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急病でも搬送先病院が見つからず死亡…大阪・兵庫が医療崩壊、大けがでも入院困難

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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少しやつれて見える吉村洋文大阪府知事

医療崩壊に突入した大阪と神戸

「絶対に交通事故には遭うなよ。入院も手術もしてもらえんままで死んでまうぞ」

 今や阪神間の若者の合言葉だ。4月25日から東京、大阪、兵庫、京都で実施される3度目の緊急事態宣言。今度は「酒類やカラオケを提供する飲食店に休業要請をする」という強烈な措置で、居酒屋などには致命的となった。

 背景には、大阪と神戸の「医療崩壊」がある。4月に入って感染者が連日1000人を超えた大阪府。4月20日に吉村洋文知事が政府に宣言を要請し、1日遅れで井戸敏三兵庫県知事、西脇隆俊京都府知事が要請した。吉村知事は「まん延防止措置では不十分」として独自の「医療非常事態宣言」を発令していたが、ウイルスはそれをあざ笑うかのごとく拡大している。

 大阪市では、40代の女性が感染し重症化したが、入院できず自宅療養のままだ。夫は「妻はおかゆも半分も食べられない。現場の人たちはこんなことになることはわかっていたはずなのに」とNHK番組に出演して訴えていた。70代の女性は新型コロナに感染して重症化し、救急車を呼んだが搬送先が見つからず、2日間も救急車で過ごした。90代の重症患者は24時間以上救急車に「閉じ込め」られた。

 4月22日、府は「府内の重症病床(272床)の使用率が100%を超えた」と発表したが、中等症病床で重症化しながら転院できない患者が、この時点で56人いる。実質的にとっくに100%は超えていた。大阪では入院待ちや調整中の患者が1万人を超えている。

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「変異株への対処法を示してほしい」と訴える井戸敏三兵庫県知事

京都も緊急事態宣言の対象に

 神戸市では、新型コロナに感染し「入院待ち」していた40代の男性が自宅で死亡した。PCR検査で陽性とされたが4月15日に体温が39度に達し、入院が必要となったのに、空いている病院がなかった。男性に基礎疾患はない。神戸市は「ここまで逼迫していなければ入院できていたはず」と医療崩壊を認めている。

 さらに一人暮らしの80代の女性が、入院できないまま死亡した。17日に感染が確認され、呼吸苦を訴え中等症と判断されたが、病床に空きがなく自宅待機となった。保健師が電話などで健康確認をしていたが連絡が取れなくなり、21日に自宅で亡くなっているのが見つかった。この女性は基礎疾患があった。

 このままでは新型コロナ患者だけではなく、急病や大けがでも入院できないケースが続出する。

 井戸知事は全県の感染者数が過去最高の567人となった4月23日の記者会見で、「医療が危機になっている」と表現したものの、「むしろ1月の緊急事態宣言の時のほうが、脳梗塞などで患者さんが多くて危機的だった」とし「崩壊している」とは認めなかった。

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地下暴落のミナミ

 重症化が早く、若い世代も重症化が例外でなくなった「変異ウイルス」は神戸からだった。今年1月、全国に先駆けてイギリス型の変異株が見つかっている。英国からの帰国者が持ち込んだとされたが、それが伝播したのかは不明だ。井戸知事は政府が緊急事態宣言を決定した4月23日の会見で「県や国の専門家会議でも、変異株について従来のウイルスとどのように違う対策をすればいいのかについて、具体的に提示してもらっていない」と不満を示していた。この日に感染者227人を記録した神戸市は、感染症とは因縁がある。2009年5月の全国的な「インフルエンザ騒動」のきっかけは、兵庫県立神戸高校の生徒の感染が判明したことからだった。

 一方、大阪や兵庫より感染者がずっと少ない京都府も緊急事態宣言の対象になったのは、観光地としてゴールデンウィークを控えているからだ。少し前まで、押し寄せるインバウンド(訪日外国人)に対する住民の苦情に悩んだ京都市。当時、門川大作市長は「京都は観光都市ではない」と怒ってみせた。新型コロナで閑古鳥が鳴き、「修学旅行に来てください」と全国の学校に泣きついた。そして今度また「京都に観光に来ないでください」である。

「五輪ファースト」の小池都知事に不信感

 東京都との人口比からすれば、大阪や兵庫の感染者数の突出ぶりは際立っている。しかし、関西では「東京がそんなに少ないはずない。オリンピックやりたいから検査数を少なくしてごまかしてるんやわ」(兵庫県西宮市の女性)など「東京不信」の声も根強い。

 小池百合子都知事は、いつも先行する吉村知事のコロナ対策を「様子見」して対応を図っている節がある。大阪は東京の「予行演習」なのか。1995年1月の阪神・淡路大震災では、東京発信の大手メディアは被災地の惨劇を伝えるより、「もし東京で起きれば」というシミュレーション的な内容が目立った。関西在住だった作家・藤本義一氏(故人)は、「東京はこっちの大惨事を自分らの予行演習のように思っとる」と怒っていたのを思い出す。

「東京には来ないでいただきたい」と、あたかも他地域から来る人たちが「加害者」で、東京が「被害者」であるかのように話す小池知事は「初めにオリンピックありき」という考え。カッコよく英語をしゃべる姿を世界に報じてほしいのだ。一昨年秋、国際オリンピック委員会(IOC)のコーツ調整委員長が来日した際も、テレビカメラを意識し、通訳を無視して英語を話した。IOCのバッハ会長が来日する5月17日までに緊急事態宣言を解除したい思惑が見え隠れする。

 東京の前回の緊急事態宣言の解除は、3月25日に福島県で聖火リレーがスタートするためだった。今回の期間は4月25日から5月11日だが、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は23日の国会で、「ステージ3にならなければ延長もありえる」と答弁した。ステージ3とは、「重症病床の占有率が5割以下」などである。「五輪ファースト」の小池知事や菅首相は、バッハ氏の来日までにどうごまかすのか。

「ミナミ」の地価は下落

 大阪や神戸でも大型商業施設やテーマパークに至るまで、人が集まるところは徹底的に「休業要請」。阪神タイガースは好調だが、甲子園球場も無観客、試合中止に追い込まれる可能性もある。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)も稼ぎ時のGWに再び涙を呑む。

 これまで大阪府は「クラスター」を中心に潰しにかかったが、今回は「人流」を止めにかかっている。しかし、ショッピングモール、百貨店など、ほとんどクラスターが発生していないところを休業させようとしていることには反発も強い。

「新型コロナと大阪」では、テレビなどでもっとも象徴的に映されるのが、道頓堀川沿いの「グリコ」の大きな広告などで知られる大阪市中央区の繁華街「ミナミ」だ。そのためだろう、道頓堀や心斎橋などの地価が2~3割も下落してしまった。影響ははかりしれない。

 今回、やり玉として挙げられた主たる「ターゲット」は「酒」だが、昨年の今頃、吉村知事や井戸知事が盛んにやり玉に挙げていたのはパチンコ店だった。今は話題にならない。新型コロナ対策、「ギャンブル」の次は「酒」というわけではないだろうが。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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