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東京都・学校図書館の民間委託を廃止させた都議に聞く(3)…民間委託加速の潮流に待った

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
東京都・学校図書館の民間委託を廃止させた都議に聞く(3)…民間委託加速の潮流に待ったの画像1
2020年9月30日第三回都議会定例会で一般質問に立つ米川大二郎都議

 3月23日、東京都議会予算特別委員会で、不祥事が続出していた都立高校・学校図書館の民間委託を廃止する方針が正式に発表された。

 民間委託されている128校のうち、2021年度末に満了する契約(86校)から順次終了。それらを直接雇用(会計年度任用)に切り替えていき、2023年度から、128校あった委託校はついにゼロとなる。受託業者からすれば、その瞬間に二十数億円の市場が露と消えることになる。

 ありとあらゆる公務の民間委託が急速に進められているなか、なぜ”逆流”が実現したのか。

 6月10日付記事『都ファ・米川都議に聞く…都立高校で横行、違法な民間委託の実態に単身で切り込む』に引き続き、”偽装請負”の問題を指摘し続けてきた都民ファーストの会所属の米川大二郎都議に、議会質問の影で繰り広げられていた当局との厳しい交渉の舞台裏を聞いた。

--昨年9月30日の一般質問によって、都立高校学校図書館の委託を見直す基本方針は内定したものの、その後は、なんの情報も出てこなくなり、かなり迷走しましたね。

米川大二郎都議 そうでしたね。僕も9月の時点で、いきなり委託を全廃することが難しいとわかっていました。そのため、ソフトランディングするには、まず今年3月31日で切れる分を切り替え、その後、契約が切れるごとに切り替えていく流れならいいかな、というつもりで待っていました。

 ところが実際は、待てど暮らせど何もの対応がありませんでした。11月くらいに、各局から財務局に予算要求をあげるんです。それが全部一覧になって発表され、それを受けて都立高校の業務委託はどういう予算要求をしたのかを聞いたところ、10校だけ退職のところを直接雇用に切り替えるという話がありました。

--都教委は、この時点では一部非正規雇用を入れるだけでお茶を濁すつもりだったのでしょうか。

米川都議 それはわかりませんが、まず今年3月31日までに退職者が出る10校についてのみ、直接雇用で会計年度任用にするというのです。そこで「それはおかしいのではないのか」「あのとき、違法と認めたではないか」「それなのに10校しか対処しないのはおかしいだろう」と迫りました。すると、「私たちは違法だとは思っていません」と言ってきました。”違法ではない”という認識だから、10校だけだということです。

--それでは、また振り出しに戻ったような感じですね。

米川都議 そうですね。でも、僕は違法の可能性があるということを、きちんと指摘したはずです。そこを変えていく方向だと思っていたけれど、全然違ったのです。向こうは、「とにかく10校だけはちゃんとやりますから」と言うばかり。

--そうすると、今年度末に切れる契約も、また3年延長するという話なのでしょうか。128校ある委託契約は1校も減らさずに、新たに委託導入するつもりだったところを一部、非正規の直接雇用を入れるだけでお茶を濁すということになってしまいますね。

米川都議 それも見据えてのことなのでしょう。とにかく、要求としては、10校分しか会計年度の職員採用をみていないのでしょう。

--それが11月のことですか?

米川都議 そうです。そして12月議会のときには何もなくて、では3月の予算議会でやってやるか、という決意を再度固めることになりました。そのとき僕は、「もう都民ファーストにはいられなくなっちゃうかもしれないな」と思いながら。

--そういうなかでも、ひとつ有利なことがあったそうですね。

米川都議 はい。昨年12月の第4回定例会から、都市整備委員会の委員長に任命されまして、そうすると100%、予算特別委員会に出席できます。一般の議員は、予算の賛否は最終日の本会議でしかできませんが、予算委員会に入ってしまえば、そこで予算の賛否を表明することができ、さらに本会議でもやりますから、2回ダメ出しするチャンスをもらうことになるわけです。

--都知事与党の第一会派議員が、都教委提出の予算案に反対するなど前代未聞。そこで立ち往生したりすると困りますよね。一方では都民ファーストの会としての対応に持ち込んだのですね?

米川都議 そうです。どうにも動かなくなったので年明けに、うちの党三役に話をしました。当初、あんまり動きが俊敏ではありませんでした。

--そこで、要求をまとめた「米川ペーパー」の原案を作成したのですよね?

米川都議 そうです。政調会長に、まずはこういう問題があるので、予算は認められません、というペーパーを出しました。つまり、このまま委託するのなら認められませんよとした文書です。これだけおかしなことをやっているのだと突きつけたのです。1月の半ばのことだったと思います。

 出したのは、知事、予算の財務局長、それと教育長。そこの秘書担当のところに全部持っていき、こういうことを問題視しているので、ぜひ渡して読んでほしいとお願いしました。これが読まれたみたいで、また、政調会長から「どういう形になったらいいのか、具体的な案を出してくれ」と言われました。それで正式な”米川提案”にしたんですよ。

--どのような提案でしたか?

