武器を使う時期が限定されてしまい、政治に対する主導権が発揮しにくくなる。しかも、野党が選挙協力をする時間に余裕を与えることになる。
小池百合子東京都知事が小池新党をつくり、再度国政に参加する可能性もある。小池新党と日本維新の会と国民民主党がタッグを組む可能性もある。そうなると総選挙は、自民・公明×立憲民主・共産・社民×小池新党・維新・国民民主の三つ巴の戦いになる。これは、自民党にとって有利とはいえない。小池知事は東京オリンピック前なら表立った行動はできないが、オリンピック後であれば、オリンピックを無事に終えたということで、都知事をやめて衆院選に立候補することも十分考えられる。
2つ目は、コロナワクチン接種の遅れによって、国民の不平不満が高まる可能性があることだ。約480万人の医療従事者向けの接種は2月17日から始まったが、ワクチンの輸入が遅れていることもあって、2回分の接種が終わるのは、早くても5月末、遅くなれば6月にずれ込む可能性がある。
一方、約3600万人の高齢者向けは、4月12日頃から始まるが、2回分(約7200万回分)のワクチンの供給が終了するのは6月末の予定である。全国に供給(配布)が終わるのが6月末なので、高齢者の接種が終了するのは早くても7月から8月になる。一方、一般向けのワクチン接種は、高齢者と並行して開始されたとしても、早くて7月中旬以降、遅ければ8月以降になるかもしれない。国民の6~8割(約7500万~1億人)程度に接種が終わるのは、年をまたぐ可能性もある。
そうなれば、10月から始まるインフルエンザワクチンの接種と重なり、さらにはコロナワクチンの効果が1年なのかそれ以上なのかわからないので、来年から再度コロナワクチンを接種しなければならないかもしれない。まさにワクチン地獄になるようなことになれば、菅政権に対する国民の不平不満が高まることになる。
3つ目は、東京オリンピック・パラリンピックに対する国民の失望感が大きくなることだ。東京五輪は、開催されたとしても外国からの観光客はなく、日本人の観客も定員の半数程度になりそうだ。たとえ日本人の観客が観戦したとしても、大声での声援は禁止され、拍手程度になるだろう。競技者も、競技が終わった後で仲間たちやライバルとのハグなどでの健闘を称える姿を見せることはできないだろう。
表彰台では、金メダリストが銀・銅メダリストを表彰台のトップにあげて肩を組みながら、観客に手を振って称えあう姿も見られないだろう。アクリル板で仕切られた表彰台で、マスクをした競技者にマスクをした関係者から手渡されるメダル授与という光景は、オリンピックに似つかわしいだろうか。
かつてないほどの質素で盛り上がりに欠けるオリンピックを見て、国民から「こんなオリンピックなら開催しなければよかった」「1年延ばせばよかった」という声が大きくなれば、無理やり開催した菅政権には大きな打撃となる。
不確定要素が大きすぎる東京オリンピック前(6月か7月)
3月29日、自民党の二階幹事長は記者会見で「野党が内閣不信任案を提出するなら、菅総理大臣に解散・総選挙を進言する」と述べている。こんな脅しに野党が屈することはないだろうから、不信任案提出、解散・総選挙となる可能性はあるが、この時期の解散もかなりハードルが高い。
6月から7月は、コロナの最重要政策であるワクチン接種の最大の山場を迎えることになる。高齢者向けの接種が終盤を迎え、接種対象者が高齢者の2倍(約8000万人)以上になる一般向けが始まる。全国の地方自治体が、一番忙しくなる時期だ。ワクチン供給も、1カ月間で数千万人単位になり、毎日、日本全国で接種場所に大勢の市民が列をつくっている状況になる。地方自治体の関係者にすれば、猫の手も借りたいくらいで、従来投票所となる小学校の体育館なども、ワクチン接種の会場となることも十分考えられる。とても選挙どころの騒ぎではない。
もう一つ心配なのが、コロナのリバウンドだ。こればかりは想像がつかないが、3~4月が第4波とすれば、ゴールデンウィークの後は第4波以上の感染爆発が起きる危険性が高い。5月の下旬以降は、緊急事態宣言やロックダウンに近い緊急事態宣言を発出しなければならなくなるかもしれない。そんな時期に総選挙をすれば、国民の反発を買うだろう。
7月に開催される予定のオリンピック直前になれば、世界各国から選手団だけでなく、首脳クラスの来日もある。総選挙は、日本国民にとっては政権選択選挙であり、オリンピックよりも関心が高い行事だ。本来、日本国中でオリンピックを盛り上げなければならないのに、そんな時期に総選挙をすれば、オリンピックがかすんでしまう。世界各国に対しても、とても失礼な行為となるだろう。
もっとも可能性が高いゴールデンウィークの前か後(4月か5月)
4月に総選挙をするとなると、菅首相の訪米前か訪米直後に解散をしなければならない。しかし、下村政調会長が「4月解散総選挙」と発言したことに、二階幹事長が「解散は首相が決めることだ。軽々しく言うものではない」とくぎを刺し、菅首相の「訪米後の解散はまったく考えていない」という発言からすると、4月中の総選挙の可能性がかなり低くなっただろう。ただ、筆者は十分可能性はあると見ている。
その理由は、遅くなればなるほど、菅政権にとって不利な状況が生まれる可能性が高いからだ。今であれば、政権支持率や自民党支持率も下げ止まり感がある。しかも野党は、候補者を統一することもできておらず、あきらかに準備不足である。選挙公約として、菅首相が「まずは、持続化給付金や定額給付金の一律再給付をし、その後、売上規模によっての給付金も支給する」と表明すれば、選挙で負けることはないだろう。
日米首脳会談は、対中国やオリンピックなどの問題はあるが、日本側に恥をかかせることはしないはずだ。表面上は必ず成功裏に終わるだろう。4月から始まる高齢者向けワクチン接種も始まり、国民に安堵感を与えることもできる。菅政権にとっては、プラスの材料になるが、時間が経てば経つほど化けの皮が剥がれる可能性が高い。
ゴールデンウィークによるコロナのリバウンドが起きる前に解散総選挙をしたほうが、菅政権には都合がいいだろう。遅くなればなるほど、解散権のフリーハンドは狭められる。おそらく、オリンピック後に解散総選挙をすることはないだろう。
ただし、国民としては「コロナ対策の推移とオリンピックの結果を見て投票したい」という思いは強い。自民党総裁が誰になるのかを見てからでも遅くはないだろう。しかし筆者は、ゴールデンウィーク前後に解散総選挙が行われる可能性が高いと予想している。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)