2021年6月上旬、新型コロナウイルスがそれほど猛威を振るっているようにはみえず、むしろ収束に向かっている東京では、だらだらと緊急事態宣言による営業自粛が継続しています。日本経済、とくに個人消費を蝕んできたコロナ禍もいよいよクライマックス。来月、東京五輪が開催されることで大きな節目を迎えます。
この記事では、東京五輪開催で日本にいったい何が起きるのか、これから2カ月後の未来を予測してみたいと思います。
1.選手村のクラスターは起きない
日本国民が東京五輪開催に反対してきた一番の理由が、海外から入ってくるウイルス変異種の影響です。15万人ともいわれる大会関係者が東京を訪れ、世界中から集まった1万人規模の参加選手が選手村という狭い宿舎に密集します。
選手村では酒の持ち込みも基本OKで、これまでのオリンピックの状況から想定すれば連日連夜、宴会が行われるでしょう。なにしろ東京五輪の選手村ではコンドームが16万個配布されるわけです。選手間の密な接触は防げないでしょう。
メディアの予想では、そこから選手たちが六本木などに繰り出して、ウイルスが都内に大量にバラまかれることを危惧しています。しかし実際にはそんなことは起きないでしょう。さらにいえば、選手村でのクラスター発生もないはずです。
理由は、この先、東京五輪参加選手にワクチン接種が義務付けられるであろうからです。これは参加選手の安全を考えれば妥当な政治判断です。たとえば柔道の試合でナイジェリアの選手とインドの選手が戦うとして、片方が試合中にひどい咳とくしゃみをしていたとします。相手は当然、審判団にクレームをつけることになります。そうなると審判団は難しい判断を迫られることになるわけです。
もちろん試合前に体温は測っているわけですが、無症状の感染者はそれなりの強力さでウイルスを感染させることが広く知られています。競技を成立させるためには、やはり参加選手へのワクチン接種は不可欠でしょう。仮に必要なワクチンの数が2万回分だったとしても、高齢者枠から融通するワクチンの量にしてみれば、わずかな量。大会の安全の大義のもとに、選手へのワクチン接種を国は強行するはずです。
そもそも組織委員会としては参加者にワクチン接種証明書を義務付けたいところですが、今、世界では先進国にしかワクチンが供給されていない。そのことを考慮すれば、接種証明書ルールは途上国に対する参加拒否と同じです。結論として1回目のワクチンは選手団分をあらかじめそれぞれの国へ日本が贈り、2回目のワクチンは東京で接種を行うことになるでしょう。
にもかかわらず仮に入国する際にコロナに感染していた選手がいたとします。確率的には参加選手1万人の中で数名から十数名は陽性者が出現すると思います。しかし感染が危惧されるほかの選手たちがワクチンを接種すれば、二次感染は抑えられる。いいかえると、いくら選手村でどんちゃん騒ぎが行われたとしても、選手村は危惧されるようなクラスター源とはならないのです。
2.オリンピック開催期間に東京の感染拡大が起きる
一方で東京五輪開催の結果、日本ではこの夏、新型コロナ感染の第5波が起きるでしょう。理由は観戦ではなく、政府が6月20日、五輪開催の1カ月前に緊急事態宣言を解除することになるからです。
政府が4月25日からここまで緊急事態宣言を長引かせている最大の理由は、五輪中止論を抑え込むためです。ここまできて世界各国に対していまさら中止は宣言できない。だとすれば世論ももう後戻りできない直前のタイミングまでは万全を期しておきたい。そのための緊急事態宣言の継続が現在進行形で行われているのです。
しかし7月に入ってもまだ緊急事態宣言が継続しているようだと、今後は逆に海外の主要国から五輪の強硬開催に関してクレームが入る危険性がある。ですから6月下旬には予定どおり、安全宣言をして緊急事態宣言を解除する必要があるのです。
その結果、繁華街に人が戻ります。居酒屋では当然のようにアルコールの提供が再開されますし、百貨店も営業を完全に再開します。去年の7月と同じ状態に東京の街は戻ることになります。
では去年の7月、東京で何が起きたでしょうか? 7月2日から新型コロナ感染者数は3桁に増加し、7月末から8月頭をピークとするコロナの第2波が東京を襲ったのです。
要するに感染を拡大するのは五輪ではありません。無観客で行うか、それとも観客数を減らして行うかが今、関心を集めていますが、そもそも観客数を減らして開催しているプロ野球もJリーグも、これまで新型コロナのクラスター源にはなっていません。感染は競技場で起きるのではなく、街中で起きるのです。
ですからオリンピックの開会式が行われる7月23日頃は、都民にとっては不安な状況になっているはずです。昨年と同じことが起きると仮定すれば、国内の新規感染者数のグラフは増加に転じて、形としては明らかな第5波を形成している。にもかかわらず政府は安全なオリンピックの開会を高らかに宣言するのですから。
3.パラリンピックに中止の危機
さて、このように第5波が日本を襲う7月下旬に、まだ誰も指摘していない新たな衝撃が起きる可能性があります。五輪開催から数日後に、日本政府が急遽、パラリンピックの中止を世界に向けて要請するという予測シナリオです。
このような相反することを政府が決断する場合、論理的な論陣をきちんと張る必要があるのですが、一言で言えば、オリンピック開催を決断したときとは状況が変化したということがその理由になるでしょう。新規感染者が増加に転じ、再び病床が逼迫する中、まずは五輪開催中に緊急事態宣言が発出される。それと同時に、8月24日に開会を予定しているパラリンピックはその状況の危険性を鑑み、中止を決断する、ないしは開催規模を大幅に縮小するという予測です。
身も蓋もないことをいえば、政治家が恐れているのはIOCによる賠償です。その巨額さと比較すれば、パラリンピック中止や縮小による賠償は政府予算で十分にまかなえる規模になる。賠償を恐れるよりは、国内の不満や不安を恐れる局面になるわけです。
このような予測について不快感を感じる読者も多いと思いますので、未来予測に関する私のスタンスを述べておきます。私が未来予測をする最大の目的は、そのようなリスクが存在していることを提示することで、未来のリスクを回避することです。
弱者の利益を軽んじる政治家がいることは事実。そのような未来を回避したいのであれば、五輪熱狂の陰でパラリンピックに魔の手が伸びないように監視の目を強めていくべきです。
4.日本経済は徐々にアフターコロナの局面へ移行
さて、たとえそのような未来になったとしても、オリンピックはコロナで傷ついた日本経済を癒やすには十分な、景気浮揚効果を生み出すでしょう。なにしろいったん開催されれば、日本国民はオリンピックに熱狂します。そして地元の声援を糧に、多くの日本人金メダリストが大きな感動を生み出してくれるでしょう。
そしてこの夏、第5波が荒れ狂う中で日本人は徐々に気づいていくでしょう。死者数が恐れていたほど増えていないことに。この夏までに65歳以上の高齢者への無料ワクチン接種は、ほぼほぼ完了するはずです。そうなるとどうなるかというと、高齢者の発症率がこれまでの5%にまで下がることが期待されます。そして新型コロナのこれまでの死者の95%は60代以上の高齢者層ばかり。つまり高齢者へのワクチン接種完了を境に、コロナの死亡リスクは非常に小さいものへと変わるのです。
こうして五輪も無事終わり、コロナの感染者は増加しても、医療機関は医療崩壊危機からは解放されるようになり、日本経済は徐々にアフターコロナの局面へと移行していくことになる。これが東京五輪が開催される今年の夏に起きると予想される一連の出来事なのです。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)