米川都議 偽装請負をなくすため、業務委託の廃止、専任の司書教諭の配置などですね。学校図書館のあり方としては、養護教諭のようなものなので、本来は専任の司書教諭がいて、学校全体をみるべきなのですが、それは定数のこともあるので、各課程、定時制、全日制それぞれの課程に1名ずつ、司書教諭、学校司書を配置。あとは、図書館業務を監督指導する専任の組織の設置などです。

--それに対して都教委の対応は?

米川都議 まずは当初の予定通り、新規委託予定だった10校は、会計年度任用でやりますと。それから今年3月で切れる委託契約については、3年間長期継続契約をもう1回締結して、2024年4月1日から委託をやめるという方針でした。

--新たに3年契約を継続するんですか? 

米川都議 そうなんです。長期契約をもう1回行うとは知りませんでした。それをみて政調会長に、「おかしいじゃないですか。こんなのではのめませんよ」という話をしました。そうしたら単年度の契約に変わりました。これまでの、契約が切れるごとに直接雇用へと切り替えるというものです。この完了が最終的に、2023年4月です。

 焦点は、2020年度末(今年3月31日)で契約が終わるものの扱いをどうするかでした。一度に全部廃止してしまうという案もありましたが、そうではなく一度検証してからということになりました。

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米川都議が1月中旬に、教育長、財務局、都知事の各部署に提出した文書。 “都立高校学校図書館では、今日も違法行為は行われています”と過激な見出しが踊っていた。

--最後は、3月23日の締めくくり総括でしたね。都民ファーストの会の森村隆行都議がまとめて教育長に質問していますが、このときも事前にやりとりがあったのでしょうか?

米川都議 はい。こういうかたちで、こういうスケジュールでやります、となりました。あとは、各学校図書館の運営を支援する図書館コーディネーターの配置を検討する、研修も行う、コーディネーターも予算要求必要だけど入れる、となりました。1人勤務のところは、対応しない限り違法の可能性は残ったままなので、ここは絶対にダメだよと指摘し、追加契約で1人勤務の時間帯にもう1人入れることにしました。ここは特に肝となるところなので、念押ししたら「わかりました」と答えられました。

--そうおっしゃったのはいつですか?

米川都議 3月19日か20日くらいです。ペーパーを出してもらいました。向こうが書いてきたものを政調会長が受けて、僕がチェックして、「これなら問題ない、いいですよ」となりました。

 この時点では、都教委としては駆け引きもなくなっていました。「もし委託をこのまま続けるのなら、必ず反対するからね」と公言していましたので。

 ここまでくると、やはり生徒と教員がかかわる業務を、なぜ切り分けたのか、素朴に誰もが疑問に感じるレベルです。本当に費用が安くなるのかというと、なっていないんです。形だけ、学校図書館があるということならば、お金をかけないで、ビルメンテナンス業者に任せればいいでしょう。けれども、本当に教育機関の施設の一部として活用するのであれば、学校教育のなかで業務が分けられると発想すること自体が、教育を知らないんだろうと思います。

--その間、1月中旬には、委託化された都立高校に偽装請負の疑いで労働局の調査が入り、2月には都の定期監査によって、令和元年分として仕様書通り従事者を配置していない違反事例が報告されました。

米川都議 あれは大きかったですね。特に監査は僕が完全に見落としていたんですよ。監査事務局が普通に定期監査をしたら、たまたま違反がみつかったということです。

 本当は各学校へ行かないといけないところを、今年はコロナ対策のため、ひとつの学校に資料を全部集めさせて、そこで見ていました。契約資料や日報、月報などを出させてみていく方式です。

--来館者が多い時間帯に、契約通り従事者が配置されていないことが、よくわかりましたね。

米川都議 仕様書で2名配置になっていた時間帯に、日報には1人しか書いていない。それなのに完了報告書を出していたので、委託費は満額払われていました。指摘を受けたあとに、教育委員会は監査事務局に報告しなければいけません。それは全部返金させますということでした。

--全面勝利に終わりましたが、いま振り返って、ポイントはどこだったと思いますか?

米川都議 やはり去年の4月、仕様書が変わっていたことがわかったこと。あれで、内部情報がなくても、おかしいということが指摘できるようになりました。仕様書をよくみて、どこがおかしいかを言えたからです。もうひとつは2015年に東京労働局から偽装請負で是正指導をされていた事実があったこと。それを改めたにもかかわらず問題のある内容だったというのが大きかったと思います。

--今後の目標は?

米川都議 都立高校・学校図書館の件は、もちろん今回の件で終わりということではなく、委託は廃止されても、これから配置される学校司書は、立場の不安定な非正規雇用です。そのため、委託廃止方針が出たことで、これまで「マイナス100」だったものが、やっと「0.1」になったにすぎません。正規司書の採用や全課程への配置などは大きな課題ですので、これからも続けて取り組んでいくつもりです。

--ありがとうございました。

(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

これまでの流れ

インタビュー前編

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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